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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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恥ずかしいのは克服出来る……はず

 バッグラウンド商会の建物は、ドンラグ商会の建物と比べると宿屋部分がなくて、本店が一段劣るという感じだ。

 実際、ドンラグ商会は四階建てだけど、バッグラウンド商会は三階建てだし。

 でも、周囲の建物と比べると大きい事に変わりはないので、充分目立つ。


 これはあれかな?

 この王都で待ち合わせとかするなら、携帯とかないだろうし、ドンラグ商会前とか、バッグラウンド前とか、目立つ建物の前とかにしていそうだよね。

 その方が確実で無難だし、他のところより人が行き交っているのは、そういう理由だと推測する。


 さすがに王城前とかは不敬とかになりそう……まぁ、アドルさん、ウルルさんとの、このあとの待ち合わせ場所は、そこなんですけどね。

 ……それに、流れ的に王城行くっぽいなぁ。


 でも、そもそもの話、そう簡単に王城内に入れるんだろうか?

 元の世界でお城に行く感覚とは絶対違うだろうし。

 指定された時間内だけ、天守閣に入れるのとは訳が違うと思う。


⦅問題ありません。バッグラウンド商会と同じように入るだけですので⦆


 それって、要は殴り込みだよね?


⦅はい⦆


 それが何か? って感じの言い方だ。

 うん。平常運転。


 という訳で、バッグラウンド商会を前にした俺たちがこれから行うのは、間違いなく殴り込みである。

 いやまぁ、それは別に良い。

 寧ろ、今の状態でとめても、ダオスさんとハオイさんはとまらないだろう。

 多分、インジャオさんも。


 けれど、それよりも俺が心配なのは、これからやろうとしているような事で手に入れた証拠って、採用されないんじゃなかったっけ? と、ちょっと不安な事だ。


⦅何を今更。魔法使い部隊(失笑)と盗賊相手(失笑)に行った事ではありませんか⦆


 それはほら、向こうがどこから見ても後ろ暗い相手だからであって、バッグラウンド商会は、一応表向きは後ろ暗くないんでしょ?

 ……失笑?


⦅マスター。それはマスターが居た世界のように、法律で細かく定められ、ある程度浸透していればこそ、です。この世界の法律は、そこまで細分化も浸透もしていませんし、まだまだ王の一声でどうにでもなってしまうのが現状です。まぁ、それをやり過ぎれば、暴君と呼ばれる事と暗殺の可能性が一気に増大しますが⦆


 ……スルーされた。

 でも、先ほどの内容自体は、普通に怖いと思う。


⦅それにマスターの心配は、この世界では杞憂です。その最大の要因となるのは、絶対的な判断基準の一つとして、神が身近な存在として姿を現している、という事です⦆


 なるほど。確かに。


⦅まあ、中には私より劣るのや、どうしようもないのも居ますが⦆


 そして辛辣! 神様相手には容赦がないな!

 でもまぁ、そういう事ならこのまま殴り込みをかけても安心かな。

 ……インジャオさんたちをとめるのも無理そうだったし。


「それじゃあ、杞憂もなくなりましたし、行きましょうか!」

「「「「………………」」」」


 エイト、インジャオさん、ダオスさん、ハオイさんが、揃って首を傾げる。

 まるで、杞憂? そんなの何かありましたっけ? みたいな感じだ。

 護衛の人たちは無反応。


 ………………なんだろう。

 俺がしっかりしないと、と思った。

 頑張れ、俺。


 といっても、俺が頑張る要素は一切ない。多分。

 そもそも、俺に、というか俺たち……特にインジャオさんに活躍の場があるのかどうかも怪しい。


⦅あります⦆


 あるようだ。

 なら、さっさと呼んでしまおう。

 あの神様、約束破るとかすると、結構音に持ちそうだし。

 まぁ、元々破る気はないけども。


 ……で、えっと、普通に呼べば良いのかな?


⦅『カモンッ! 商売の神様!』と言い終わると同時に、空に向かって指を鳴ら⦆

「カモンッ! 商売の神様!」


 で、手を空に向かって高々と上げて、指をパチンッ! と鳴らす。


⦅さなくても、普通に呼べば来ます⦆


 ………………。


⦅………………マスターは、私の予測を軽々と超えていきますね。あっ、格好良かったですよ⦆


 うわあああああぁぁぁぁぁ……!

