神様ってこんなのばっかりじゃないよね?
俺、エイト、インジャオさんは、バッグラウンド商会の建物に勝手に突撃した、商売の神様、武技の神様、ダオスさん、ハオイさん、その護衛たちのあとを追った。
……戻って来た。商売の神様たちが。
全員、顔が必死。
「あれ? どうかしましたか?」
「ヤバい事態に陥った!」
そう言って、商売の神様たちは、俺たちの後ろに回り込む。
……あれ? なんか、俺たちを盾にしているような気がする。
エイトとインジャオさんならまだしも、俺にその役割は無理。
そもそも、盾だった場合、盾は盾でも回避盾になるし。
だから、ダオスさんとハオイさんは、俺の服をしっかりと掴むのやめてくれませんか?
初動が遅れそうなので。
すると、バッグラウンド商会の建物入口から、数人の男女が現れる。
上等そうな衣服を身に纏っているが、ちっとも似合っていない、四十代くらいの肥太った男性を中心にして、その他は武装していて見た目強そう。
その全員が、こちらを注意深くロックオン。
いや、肥太った男性だけは、こちらを見下したかのように見ている。
「ブフフ……来るとわかっていれば、いくら迅速だろうとも、それなりの対処が取れるのですよ、ドンラグ商会の者共」
肥太った男性がそう言う。
視線がダオスさんとハオイさんに向けられているようなので、こちらがどういう意図でここに来たのか、わかっているようだ。
「……なるほど。アレの他にも潜入している者が居た訳ですね」
ダオスさんが神妙な顔付きで言う。
俺たちを盾にしながらキメ顔されても困る。
「ブフフ。当たり前だろう? いくつもの策を弄して事に当たるからこそ、望む利益を得られるというモノ。まぁ、想定外であったのは、ここまで早く対処された事と、生き残った事か。だが……」
そう言って、肥太った男性は醜悪と言えるような笑みを浮かべる。
「本当に可哀想な事をしたものだ。いっそ、あのまま死んだ方がマシだったかもしれんというのに。何しろ、ドンラグ商会は潰れるのだから、これから先は路頭に迷う事になる……いや、奴隷落ちかもしれん」
ダオスさんが、服の上から強く掴んでくる。
「そうなれば、私が慈悲の心で買って可愛がってやろう。おぉ、これで憂いの一つがなくなったな」
ハオイさんが、服の上から強く掴んでくる。
ちょっ! 痛い痛い!
食い込んでいる! 爪が食い込んでいるから!
我慢していると、エイトが俺の服を引っ張ってきた。
「ど、どうした?」
「ご主人様。どうやら、あの者は世間的に駄目なタイプのロリコンのようです。エイトは、身の危険を覚えます」
……いや、今のはダオスさんたちに対する嫌味の部分が強いと思うんだけど。
もちろん、肥太った男性がそうではないと否定するつもりは――。
「待って。今、自分の容姿がそうだと認めた?」
「仕方ありません。エイトの容姿は、そういう方々に好まれるようですから。ですので、ご主人様も隠さずに正直になっても良いのですよ」
「さも、俺もそうだと言うんじゃない! ……というか」
ダオスさんとハオイさんに視線を向ける。
「好き放題言われていますけど、言い返さなくて良いんですか? というか、あれ誰?」
「あの者の名は『ザイン・バッグラウンド』。バッグラウンド商会の現会長です」
「確かに好き放題言われていますが、ザインの周囲に居る者たちが厄介でして」
肥太った男性の周囲を固めている、武装した人たちだなって、待って。
あれが現会長? しかも、ザインって言う名前なの?
……名前負けじゃない? ……じゃなくて。
「あの人たちが厄介なんですか?」
「元冒険者で、バッグラウンド商会に直接雇われている冒険者たちの代表格のような存在です」
「元Cランクと、ランクは普通なのですが、その実力はAの上位でもおかしくありません。あまりに素行が悪くてB以上に上がれなかった、と聞いています」
うん。そこら辺の説明はまだ受けていないけど、定番通りであるならば、Cランクってのが平均で、Bランク以上はベテランとかデタラメに強いとか、そういうイメージで合っているのかな?
……あとで確認しておこう。
⦅合っています⦆
確認するまでもなかった。
ついでに、もう一つ確認。
「ドンラグ商会の方で、ああいうのと戦えそうな人たちは?」
一緒に逃げて来た訳だし、今居る護衛は駄目だろう。
「申し訳ございません。居るには居るのですが……後発組の方に回してしまいまして」
「ここに来るのには、少々時間がかかります」
こういう時の少々って、多分少々じゃない。
となると……そもそも、どうして一緒に逃げて来たんだろうか? と、商売の神様と武技の神様を見る。
思っている事が伝わったのか、商売の神様が気まずそうに口を開いた。
「……いや、経済戦争なら自信があるのだが、こういう荒事となるとからっきしで」
その見た目で?
「僕も、基本サポート特化みたいなモノだから、実は前線に立つだけの力はないんだよね」
武技の神様、お前もか。
………………。
………………おっと、いけないいけない。
きっと、一つの事に特化し過ぎているから、他の事がちょっとおざなりになっているだけ。
相手は神様。もっと穏やかな気持ちで受け止めよう。
⦅……ふっ⦆
セミナスさんから、ね? 言った通りでしょ? と言われたような気がした。
ただ、それに対して何かを言う前に、向こうが動き始める。
こちらを逃がさないように包囲するつもりのようだ。
さて、どうするべきか。と考え出そうとする前に、インジャオさんが前に出る。
「ここは、任せて貰っても良いかな?」
そう言うインジャオさんの背中が、とても頼もしく見えた。
いや、俺だけじゃなく、ダオスさんやハオイさん、商売の神様に武技の神様も……揃って、お願いしますと頷く。
ただ、向こうからすると、インジャオさんに任せるのは面白くないようだ。
「おいおい、一人で俺たちを相手にするみたいだぞ」
「偶に居るよな、こういうの」
「そうそう。変に自分に自信持っているヤツね」
「そういうのに限って、案外簡単にポキッと折れちゃうんだよね~、心が」
「で、惨めに泣いて命乞いしてくんのが面倒だよな」
ギャハハハッ! と笑いながらも、しっかりと位置取りはしていくようだ。
その態度はともかく、実力があるってのは本当っぽい。
間違いなく、通常の俺よりは強いだろう。
セミナスさんが絡んだら負けないけど。
ただ、ダオスさんたちは、まだどこか不安そうに見える。
大丈夫ですよ。
これでも、毎日のようにインジャオさんに相手して貰っているからわかる。
多分、インジャオさんにとっては、憂さ晴らしの相手程度にしかならないと思う。
現に、そう思う俺の感性は正しかった。
「丁度良かったです。壺を割ってしまうという不甲斐ない事をしてしまいましたので、少々暴れたいと思っていましたから」
骸骨だから表情はわからないけど、もしわかるなら、絶対怖い笑みを浮かべていそう。
そもそも全身鎧で見えないけどね。
そんなインジャオさんの言葉を受けて、向こう側は一斉に笑い出す。
『ハハハハハッ!』
「何調子に乗って」
何かを言おうとした男性が、瞬く間に移動を終えたインジャオさんに殴り飛ばされて、バッグラウンド商会の建物の壁に頭から突き刺さった。
場が一瞬で静まり返り、インジャオさんが一言。
「すみません。このままだと直ぐ終わってしまいますので、真面目にやって頂けますか?」




