これが俺の戦い方です
二枚羽が羽を広げ、俺の上空を飛び越えて後方に向かう。
王様と姫様を守るため、近衛騎士たちが武器を構えた。
先頭の二枚羽が一気に下降して襲いかかる。
「生温いわっ!」
近衛騎士の間を縫うようにして前に飛び出した王様が、ゲンコツで殴り飛ばした。
「ぬぅ。大剣を持って跪いておけば良かったな」
「お父様。それは神に対して不敬かと。それに、私だって武装していません」
そういう姫様の方は、襲いかかって来た二枚羽に対して、カウンターのように肘打ちを食らわせていた。
王様の方は見た目通りの戦える人っぽいけど、姫様の方はそんな見た目じゃないけど、アレだな……なんだかんだと父娘という事だろう。
どことなく活き活きしているように見えるのは……きっと気のせいだと思いたい。
ウラテプに武力じゃないやり方で追い詰められそうになっていたところで、最後はこうして戦いになって、今までの憂さ晴らしをしている訳じゃないよね?
でないと、この国の将来が心配だ。
いや、こういう場合って、周囲の人たちがなんとかしないとって思い、後々優秀な人材に育っていく事が多いだよな。
現に、近衛騎士たちも奮闘しているし、多分大丈夫だろう。
その他と化している貴族たちも、自衛は出来ているようだ。
それでも、やっぱり、二枚羽をなかなか倒せないのは、所持スキルに対応する神様が解放されていない事も関係しているのかもしれない。
……神様解放、頑張ろう。
あとは、エイトと神様たちだが……特に心配していない。
「右! 右! 右から私に向かって来ているのを頼む!」
「違う違う! 先に左の方を迎撃しないと僕がやられちゃう!」
「エイトはもう見捨てても良いような気がしてきました」
………………うん。大丈夫。
なんだかんだ言っても、エイトはやれば出来る子のはずだ。
「閃きました。盾として消費してしまえば、エイトはご主人様の下に行けます」
「なんて恐ろしい事を!」
「僕たち、紙耐久だから盾にならないよ!」
そういう意味での、やれば出来る、じゃない。
なんか不安になってきたけど、俺もそんなに余裕はなかった。
「余所見とは余裕の表れですか?」
「だから、そんな余裕はない!」
俺に向けていくつもの火の玉が飛んで来る。
⦅ジャンプ、上体逸らし、右回転……起き上がって、右にサイドステップ⦆
セミナスさんの指示通りに動き、迫る火の玉をなんとか全て回避。
今のは、ちょっと危なかった。
段々シビアになってきているな。
「今のも避けますか。どうやら、回避能力は相当高いようですね」
視線を前に向ければ、にやついた感じの笑みを浮かべた四枚羽が居る。
俺と四枚羽の戦いは、正にワンサイドゲームだった。
もちろん、主導権は向こう。
二枚羽が俺以外を襲い始めると、四枚羽が俺に向かって魔法で火の玉を放ってきた。
セミナスさんの指示で回避し続けていると、火の玉の数が段々と増えていったのだ。
……どことなく、遊ばれている感がある。
俺も反撃に出ようとして、アイテム袋の中に手を突っ込んで武器を探す。
そこで気付く。
この中に入っていた武器類、全部、救出した騎士と兵士たちに渡したんだった。
………………頑張って回避し続けるしかない。
まぁ、それでなくても、まともにやり合えば、手も足も出ないで負けるのは確実。
それぐらいの戦力差があるとわかるのは、俺の成長の証なのかもしれない。
⦅安心して下さい。ゆっくりとした歩みですが、一歩一歩確実に、マスターは成長していっています。多少ですが、前よりも余裕を持って、私の指示を受けていられるのがその証拠⦆
……そうかな?
