表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
73/590

事故だから……事故だから!

 朝。天気は晴れ。

 日差しは優しく、気温も落ち着いているので、気持ちの良い朝だ。

 朝のコーヒーを飲もうと、ベッドから体を起こす。

 ……ふっ。良い一日の始まりだ。


 寝室の扉を開けてリビングへ。

 リビングでは、床で眠る骸骨と、割れた壺がお出迎え。


「あはっ! おはよ!」

「……そろそろ現実を見て欲しいのだが?」

「………………はい」


 アドルさんに現実に引き戻される。

 どうやら、目の前の景色は夢の類ではないようだ。

 覚悟を固めて、まずはインジャオさんの様子を窺う。


 インジャオさんは、骸骨そのものだ。

 だから、基本的に全身鎧で隠し覆っているので、骨を晒す事はない。

 それはこの王都に入ってからもそうだった。


「この姿ですからね。無闇に混乱を招くような真似はしたくありませんし」


 と、インジャオさんは笑みを浮かべた……ような気がする。

 骸骨だからわからない。

 でも、インジャオさんが優しく、人格者であるという雰囲気は伝わってきた。


 ドンラグ商会に入ってからも、宿の中も全身鎧は脱いでいない。

 例外は、温泉の時とこの部屋の中。

 俺とアドルさんたちしか居ない時は、インジャオさんも全身鎧を脱ぐ時があるのだ。


 で、今は当然、全身鎧ではない。

 この部屋は、俺、アドルさん、インジャオさんしか利用しないしね。

 シャツと半ズボンで思いっ切り気を抜いていたのがわかる。

 ……ちょっとファンキーな姿だと思ったのは黙っておこう。


 それにしても……う~ん……眠っているようにしか見えない。

 もう少しだけ様子を見て……重大な事に気付く。


「インジャオさんの脈がない!」

「骨だからな」

「ですよね」


 なくて当たり前だった。

 アドルさんも、思いの外冷静である。

 となると、インジャオさんは特に問題はなく……問題なのは、割れた壺の方だ。

 ……だから安い部屋の方が……いや、もうそれは良いか。

 現実にこうして起こったのだから、今は対処に専念しよう。


「………………うん。見事に割れていますね。こう、パッカーン!と」

「あぁ」


 アドルさんが渋面を作る。

 俺も似たようなモノかもしれない。

 何しろ、壺の割れている場所が一番の問題なのだ。


 インジャオさんの頭部の横。

 どう考えても、インジャオさんの頭部にぶつかって割れた、ようにしか見えない。


「……犯人は、インジャオさん?」

「いや、そう決め付けるのは早い。それに、インジャオだとどうしても動機がな」

「ですよね」


 俺もアドルさんと同意見だ。

 となると、事故の可能性が一番高いけど……。


「インジャオさんが起きるのを待った方が良さそうですね。それまではこのまま何もいじらない方が良いかな?」

「そうだな。下手にいじらない方が良いと私も思う」


 これも、アドルさんと同意見。

 でも、そうなると困る。

 今、俺とアドルさんで出来る事がなくなってしまうのだ。


 いや、違う。

 なんかあるような気がする。

 ………………。

 ………………。


 はっ! セミナスさん!


⦅お呼びでしょうか?⦆


 呼びました!

 セミナスさんなら、これがどういう状況なのか、わかるんじゃない?


⦅申し訳ございません。マスターの睡眠に合わせて私も休眠を頂き、目覚めに合わせて起きています⦆


 え? そうなの?

 そっか……それなら仕方ない。

 でも、スキルも寝るんだね。


⦅おっと、これはいくらマスターでも、許容して良い発言ではありませんよ。休みなしで働かせようとするとか、とんだブラックマスターですね⦆


 い、いや、そんなつもりで言った訳じゃなくて……なんか、ごめんなさい。

 でも、セミナスさんは、俺をいじりまくっているから、ストレスとかはなさそうですよね?


