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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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立っているだけで精一杯です

 戦闘が起こっている謁見の間に、カノートさんが入って来た。

 と、思ったら、いつの間にか俺の隣に居る。

 ……あれ? 全然動きが見えなかったんだけど。


「アドル様たちから、アキミチ君の事を託されてね。無事で良かった」

「はぁ。え? アドルさんたちから?」

「今は謁見の間に侵入しようとしている、愚かな騎士と兵士たちの相手をしているよ。どうやら、その中に人の姿に化けた大魔王軍も居るようで、全部片付けるとなると時間がかかりそうだったので、私が先行したという訳さ。……ここも同じような状況のようだしね」


 そう言って、カノートさんが周囲の様子を窺った。

 王様と姫様の姿を捉えた時、どことなくホッとしたように見えたのは、きっと気のせいではないと思う。

 その他の人たちには興味なさそうだったけど。


 そして、俺が対峙していた四枚羽を確認する。


「アドル様たちが言っていたように、凄いね。アキミチ君は」

「……え?」


 俺に視線を合わせてきたカノートさんの表情は、自然な笑み。

 嘘偽り、お世辞、おべっか、ではなく、本当に凄いと思っている事を理解させられる。


「アレを相手にして、ここまで無傷だなんて」

「いやまぁ、聞いているかどうかわかりませんけど、俺は攻撃力皆無の回避特化なんで、一発でもまともに当たれば終わりだからこその無傷というか。それに、向こうも全然本気じゃなかったと思いますよ?」

「先ほどの雷は、それなりに本気だったと思うよ。私が防がなくても、アキミチ君なら避けられたんじゃないかな?」


 いや、それはさすがに。


⦅いくつかの回避行動候補が存在していたのは事実です⦆


 う~ん。さすがセミナスさん。

 沈黙を肯定と受け取ったのか、カノートさんが四枚羽に視線を向ける。

 肯定だったけど。


「お前もそう思うだろう? ねぇ?」

「過ぎた事に興味はない。それに、私がこうしてここに居るのは、貴様に対抗するために、アレが呼びつけたからこそ」


 四枚羽がアレ――未だ階上に居るウラテプを指し示す。

 ……いや、なんでまだそこに居るの?


 ………………。

 ………………。

 あっ、至るところで戦闘が起こっているから、逃げ道がなかったのか。

 納得。


 まぁ、ウラテプの出番は終わっているようなモノだし、後処理はこの国の人たちに任せれば良いだけなので、もう放置しておいても良い気がする。

 なので、注目すべきは、カノートさんの方だ。


「……なるほど。私に対抗するために、ですか」


 カノートさんが、床に突き刺さっていた槍を引き抜いて構える。


「そうそう対抗出来るような存在ではありませんよ、私は」

「そういうセリフは、最後に立っていればこそ許されます」


 四枚羽が手を振るえば、三つの雷の玉から、再び広範囲の雷が迸る。

 狙いはもちろん、カノートさんだ。

 カノートさんは真正面から突っ込み、迫る広範囲の雷に対して、弧を描くように槍を動かしてかき消した。


 ……何あれ? 漫画みたいな事したけど、どうなってんの?


⦅武器に魔力を通して強化補強しつつ、自身にも魔力を流して身体強化と同時に保護を行っています。ただ、適切以上の魔力を流さなければ意味がありませんので、その見極めが出来なければいけません⦆


 えっと、つまり……俺は出来そうにないって事か。


⦅いえ、可能です⦆


 ………………。


⦅………………⦆


 え? 出来るの?


⦅私のサポートがあれば、そこの槍使い以上の完璧な出来で可能です⦆


 改めて、セミナスさんは凄いと思いました。

 でも、ちょっと待って。

 それなら、どうして俺は避け続けていたの?

 同じような対処が出来るんだったら、そっちの方が見栄えが良かったと思うんだけど?


⦅そもそもの前提条件が違います。武器も所持していませんし、魔力量にも差があります。同規模の攻撃に対して同じような事をした場合、現在のマスターだと出来て一、二回ですので、有効な手段だと言えません⦆


 常用出来ない訳ね。

 それなら、避け続けた方が良いのは間違いない。

 寧ろ、それ以外の選択はない。


⦅そろそろ激しくなりそうですので、もう少々お下がり下さい。余波に巻き込まれます⦆


 了解。

 スタミナが限界近いので、他の救援どころか立っているので精一杯だけど、セミナスさんの指示通りに、目の前で繰り広げられている戦いから、もう少しだけ距離を取る。


 今はまだ、互いに様子見だとわかるような立ち上がり方のままで、四枚羽は雷だけではなく、俺に使った火の玉も更に数を増やして放っていたが、カノートさんはその全てをかき消しながら、四枚羽との距離を測っているような感じだ。


 四枚羽との距離がある程度近付くと、カノートさんは一気に突進する。

 速度はそれほどでもなかったのだが、突進力が凄まじい。

 近付けさせないと、四枚羽は火の玉と雷だけでなく、突風を発生したりしていたが、カノートさんの速度はそれでも落ちず、なんでもないように突き進んでいく。


「……ふっ」


 短い呼吸と共に、カノートさんが槍を突き出すが、四枚羽との間に土壁がせり上がる。

 それでも、カノートさんは止まらない。

 槍がドリルのように回転したかと思うと、そのまま土壁を貫通した。


「ちぃ」


 四枚羽が即座に後ろに下がったので当たらなかったが、押しているのはカノートさんの方に見えた。

 カノートさんが土壁から槍を引き抜き、多分だけど、空いた穴から四枚羽を見ているような気がする。


「どうしました? 私に対抗するために、ここに居ると言っていたと思うのですが?」

「そう結論を急がなくても良いのでは? まだ戦いは始まったばかり。様子見の段階ですよ」

「なら、様子見のままで終わらせてあげますよ」


 カノートさんが槍の穂先で土壁を根元から斬り、四枚羽に向けて蹴り飛ばした。

 四枚羽は、迫る土壁を片腕で後方に逸らし飛ばす。

 ……ウラテプに当たりそうになっていた。

 当たれば良かったのに。


 カノートさんと四枚羽の戦いは、そこから更に激しさを増していった。

 段々と動く速度を上げていくカノートさんに対抗するように、四枚羽も手数を増やして牽制している。

 時折、一気に速度を上げたり、巨大な火の玉を放ったりと、互いに緩急を付けてはいるようだ。


 そうこうしていく内に、明確な差が出てくる。

 カノートさんの方が押してきたのだ。

 槍の穂先が、四枚羽の体をかするようになっていった。

 このままいけばカノートさんの勝利だと思ったのだが……そのカノートさんが一瞬だけ、芳しくない表情を浮かべる。


 焦り、というか、これは不味い事になった、とか思っていそうな表情だった。

 何故そんな表情を浮かべたのかがわかったのは、カノートさんの攻撃が四枚羽の体を捉えるようになってから。


 攻撃が当たっても、大したダメージになっていないのだ。


 当然、食らっている本人なのだから、四枚羽もその事に気付く。


「はははっ! どうやら、運が味方をしたのは私の方だったようだね」


 カノートさんはその言葉に反応していなかったが、四枚羽は勝ち誇ったような表情を浮かべた。

 どうやら、不味い状況に陥ったようだ。

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