落ち着く場所は人それぞれ
王都内に入ったという事で、今度は建物を見ていく。
………………。
………………。
うん。様式美とか、さっぱりわからない。
そもそも、そういう勉強してないし。
ただ、見た感じ……木造の一階建て、が多いかな。
外見は漫画やアニメでよく見る、中世っぽい感じ?
あっ、でも、道は石畳できちんと舗装されているし、ゴミも見当たらないのと、嫌な臭いもしない。
街灯っぽいのもあるけど……電気はないだろうから、魔力とかで光るのかな?
元の世界とは比べものにならないけど、発展している、というのは見るだけでわかる。
おぉ、王都よ……俺はとうとう文明の光を浴びたぞぉ!
喜びを表現するためにばんざいしようとしたら、察知したアドルさんたちにとめられる。
「街中で恥ずかしい真似はするな」
「人の目がいくつもありますからね」
「迷惑になりそうな行為はやらない」
怒られた。
ちょっと安易に勢いに乗ってしまいました。
反省しています。
「喜びを我慢出来ないご主人様は、とても可愛らしかったですよ」
エイトのその言葉がとどめになる。
⦅同じく⦆
更に追い打ちされた。
恥ずかしさから両手で顔を覆って気持ちを落ち着かせる。
………………。
………………ふぅ。
気を落ち着かせてから、改めて尋ねる。
「で、ここは王都のどこ?」
王都に入った事はわかった。
では、ここは王都のどこなのかがわからない。
なんで、こんなところで馬車がとまったの?
「地図ないの? 案内板とか?」
「ない」
アドルさんが即答。
そっか、ないのか。
でも、よくよく思い出してみれば、こういう世界って地図というか地理系が貴重で重要なんだっけ?
「どうぞ。こちらを」
御者の人から何かを手渡される。
……居たのね。
「どうも」
何かわからないが、頭を下げてお礼を言う。
受け取ったものを確認。
………………。
………………。
観光地にあるパンフレットのようなやつで、簡易な地図付き。
ないって、今手元にないって事か!
紛らわしい。
そう思いつつ、簡易な地図を確認する。
………………。
………………。
うん。無理。
すみません。既に中に入っているため、場所がわかりません。
このパンフレットの簡易な地図だと、現在地マークが入口に書かれているから、確認のしようがないんですけど。
どうしようかと困惑していると、御者さんがスッとパンフレット簡易な地図の一部を指し示す。
そこには、ドンラグ商会と書かれていて、そのまま御者さんは後ろにある大きな建物を指し示した。
木造一階建てが多い中、一際異彩を放つ、四階建ての建物が二棟並んでいる。
一棟の見えている部分の側面だけでも他のより五倍以上はありそうだし、奥行きに至っては……。
えっと、つまり……状況から察するに、あの建物がドンラグ商会の本拠地というか本店って事、なのかな?
視線を向けると、御者さんは、それで合っている、と頷く。
当たり前のように察してくるね。
……いや、御者って馬車に乗っている人を気遣うような職種のはずだから、察する力が高くてもおかしくない。
それにしても、ドンラグ商会……考えていた以上にでかい商会だった。
◇
そのまま御者さんに案内されるまま、俺たちはドンラグ商会の本店内に入り、上へ上へと進み、最上階の一室で待機する。
室内は煌びやかというか、もう見ただけで高いでしょ? というレベルの物ばかり。
どう考えても一般人向けじゃないのは確実。
なのに、アドルさんたちはなんでもないように過ごしている。
一方の俺は、椅子に腰を下ろすだけでもおっかなびっくりの、小心者感が半端ない。
汚れ付かないよね?
弁償にならないよね?
いや、違う。
これは、下手に動いてそういう事態に陥らないように、という心の予防線だ。
……やっぱり小心者かもしれない。
エイトは、自信満々に俺の後ろで控えている。
……そこで初めてメイドっぽいと思った。
で、どうにかこの室内に慣れ始めた頃、今はどういう状況なのかをインジャオさんが教えてくれる。
まず、盗賊集団はダオスさんがそのまま引き連れて、どこかに行ってしまったそうだ。
そういえば情報を聞き出すとか言っていたっけ。
「でも……え? どこに?」
「さぁ? そもそも興味ないですので聞いていません」
要は秘密。との事。
世の中には知らなくて良い事もある、と教えられたような気がした。
というか、門のところに居た兵士さんたちとかに、何か言われなかったのかな?
……問題ないらしい。
これが王都ナンバーワンのドンラグ商会の力か。怖い。
それで、当のダオスさんがこの場に居ないのは、現在そこら辺の処理と五色葉を届けに行っているそうだ。
ただ、俺たちを歓待したいそうなので、そこら辺が終わるまでこの部屋で待っていて欲しい、との事。
アドルさんたちから反対意見はないようなので、俺もこの部屋で待つ事に賛成。
「ちなみにですけど、この部屋はドンラグ商会において、王族級の扱いを受ける人用だそうですよ」
別の部屋にしません?
特に壊しても問題ないような物が置かれているであろう、やっすい部屋に。
アドルさんたちに動く気配はない。
多数決で負けるな、これは。
……いや、待てよ。
トイレ……と言って部屋を出て、そのままどこかやっすい部屋を探して、呼ばれるまでそこで待機。
迷ったとでも言えば、正当な理由になるだろう。よし。
「トイレ」
「あぁ、その扉の先がそうですよ」
室内にある扉の先だった。
言った手前、トイレに入り……ここは四階なので窓から逃げる事も出来ず、頭を抱えたあとに戻る。
退路は断たれたので、大人しくしていようと思う。
となると、あとは会話しか出来ない。
セミナスさん、セミナスさん。
⦅なんでしょうか?⦆
セミナスさんが黙っているという事は、このままで大丈夫って事で良いんですよね?
⦅はい。現在のところ、問題ありません。必要な時はその都度お知らせしますので、このままマスターの思うように進んで下さい⦆
そっか。それなら良いけど。
なら、これから直ぐにでも、休めるように――。
⦅ファイト!⦆
寧ろ、覚悟が固まった。
◇
ほどなくして、室内にノック音が響き、インジャオさんが返事をして、ダオスさんが入って来た。
寧ろ、気が休まらなかったよ、ダオスさーん!
やっすい部屋に移動、もしくは手短に歓待をして、解放して~!
……おや?
ダオスさんの他にも人が居る。
ん~、どことなくダオスさんに似ているような……こう、そのまま若くしたような印象があった。
誰だろうと思っていると、その人は俺たちに向けて頭を下げる。
「……この度は、父を盗賊から守っただけではなく、娘のために五色葉まで譲って頂き……誠にありがとうございます」
「私の息子の『ハオイ』です」
ダオスさんからの補足が入った。
ハオイさんは、本当にダオスさんを若くしたような感じの三十代くらいの男性で、服もダオスさんと同じくらい仕立てが良さそうなのを身に纏っている。
ただ、ハオイさんは偉丈夫なダオスさんと比べると線が細い。
その分、腹が黒そうだけど。
けれど、今は目元が赤い。
ダオスさんも。
きっと、五色葉を届けに行った時に、二人共泣いたのだろう。
良い事したな、と思った。




