表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
74/590

真っ白な中に別の色があると気になる

 高そうな壺を割った犯人はわかった。

 ドンラグ商会に悪意を持っている存在。

 ……いやまぁ、壺を直接割った訳じゃないけど、間接というか大部分はその存在のせいで間違いない。

 アドルさんもそう言っているし。


「さすがに無理があるような気がするのですが……。自分が素直に謝って、必要なら賠償金をお支払いするのも構わないとも思っていますよ?」


 インジャオさんのその高潔な精神は立派ですが、犯人が別――真犯人が他に居るのに、俺たちがインジャオさんを素直に差し出すとでも?


「そうだそうだ!」


 ほら、何故かちょっと小物臭くなっているけど、アドルさんも同意見だし。

 しかし、問題が一つ。


 ………………その真犯人が、どこの誰かわからないのと、どこに居るのか、だ。


 ……問題は二つだったね。

 いや、それはどうでも良いか。

 まずは、そのどちらかを調べて、それを皮切りに――。


⦅悪意を向けてきましたのは、『バッグラウンド商会』です。ドンラグ商会と同じく、この王都に本店を置いている商会であり、新興でありながらも急成長を遂げ、名が広く知れ渡っています⦆


 つまり、ドンラグ商会のライバル店って事?


⦅はい。現在は、それだけの力があります。ただ、正確には、バッグラウンド商会が、ドンラグ商会に対して一方的に、ですが⦆


 ドンラグ商会はそう思っていないんだ。

 じゃあ、そこが真犯人で間違いないの?


⦅はい。バッグラウンド商会の現会長が、ある協力者を得た事で商会が大きくなり、その見返りによって、王族と懇意にしているドンラグ商会潰しを画策しています。商売敵として潰そうとしている面もありますが⦆


 なるほど……え? 王族?

 ……まぁ、そこは今気にしなくても良いか。

 確かに、そういう事情があるのなら、悪意を向けてきてもおかしくはないね。


⦅ですが、その事情は当人同士だけが知る裏の繋がりであり、表面上は悪意だけでなく害意すら見せていません。上手く隠しているようです⦆


 え? そうなの?

 なら、どうして急に悪意を向けたんだろう。


⦅ドンラグ商会の現会長の娘が治療された事が伝わったからです⦆


 ………………。

 ………………。

 ちょっと待って。

 そういう言い方するって事は……もしかして……。


⦅はい。ドンラグ商会の現会長の娘の病は、ドンラグ商会内に潜伏しているバッグラウンド商会の手の者によってです。また、その潜伏している者がバッグラウンド商会の現会長に失敗の報告を入れた時刻が、悪意を向けられた時刻となります⦆


 ……そういう事だったのか。

 これは、エイトとアドルさんたちとも共有しておいた方が良い話……ちょっと待って待って。

 セミナスさんに追加で聞きたい事があるんだけど?


⦅どうかされましたか?⦆


 うん。どうかした。

 俺が眠っている時は休眠しているからって言っていたけど、今の状況をがっつり把握しているよね?

 寧ろ、隅から隅までまるっと把握しているよね?


⦅それはもちろんです。何しろ、私が全てを把握しておかないと、マスターに降りかかる危機を回避する事が出来ません⦆


 そう言われると何も言えない。


⦅それに、そもそも私は、把握していません、とは言っていませんが?⦆


 セミナスさんとの会話を思い出す。

 ………………確かに!

 というか、もしかしてだけど……わざと言わなかったんじゃ……。


⦅はい⦆


 今のに返事は求めていないから!

 しかも、肯定しているし!


 ……それじゃあ、実は休眠もしていないとか?


⦅いえ、休眠はきちんと頂いています。ただ、休眠の前にありとあらゆる予測を行う事によって安全性を確保しつつ、いつでも起きられるようにはしています。仮眠のような状態というのが、表現として近いでしょうか⦆


 ほんと、いつもありがとうございます。

 忘れちゃいけない、感謝の心。

 もうセミナスさんに足を向けて眠れません。


⦅マスターと一心同体ですので、足を向けられる事はありません⦆


 うん。わかっている。

 それくらい感謝しているという事だ。


 と、ここでセミナスさんとの会話を一旦やめ、エイトとウルルさんを呼び、状況の説明とセミナスさんから聞いた情報を教えて共有。

 そのまま皆で相談する。

 内容が内容なだけに、ダオスさんとハオイさんにどう伝えるべきか。


 セミナスさんは、何をどう伝えようとも結果は変わりません、と言うが、俺たちの気分的というか心構えの問題である。

 何しろ、実際に壺が割れているのだから。


 そして、いざ……話があるとダオスさんとハオイさんを、従業員さんに頼んで呼んで貰う。

 まだ中身が骸骨だと明かしてはいないので、インジャオさんは全身鎧を身に纏っておくようだ。

 ダオスさんとハオイさんは忙しいだろうから、夜になるかもしれないかなぁ……なんて考えていると、直ぐに来てくれたので、まずはその事に感謝。

 そのまま流れでいく。

 ……戸惑っちゃ駄目だ。こういうのは勢いでいかないと。

 割れた壺を前に出す。


「「「すみませんでした!」」」


 女性陣は関係ないので、男性陣だけで謝る。

 エイトとウルルさんが、ほんとこの子たちはやんちゃで……みたいな雰囲気を醸し出しているが、今は突っ込めない。


「どうかお気になさらずに。確かにこの部屋の調度品はそれなりの物を置いていますが、失って惜しい物は一つもありませんので」

「父の言う通りです。それに、これくらいの事で、恩人である皆様に賠償などは求めません。寧ろ、皆様にお怪我はありませんでしたか?」


 良い人たち過ぎて泣きそう。

 アドルさんとインジャオさんも感じ入っているようだ。

 ……ありがとうございます。


 ただ、これで話が終わりではないんです。

 寧ろ本番。


「実は、壺が割れたのには理由がありまして……」


 そう前置きして、バッグラウンド商会の関与を教えたところ――。


「「一旦失礼させて頂きます」」


 そう言って、ダオスさんとハオイさんが部屋から出て行った。

 あれ? どこへ?

 何か変な事を言ってしまっただろうか?


 ………………。

 ………………。

 十数分後、戻って来た。


「失礼致しました」

「裏付けが取れましたので、話を進めましょう」


 ……ん? え?


「えっと、裏付けが取れたというのは?」

「はい。先ほど仰った裏切り者……いえ、元々向こうの人間なのですから、裏切り者と表現するのは違いますね。罪人で良いでしょう。その罪人を拷も……念入りに丁寧に話を伺ったところ、全て正直に話して頂きました。アキミチ殿の話が真実であると、裏付けが取れたのです」

「バッグラウンド商会という、どこの木っ端かと思いましたが、最近急成長しているそうなので調子に乗ってしまったのでしょう。ウチを敵に回すという事がどういう事なのか、骨の髄までわからせてあげますよ。もちろん、娘を殺めようとしたのですから極刑です」


 うん。ダオスさんはなんとか言葉を選んでいるけど、ハオイさんは前面に出して隠す気が一切ない。

 この辺りが、年の功と若さ故の違いかな。

 というか……だからかな。


「……あの、それって血じゃ」


 二人の顔に小さく赤いのが付いて……。


「「………………」」

「………………」

「「「ははははは……」」」


 笑って終わらせよう。

 追及してはいけない。

 知ってはいけない、大人の世界だ。きっと。


 でも、チラチラと視界に入って気になるので、ダオスさんとハオイさんに着替えて貰うようお願いしたため、一旦話し合いは中止。

 待っている間に、今後の行動についての説明を、セミナスさんから受けておく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