あれ? 発表会じゃなくなりそう
謁見の間に居る人たちからの集中視線を受けて、ウラテプはどこか戸惑っているように見える。
追い詰められているなぁ……ってのが、見てわかった。
でも、そんな中、金髪美人女性の視線だけは、俺にロックオン!
……正確には、俺が手に持っている証拠の書類にだけど。
これ、そんなに欲しいのかな?
⦅喉から手が出るほどに、でしょう⦆
そんなにかい?
どうしてそこまで……と考え始めたところで、ウラテプが口を開く。
「……やれやれ、どのような手法を行うかと思えば、そのような稚拙な偽造文書を持ち出してくるとは」
なんだと!
これのどこが偽物だっていうんだ!
「それに、そもそもの話ですが、私のような高貴な身分の者と、貴様のような劣等な平民の言葉を比べた場合、どちらが世に信じられると思っているのですか?」
うわ~、なんか典型的なヤツだな。
大切なのは、どっちの言葉じゃなくて、この書類の信憑性だろうに。
もちろん、本物ですけど。
でも、こういうのって気を付けないと揉み消されたりする場合があるから、しっかりとした人に渡さないといけないんだよね。
⦅その書類を物欲しそうに見ている者に与えれば良いでしょう⦆
それってつまり、金髪美人女性の事かな?
⦅はい⦆
……書類を見る目が怖いんですけど?
もの凄い目力を発揮しているけど、本当に大丈夫?
⦅寧ろ、一番効果的に使って頂けるでしょう⦆
こういう時のセミナスさんの冷静な判断は、非常に助かります。
「どうしました? 黙ってしまうという事は、漸く気付いたという事ですか。己の愚かさに」
違います~。
セミナスさんと会話していたんです~。
というか、わかっていないというか、そもそも伝えていないので、そこら辺をしっかりと教えてやろうじゃないか!
魔法使い部隊と盗賊集団に関する書類はともかく、バッグラウンド商会の書類に関しては、しっかりと真実であると証明してくれる神様が居る事を。
「安心して下さい。この書類は全て真実であると、商売の神様がちゃんと証明してくれます」
他の書類も巻き込んだけど、別に良いよね?
『………………』
何故か、またもや場が静まり返った。
え? あれ? 別に変な事は言っていないけど?
困惑していると、ウラテプが高笑いを上げる。
「ふはははははっ! やはり、劣等な平民は変わらず愚か者という事を証明してしまいましたか!」
「はぁ? 別にそんな事を証明していませんけど?」
「いいえ、証明しました。その書類の証明は、商売の神だと」
「その通りだけど、それが?」
ウラテプが見下したような視線だけじゃなく、嘲るように口角を歪める。
「無知な者に教えてあげます。現在、神は全て封印されているのです。故に、商売の神による証明は、成立しないという事です」
と言って、最後は勝ち誇った顔を浮かべた。
俺は呆れ顔。
いや、もう復活しているんですけど……。
あっ、待てよ。
そういえば、復活した事を積極的に広めていない、みたいな事を言っていたから、知らなくても不思議じゃないか。
でも、どっちが無知だよ、と笑ってやりたい。
ただ、金髪美人女性も含めて結構な数の人たちが、ガッカリしたような雰囲気が醸し出されている。
………………。
………………。
えっと、なんだったら、商売の神様をここに連れて来ようか?
直ぐは無理だと思うけど。
⦅問題ありません。時間調整は万全です。そろそろ到着します⦆
え、何が? と思った瞬間、扉から、まるで何かをぶつけたような大きな音が響く。
視線を向けると……何も起こっていない?
いや、ゆっくりと扉が開かれて、中に入って来たのは――。
「ほら~、だから言ったでしょ。貧弱だからやめておきなって。そういう演出がしたいなら、僕がやってあげたのに」
「くっ……久し振りにブラック商会を潰して、テンションが上がり過ぎただけだ」
「あぁ、なんか活き活きしていたもんね」
「………………」
武技の神様と商売の神様だった。
無反応のエイトも一緒に居る。
神様たちがここまで来るのを手伝ったのかな?
