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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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俺は特に何もしていません

 あっという間の一撃で敵の一人を倒したインジャオさん。

 当然のように警戒される……かと思いきや、そうでもなかった。

 敵の一人が、ニヤニヤと笑みを浮かべて言う。


「おいおい、あいつを倒したからって調子に乗られちゃ困るな」

「だな。最近入れたばかりの新人だし」

「確かCランクだっけ? まっ、あんなモンで」


 最後の人はそれ以上言えなかった。

 バッグラウンド商会の建物に突き刺さって、オブジェの一つになったからだ。

 う~ん、さっきと同じように、インジャオさんによって殴り飛ばされた、一瞬の出来事である。


「おやおや。自分を前に話を行う時間があるとは、随分と余裕がありますね。では、その余裕がどこまで続くのか、一人ずつ倒して確認してみましょう」


 インジャオさんの言葉が気に入らなかったのか、敵側がピリついたように見える。


『………………』


 無言で武器を構え始め、インジャオさんを囲むような位置取りに動き始めた。

 完全にインジャオさんに狙いを定めたようだ。


「てめぇこそ、これだけ煽っておいて……直ぐ死ぬんじゃねぇぞ!」


 盗賊風の短剣持ちが襲いかかるが、インジャオさんは振るわれる短剣を容易に回避し、カウンターで殴り飛ばす。

 当然のように、バッグラウンド商会の建物に突き刺さった。


「………………」

『………………』


 場に一時の沈黙が流れる。


「やっちまえ!」


 インジャオさんを取り囲む敵さんたちのリーダー格っぽい、剣持ちの男性がそう叫ぶと同時に、一斉に襲いかかってきた。

 対するインジャオさんは冷静そのもの。


「愚かですね。一人に対して一度に襲いかかれる人数など、そう多くはないのですから、もっと戦力を絞らないといけません。今回の場合は、最初から最大戦力が正解です」


 そう言いながら、インジャオさんは繰り出される攻撃を次々と回避していき、途中で一人を蹴り飛ばす。

 当然、行き先はバッグラウンド商会の建物。


「ですが、最大戦力を用いたとしても、あなた方の顛末は変わりません。……安心して、逝きなさい」


 そこから始まったのは、インジャオさんによる一方的な蹂躙だった。

 向こうの攻撃は、一切当たらない。

 インジャオさんの攻撃は、一撃で突き刺さっている。


 力の差が凄まじい。

 ただ、一つ気になるのは、インジャオさんが背負っている大剣を一切抜く気配がない事だ。

 これはアレかな?

 お前たちなど、この大剣を抜くまでもない、的な?


⦅そうですね……あえて抜かない事で煽っている部分もありますが、抜いてしまうと直ぐ終わってしまいますので、より時間がかかる方を選んでいるようです⦆


 俺が考えていた以上に、インジャオさんは色々と溜まっていたようだ。

 存分に発散すれば良いと思うよ。


 それに、俺としてもインジャオさんが居て良かった、と心から思う。

 ……でも、待てよ。

 セミナスさんの最初の発案だと、ここにインジャオさんは居ない予定だった。

 となると、どうなっていたの?


⦅汎用型が無双していました⦆


 ……おぅ。

 思わず隣に居るエイトを見てしまう。

 エイトは、敵を一人一人じっくりと観察しているようだ。


「……ご主人様の反応を見るに、あの中に好みのタイプは居ないようです。妖艶なタイプが多いという事は、その逆が好みのタイプの可能性が高いという事になります。つまり、ご主人様がエイトの色香に耐えられているのは、エイトが妖艶であるが故、という結論に至ります」


 勝手に至らないで下さい。

 そもそも、エイトのどこが妖艶なのか疑問だ。

 ちょっと原稿用紙に書いてみなさい。

 自薦だと一枚に収まりそうにないから他薦な。


 ……というか、エイトが無双する予定だったの?


⦅はい。汎用型は、それだけの戦力を有していますので。ちなみにですが、骸骨騎士と同じく、結果は無傷で終わっています⦆


 うん。サラッと、インジャオさんが無傷で終わるって言っちゃったね。

 まぁ、見た感じ、そうだろうなって思っていたから問題ないけど。

 寧ろ問題なのは……。


 チラッと、ダオスさんとハオイさんを見る。


「……あの騎士様が神々しく見えます」

「間違いありません。悪に裁きを降す、神の使徒様です」


 インジャオさんの無双を見て、もの凄く興奮していた。

 護衛たちも同じく。


 旗とかあったら振りそう。

 フィギュアとかあったら家宝にしそう。

 この世界にあるかな? 和装。


 なかったら流行らせよう。

 で、この興奮は、他にも伝播している。


「頼もし過ぎて雇いたい」

「うわ~、格好良いね! 抜群の安心感だよ!」


 商売の神様と武技の神様も、目を輝かせてインジャオさんの無双を見ていた。

 ……本当に神の使徒になるかもしれない。


 と、そこで気付く。

 あれ? そういえば、相手って実力だけならAランクなんだから、武技の一つくらいは使えそうなモノだけど、使っていないよね?