⦅否定はしません。いえ、肯定します⦆


 いや、同じ意味だよね?

 言い直した意味がわからない。


⦅ではここで、助言をしておきましょう⦆


 助言?


⦅そろそろ骸骨騎士が目覚めます⦆


 その言葉が合図となったのか、インジャオさんが目覚める。


「ん、んん……あっ、おはようございます」

「「おはようございます」」


 朝の挨拶はしっかりしないとね。

 インジャオさんはそのまま体を起こし、周囲の様子を窺う。


「……これはどういう事ですか?」

「「いや、こっちが聞きたい事なんだけど!」」


 アドルさんと一緒に突っ込んだ。

 気が合うね、俺たち。と、アドルさんと笑みを浮かべ合う。

 でも、どういう事?


 インジャオさんが起きて、状況がわかるんじゃないの?


⦅答えを性急に求めてはいけません、マスター。時には回り道が正しい時もあるのです⦆


 セミナスさんがそう言い終わるのと同時に、インジャオさんが手を打つ。


「あぁ、思い出しました!」


 聞きましょう。

 ………………。

 ………………。

 インジャオさんの話はこうだった。


 まず、俺とアドルさんが部屋に戻ったあと、インジャオさんは女性陣を待ち、きちんと部屋まで見送ったそうだ。


「風呂上がりのエイトを見たご主人様は、ムラムラがとまらなくなり、獣の如き視線でチラチラ見てくる姿を見たかったです、と言っていましたよ」


 そんな情報は要らない。

 というか、逆に冷静になると思う。


 で、見送ったインジャオさんは部屋に戻る。

 リラックスするために今の服装に着替えて、のんびりしようとした時に、外から悪意を感じ取ったそうだ。


「………………」


 インジャオさんが感じ取ったという悪意を、アドルさんは感じ取れなかったの? という感じで、俺は黙ってアドルさんを見る。


「………………」


 アドルさんは、ふぃっと顔を逸らす。

 ……気持ち良く眠っていたし、温泉で疲れも取れて、気を抜きまくっていたのだろう。

 仕方ない仕方ない。

 優しい笑みを浮かべる。


 その表情から読み取ったのか、インジャオさんからフォローが入った。

 インジャオさん曰く、悪意は俺たちにでなく、この建物――つまり、ドンラグ商会に向けられているように感じられたので、眠っていればまず気付かない、そうだ。

 アドルさんが、その通りだと力強く頷く。

 ……まぁ、起きていたとしても、俺は気付かなかったと思うので、深くは追及しない。


 それで、悪意を感じ取ったインジャオさんは、咄嗟に身構えて……事は起きた。

 いや、これはもう、位置が悪かったとしか言えない。


 インジャオさんが身構えると足の骨が棚にぶつかり、壺が落ちそうになる。

 即座に掴むが、バランスが悪くて足を滑らせ、咄嗟に壺を上に放り投げ、両腕を広げてなんとか転ぶのを回避。

 が、上に放り投げた壺が落下。

 インジャオさんの頭頂部に綺麗に衝突。

 壺はパッカーンと割れ、インジャオさんはそのまま気を失った……と。


 こういう訳だった。


「インジャオさんでも、そういう事が起こるんですね」

「なんだかんだと、自分も温泉で気が抜けていたのかもしれません」


 インジャオさんが、恥ずかしそうに頭を掻く。

 そうして、インジャオさんから聞き終えた俺は思う。


「……事故、ですね」

「……事故、だな。間違いない。断言する」


 アドルさんも同意見。

 つまり、誰も悪くない。

 強いて言うなら、きっかけは悪意を向けたヤツだから、そいつが犯人。


 という事は、だ。

 もし壺の損害賠償が請求された場合は……そいつを突き出さないと……俺たちが払わないといけないのかな?


 そこんとこどうなの? とアドルさんに視線を向ける。

 アドルさんは、わかっていると頷いた。

 以心伝心だね、俺たち。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