ただ、商売の神様は、片方の足を労わっているように見えた。
………………。
………………。
多分、商売の神様が、勢いに任せて扉を蹴破ろうとして……失敗というか、出来なかったんだろうな。
ほんと、見た目と違って武闘派じゃないんだね、商売の神様。
そんな商売の神様と武技の神様が俺の横に並んできたので、そのまま流れで紹介しておく。
エイトは控えるようにして後方に居る。
そうしていると普通のメイドにしか見えないから不思議。
「えっと、こちら、商売の神様と武技の神様です」
「どうも、商売の神だ」
「やっほー! 武技の神だよー!」
『………………』
しー……ん。
誰からも反応がない。
即座に、俺、商売の神様、武技の神様で円陣を組む。
「ちょっ、どういう事ですか? 神様だって言っているのに、全然信じていないみたいですけど?」
「それはこっちが聞きたいくらいだ。もっとこう、名乗れば自然と敬われると思っていたのだが?」
「全然だったね。これは想定外だよ。何が駄目だったんだろう………………どうしよっか? アキミチと商売のに任せるよ」
「「お前も一緒に考えるんだよ!」」
なんか、触れ合えば触れ合うほどに、ポンコツ化していっているような気がする。
駄目だ、この二柱。
「むっ……何故、呆れたように私たちを見る」
「駄目だよ。僕たちをそんな目で見ちゃ。アキミチは僕たちが神様だって知っているでしょ?」
「………………」
「「更に呆れた目になった!」」
やっぱり、普段もだけど、こういう時も頼りになるのは、セミナスさんだよ。
……どうすれば良いの?
⦅仕方ありませんね。そこの神共が泣いて土下座し、『自分たちは無能です。セミナス様にはどう足掻いても敵いませんので、どうか慈悲を与えて頂く事は出来ないでしょうか?』と、心の奥底から言えば、その願いが叶うかもしれません⦆
こっちはこっちで超強気!
しかも、叶うかも? なんだ。
そういうのって、高確率で叶わないヤツだよね?
⦅叶えるとは言っていませんので、問題ありません⦆
叶えない気満々!
⦅まぁ、このまま沈黙し続けても状況は改善されませんので、話を進めます。この世界の神には『神気解放』という能力が備わっています。時間制限はありますが、使用時は己の神能が三倍になるという、一種の自己強化技です⦆
……神能?
⦅神能とは、その名の通り、神の能力。己の名に関する能力全般にあたりますので、つまり商売の神であれば、商売に関する能力が神能となります⦆
名前がそのまま能力を示しているのね。
で、それが?
⦅『神気解放』を行った場合、神能の力の上昇に合わせて、神としての存在感も増しますので、そこの神共が神であるという証明に使えるでしょう⦆
なるほど。
商売の神様と武技の神様に、その事を伝える。
その手があったか、と手を打つが、商売の神様が気まずそうな表情を浮かべた。
「どうかしましたか?」
「いや、ついさっき……ブラック商会の書類を確認する時に……その……使ってしまって……」
しばらく使えない、と。
「「………………」」
「あの……頼むから、興味を失ったような目で見ないで欲しいのだが………………ごめん」
大丈夫だよ、商売の神様。
書類の正当性の証明とか、バッグラウンド商会の悪事を暴いたとか、商売の神様は既にやるべき事が終わっているんだもんね。
だから、「神気解放」は武技の神様に任せよう。
という訳で、武技の神様が「神気解放」を行った。
確かに、なんかこう……オーラみたいなモノを纏っているような……で、存在感も神々しくみたいな………………あやふやな感じ?
でも、確かに、そこに居る! って感じが強くなった。
その効果は劇的で、謁見の間に居る多くの者が跪いていく。
王様っぽい偉丈夫と金髪美人女性も、わざわざ階上から下りて来てから、他の人たちと同じように跪いた。
えっと……俺も跪いた方が良いのかな?
あっ、エイトも立ったままなんだけど?
⦅直ぐに動けた方が良いので、そのままで居て下さい⦆
なんか不安になる言い方なんですけど。
ただ、例外は俺とエイト以外にも存在していた。
階上に残っているウラテプも立ったままなのだが、それ以外にも数人が跪いていない。
しかも、ウラテプ以外は、射殺さんと言わんばかりに武技の神様を見ている。
あれ? なんか思っていた展開と違うような気が……。