前とそう変わらないと思うけど……セミナスさんは、俺よりも俺の事を知っているみたいだ。
⦅おはようからおやすみまで、マスターの暮らしの全てを監視……見つめる、セミナスさんです⦆
……恐ろしいと思うのは、きっと俺だけじゃないと思う。
というか、なんか最近、似たような事を言われた気がする。
⦅いいえ、汎用型と違い、私と通じ合っているのはマスターだけですので、そう思うのはマスターだけ。つまり、客観的に見れば、私の方が正しいのです⦆
そっか。
………………あれ? なんか釈然としないというか、はぐらかされたような気が。
⦅上空注意。敵の攻撃手段が変化します⦆
え? と視線を上に向ければ、そこにパチパチと弾けている大きめの玉が浮かんでいた。
「……あれは?」
「趣向を変えて、次は雷の玉にしました。私の暇潰しのために、上手く避けてまだまだ楽しませて下さいよ」
四枚羽が、パチンと指を鳴らす。
すると、空中に浮かぶ大きめの玉から、こちらに向けて雷が迸って来る。
⦅雷に対して左側面を正面に。背筋を伸ばし、四十五度おじぎ⦆
えっと、横向いて、しゃんと背筋を伸ばし、おじぎ。
雷が目の前を通り過ぎていった。
………………。
………………普通に怖かった。
四枚羽が笑い声を上げる。
「はははっ! 面白い避け方をしますね」
「うるさいっ! そう思うなら、攻撃方法を変えろ!」
「いえ、本当に愉快でしたのでもう一度お願いします」
もう一度で終わらなかった。
何度も何度も雷を放ってきやがったが、セミナスさんの指示通りに動いて、なんとか回避し続ける。
ただ、ちょっと気になるのが――。
⦅K、I、A、Y、F……⦆
セミナスさんの指示が文字になっている事だ。
いや、体でその文字を表現すれば、回避出来るというのはわかるんだけど……更に変な避け方になっていない?
⦅効率です⦆
そうかもしれないけど……。
「はははははっ! ははっ! はははっ!」
四枚羽、大爆笑である。
腹抱えたり、膝をバシバシ叩いたりしていた。
「いやいや、もしかしてですが、私を笑い殺すつもりで、そのような避け方をしているのですか?」
失礼な! 大マジだよ!
でも、このままだと不味いのはわかる。
何しろ、俺に四枚羽を倒す術はない。
周囲も、二枚羽が思っている以上に奮闘しているため、救援に駆けつけるのは難しいだろう。
このままだと、先に駄目になるのは……俺だ。
スタミナ的な問題で。
その証拠に、段々と全身が汗を掻き、呼吸も荒くなってきている。
⦅集中を切らさずに。もう少しですので粘って下さい⦆
あいよ、セミナスさん。
頑張ります。
ただ、さすがにここまで避け続けていると、さすがに向こうが焦れてきた。
プライド故かどうかはわからないが、攻撃方法を変える気はないらしく、雷の範囲を拡大したり、逆に狭めたり、速度も緩急をつけ始める。
それでも、セミナスさんに通じない。
即座に打開策を提案してきて、俺はその通りに動いて回避し続けた。
攻撃力がない身は辛い。
「……愉快な姿を晒してまで、よく頑張りますね」
挑発のつもりなのか、そんな事を言ってきた。
いや、俺の集中を切るためかもしれない。
どうでも良いけど。
この世界に来てから、まともに食らえば終わるような戦いしかしてこなかった俺が、そう簡単に集中を切らすとは思わないで欲しい。
だからこそ、俺は大量の汗を拭い、精一杯の笑みを浮かべて言ってやる。
「あぁ、これが俺の戦い方なんでな」
「ただ避けているだけで、反撃も行わないのが、戦い方だと?」
「あぁ。相手に勝つのが俺の戦い方じゃない。……生き残るのが、俺の戦い方だ」
その言い方が気に食わなかったのか、四枚羽が歪な笑みを浮かべる。
「なら、生き残ってみるが良い」
四枚羽が手を上に掲げる。
雷の玉が一つから三つに増え、それぞれから同時に雷が放たれた。
広範囲に波状し、範囲外に逃げる時間もなし。
そもそも、そんなスタミナもあるかどうか。
……あれ? もしかして、余計な事を言って、詰んだ?
⦅いいえ、間に合いました⦆
セミナスさんがそう言うのと同時に、槍が飛んで来て、俺の少し前方の床に突き刺さる。
その槍が、迫る雷を避雷針のように全て受け止めた。
「間に合ったようですね。恩人を死なせる訳にはいきませんから」
声が聞こえた方に視線を向ければ、謁見の間の扉を開けて、中に入って来ているカノートさんが居た。