 ……実は大した事ない?


⦅相手の力が平均を大きく超えているのは間違いありません。骸骨騎士の力がそれよりも圧倒的に上のため、大した事がないように見えてしまうのでしょう。マスターが私の補佐なしで挑んだ場合、勝利する事は⦆


 まぁ、出来ないだろうね。

 言われなくてもわかる。


⦅それと、武技に関しては、そこの神が復活した事を喧伝していないため、使用出来るようになった事を知らない、というのが正確な情報です。一部の有力者には伝えているようですが、今敵対しているような者たちに、わざわざ教える必要性は皆無です⦆


 なるほど。確かに、その必要性はどこにもない。

 でも、武技の神様が億劫だから、という理由も考えられるのはどうしてだろう。

 ……まぁ、それでなくても、今は忙しいだろうし。


 そうしてセミナスさんと話していると、周囲が騒がしい事に気付く。

 いつの間にか、王都の人々が集まって見物していた。

 ……まぁ、バッグラウンド商会の建物の建物に突き刺さる音はそれなりに大きいし、何事かと集まってきても不思議ではないと思う。


 今も着々と突き刺さっていっているし、ちょっとした騒動なのは間違いない。

 で、騒動となれば、当然のように警察……じゃなくて、こういう世界だと……。


⦅衛兵です⦆


 そうそう。衛兵が出張って来る。


「これはどういう状況なのかな? あそこで戦っているのは、君たちの関係者で合っている? ちょっとそこの兵舎で詳しい話を聞かせて貰えないかな?」


 ………………。

 ………………。

 やばいやばいやばいやばい……。

 エマージェンシー! エマージェンシー!


 傍目的に手を出したのはこっちだし、このまま捕まるんじゃ……。


⦅問題ありません⦆


 問題なかった。

 ダオスさんとハオイさんが、上手い事取りなしてくれる。

 助かりました。ありがとう。


 と、ホッとした瞬間、俺の隣に居たエイトが攫われる。

 視線を向ければ、エイトは腕を掴まれ、首元にナイフの先が突き付けられていた。


「動くな。それと、あの騎士にも動かないように言え」


 それは、いつの間にかこの場で空気と化していた、肥太った男性。

 バッグラウンド商会の現会長……あっ、ザインである。

 どうしよう……小物感が半端ない。


 そもそも、エイトなら独力で……と思った瞬間、エイトは行動を起こした。

 空いている方の手でナイフを叩き折り、掴まれている方は捻って外し、くるっと回って、足を振り上げて金的攻撃。

 ザインが地に倒れて一切動かなくなる。


「『魔力を糧に 我願うは 穢れ払いし光幕 浄化』」


 エイトの魔法が発動し、光り輝くカーテンのようなモノが、一瞬だけエイトを覆う。


「申し訳ございません、ご主人様。人質を救って、その人質に惚れられる、という事をご主人様が求めていると察して、わざと人質になってみましたが、想定していた以上に触られている事に不快でして。やはり、エイトはご主人様以外に触れられるのは良しとしません」


 ……色々と突っ込みたいが、とりあえず……そんな事求めてないから!

 護衛の人たちが好機とばかりにザインを縛り上げていく間に、インジャオさんの方も終わる。

 最後の一人が、バッグラウンド商会の建物に突き刺さった。

 セミナスさんが言っていたように、インジャオさんは無傷である。


「ふぅ……」


 一汗掻いた、とでもいうような仕草をするインジャオさん。


「よし! 脅威は去った! 突撃ぃ~!」

「「「おぉ~!」」」


 商売の神様が合図を出し、武技の神様、ダオスさん、ハオイさんが衛兵たちを伴って、バッグラウンド商会の建物に再突撃していった。

 楽しそうだなぁ。

 ……あぁ、縛ったザインを護衛たちに見張らせておくから、衛兵たちを連れていったのね。


 ……って、俺たちはあとを追わないと!

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