 もっと感情を込めて言って! じゃない!


 声にならない心の叫びを上げながら、俺は両手で顔を覆ってしゃがみ込む。

 両肩をぽんぽんと優しく叩くのは、きっとエイトとインジャオさんだろう。

 ダオスさんとハオイさんは、多分苦笑いだな。


「………………えぇと、これはどういう状況なんだ?」


 声だけだけど、多分商売の神様だと思う。


 察しろや! 神様なんだから、もっと察しろや!

 いや、先に察して、言う前に現れとけや!

 ふむ、ここだな……(キリッ)みたいな感じで、既に待ち構えとけよ!


⦅だから私は言いましたよ。私より劣る、と⦆


 ……くっ、言い返せない。

 いや、ちょっと待って。

 そもそも、セミナスさんがああいう言い方をしなければよかったんじゃない?


⦅………………⦆


 ………………。


⦅………………あはっ!⦆


 普段は笑わないクールな彼女が時折見せる笑顔に、って騙されないぞ!

 セミナスさんの顔が正確にわからない以上、笑って誤魔化す事は出来ないからな!


⦅マスターが思った通り、クール系の顔が満面の笑みを浮かべた瞬間を思い浮かべて下さい⦆


 ………………。

 ………………。

 いや、でも……ちょ……う~ん………………出来れば、今後は多少でも控えて頂けると。


⦅おや? やめろ、とは言わないのですね⦆


 まぁ、受け止められる分は受け止めるよ。

 それがセミナスさんだし。


⦅………………かしこまりました。次回から全力でいかせて頂きます⦆


 あれ~? 多少は控えてって話だったのに。

 まぁ、とりあえず、このあとの待ち合わせもあるし、商売の神様に早く動いて貰わないと。


 そう思って恥ずかしさを心の中に押しやり、立ち上がって商売の神様に視線を向ける。


「………………」

「………………」


 ……う~ん。

 チラッと、エイト、インジャオさんを見る。

 お願いしますと頭を下げてきた。

 ダオスさん、ハオイさんは、完全に俺に丸投げ状態。

 護衛たちは空気。


 俺は眉間を軽く揉んでから、もう一度商売の神様を見る。

 うん。迫力があって、見た目は普通に怖い。

 やっぱりそういう職業の人に見えてしまうけど………………何故かその片足に、武技の神様がすがり付いていた。


「……えっと、合体? みたいな事? パワーアップ?」

「違う。アキミチに呼ばれたら、ブラック商会を潰しに行くと何度も説明したが」

「逃げるつもりでしょ! そのまま逃げるつもりでしょ! 逃がさないから! 絶対に逃がさないから! そのためにここで見張る!」

「逃げるつもりはない、と何度も言い聞かせたが、放してくれん」


 今度は商売の神様が顔を覆った。

 武技の神様は、死んだ目で商売の神様を見ている。

 ……なんかどっちも追い込まれているなぁ。


 そんなに辛いのだろうか?

 確か、この世界の人のスキルを更新しているって言っていたから、同じような作業が続くと辛い、と感じているのかもしれない。


 それにしても……大人にすがり付く子供という図にしか見えないのが辛い。

 本当に不安になってくるが、今は動いて貰わないと困る。


 さて、どうしたものか……と考え始めると、商売の神様は顔を覆っていた手を下げ、真面目な表情で俺を見てきた。


「さて、アキミチ。私を呼んだという事は」

「え? あ、はい。あちらが、ご所望のブラック商会――バッグラウンド商会です」


 バッグラウンド商会の建物を指し示す。

 商売の神様は建物を確認したあと、武技の神様を掴んで持ち上げる。


「ここまで付いて来たのだから、手伝って貰うぞ」

「暴れるの? わ~い! ストレス発散だね~!」


 商売の神様は、そのままダオスさんとハオイさんに視線を向ける。


「お前たちからは商売人の匂いがする。しかも、良い商売人だ」

「そう言って頂き、誠に嬉しく思います」

「誇れる商売を心掛けています」

「よし! では、お前たちも付いて来い!」

「「かしこまりました」」

「カチコミじゃ~!」


 商売の神様を先頭にして、一団がバッグラウンド商会の建物に真正面から突っ込んで行った。


「追わなくても良いのですか?」

「「はっ!」」


 エイトの一言で気付き、呆気に取られていた俺とインジャオさんが気付く。

 慌ててあとを追った。

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