言い切っちゃったよ
アドルさん、ウルルさんとの待ち合わせ場所は、王城の門前。
まだ辿り着いていない。
このままでは、それなりの時間がかかってしまう。
迷った……訳ではない。
バッグラウンド商会の建物から、王城に向けて一直線に向かった先は、王城をぐるりと囲む大きく高い壁。
うん。王城の全景が見えなくなってしまった。
ここから左と右……どっちに行けば近いんだっけ?
わからない。
ちゃんと見て覚えておくんだった。
少し後ろに下がって確認を……。
「ご主人様。どちらに進めば良いのですか?」
「早く王城の門前に向かいましょう。アドル様とウルルが待っているかもしれません」
何故俺がリーダーみたいな立ち位置に?
………………。
………………。
んんー、じゃあ、右で。
遠回りっぽい感じになった。
ちょっとね、ちょっと。
王城の城門前近くに来た時、アドルさんとウルルさんの姿を見つける。
くっ、出遅れた。
……いや、向こうが早過ぎただけなのかもしれない。
………………。
………………。
「ごめ~ん、待ったぁ~?」
なるべく明るい雰囲気を醸し出し、手を振りながら向かう。
「いいや、待っていないよ~」
アドルさんが笑みを浮かべながら、そう答えてくれる。
で、合流した瞬間、アドルさんが耳元でボソッと呟く。
「……目立つような事をしてどうする?」
「ですよね」
ごめんなさい、と謝っておいた。
で、近くにあった建物の物陰に隠れて、互いに得た情報を交換。
ふむふむ……。
現役騎士や元騎士、兵士で構成されている盗賊集団って……この国、大丈夫なのかな?
あっ、大丈夫じゃなくなりそうだから、今どうにかしているのか。納得。
インジャオさんはどう戦ったのかをウルルさんに説明しているのだが、当のウルルさんは何故かうっとりしている。
そんな要素、あっただろうか?
「……タロッタ・ウラテプか」
こちらの情報を聞いたアドルさんが、そう呟く。
「知っているんですか?」
「………………いや、なんとも言えん。どこかで聞いた名のような気もするが……駄目だな。思い出せん」
念のために聞いてみたが、ウルルさんも知らないそうだ。
まっ、このあとわかる事だから、特に気にしない。
「それで、このあとの事だが……ここにこうして集まった以上、これから向かう先は王城内という事で間違いないのだな?」
アドルさんが確認するように尋ねてくる。
さすがに王城だし、最終確認的な事かな?
⦅真正面から堂々と、襲い来る騎士、兵士を叩き潰しながら、王城内……謁見の間へと侵攻します⦆
だ、そうで……いや、ちょっと待って。
真正面から堂々と行けば、そりゃ騎士や兵士に襲われるよね?
それをやっちゃうの?
さすがにそれは、かなりの問題にならないだろうか?
⦅問題ありません。現在、秘密裏に行われた事ですが、王城内に配備している騎士と兵士たちの大半は敵です。どうやら、万が一の場合はそのまま占拠する予定のようですね。こちらの味方となる騎士と兵士たちが、王城地下の牢屋や特定の室内に閉じ込められていっているようです⦆
もっと大変な問題が起こっていた!
というか、え? 進行中なの?
⦅はい。現在進行中です。ですので、そこの吸血鬼たちと協力して、味方となる騎士と兵士たちを解放しつつ進む事を推奨します。マスターの安全性向上のためには、盾はたくさんある方が好ましいですから⦆
……盾って言っちゃったよ。
⦅他に表現の仕様がありません⦆
言い切っちゃったよ!
この……正直者!
⦅マスターに嘘は吐きません⦆
そういう場合、はぐらかしたり、黙ったりするだけなんだよね?
⦅………………⦆
………………。
よし。急いだ方が良いみたいだな。
という訳で、アドルさんたちにも王城内で起こっている事を伝えて、早速行動に移る。
◇
「ふんっ!」
「よっと!」
「えいっ!」
アドルさんたちが、軽い感じで王城の門を守っていた兵士たちを一撃で倒した。
いやぁ~、あまりにも簡単にしていたけど、やっぱり強いんだね、アドルさんたちって。
ちなみに、エイトは俺の護衛として、隣を陣取っている。
「楽しくなってきたな」
「他国の王城を真正面から潰すのは初めてですからね」
「滅多に起こらない事なんだから、楽しんでいこ~!」
う~ん、娯楽。
アドルさんたちにとっては娯楽でしかないのかもしれない。
俺なんて内心ビクビクしているのに。
「それでアキミチ。まずは囚われた騎士と兵士たちを解放するのだろう? 先頭に立って行き先を示してくれなければ、さすがに迷う事になるぞ」
「そうですね。何しろ、最大敷地面積を誇る王城ですので、内部は複雑ですから」
「大丈夫! ちゃんと私たちが守るから。私たちがそこらの騎士や兵士には負けないって、わかっているでしょ?」
……後ろじゃ駄目なんだろうか?
先頭って、最初に狙われる位置だと思うんだけど?
だから後ろに……いや、待てよ。
後ろは後ろで、援軍や後詰めが来る可能性がある、か。
……じゃあ、真ん中で!
と、提案しようとしたのだが、目の前に誰も居ない。
足元には気を失っている兵士たち。
じゃあ、アドルさんたちは?
………………既に俺のうしろを陣取っていた。
つまり、俺が先頭になっている。
「……大人ってズルい」
「「「まぁまぁまぁ」」」
「じゃあ、先頭はエイト」
「申し訳ございません。メイドとして、ご主人様の先を進む事は出来ません。メイドはただ、ご主人様のあとを付いていくだけでございません」
おっと、いきなりメイドとして振る舞いだしたよ、エイトが。
言っても聞かなそうなので、俺が先頭で進む事になった。
あっ、気を失った兵士たちは放置で良いの?
⦅構いません。解放した者たちが勝手に対応してくれるでしょう⦆
という事らしいので、これからも放置。
アドルさんたちを引き連れるような形で、王城に入る。
王城内部は、外から見た以上に広々としているような感じを受けた。
そういう造りなのかもしれない。
白色で統一されていて、圧迫感がない、みたいな。
ただ、やっぱりというか、壁や天井、絨毯などにある、こだわりの意匠みたいな部分の凝り具合が、世界遺産みたいに凄まじい。
置かれている調度品も、多分聞いたら触る気が失せそうなくらいの金額だろう。
……うん。考え過ぎちゃいけない。
案内に集中しよう。
対侵入者用なのか、王城内部は思っていた以上に複雑だった。
初見だと、まず間違いなく迷う。
でも、そこを迷う事なく、というか一発正解で突き進むのが、セミナスさんである。
⦅そこを左に。曲がってから十秒後に、廊下の先で騎士二名が姿を現しますので、獣人メイドを先行させて無力化して下さい⦆
しかも、出会い頭とか、待ち伏せとか、そういうのが一切通用しない。
こちらが必ず不意打ちというか、常時先制攻撃状態だった。
いやもう、心強過ぎる。
そして、セミナスさんの話によると、囚われている騎士や兵士たちの居場所は、結構バラけているようなので、まずは一番近い場所に向かう。
味方が多いに越した事はないしね。
辿り着いたのは、王城一階にある一室。
扉の前に居た見張りの兵士たちは、先制攻撃でエイトが無力化した。
それで、気絶した見張りの兵士から鍵を奪い取り、扉を開けようとして気付く。
……あれ? これ、いきなり開けて大丈夫?
俺たちも敵だと認識されて襲われたりしない?
そもそも、俺たちが味方だと、捕まっている人たちに証明するモノがないと思うんだけど?
⦅それも問題ありません。その扉を吸血鬼に開けさせれば、それで解決します⦆
という事なので、鍵をアドルさんに渡し、扉を開けて貰う。
扉を開けた瞬間、アドルさんの顔面に向けて何かが飛び出してくる。
それは、手刀だった。
アドルさんは、もう少しで当たりそうというところで、それを掴んでとめる。
俺なら反応出来ずに当たっていた、と思う一連の流れが繰り広げられた。
アドルさんが、手刀を繰り出してきた人物を確認するように視線を向ける。
「……カノートか?」
「もしや、アドル様?」
どうやら、知り合いっぽい。




