ちょっとした歴史と名が残り
目指している王都が見えてきたと教えられたので、馬車の扉を開けて身を乗り出す。
どれどれ……。
………………。
………………。
うん。真っ白で高い壁と、城っぽいモノの尖塔? みたいな部分しか見えない。
ですよね。わかるわかる。
魔物が居るんだから、侵入されないように対策するのは当然。
タイミング的に早かったと、大人しく馬車の中に身を引っ込めて、大人しく鎮座する。
エイトが、ポンポンと俺の太ももを軽く叩く。
……慰めているのかな?
「子供のような可愛さでしたよ、ご主人様」
「があ~!」
あえていじる事で、俺が恥ずかしさを感じないようにしてくれた……か、どうかはわからないが、そう思う事にした。
それから、王都に着くまでもう少しかかるそうなので、俺は気になる事を尋ねる。
「このラメゼリア王国の王都の名称はなんていうんですか?」
王都。
いや、これだけだと、どこの? とかになってしまうのは明白だ。
国の数だけある訳だし。
わからない事は素直に聞く。
ダオスさんが答えてくれた。
「王都・エアリーです」
「なんか人の名前みたいですね」
「さすが、鋭いですな。アキミチ殿」
「どうも。……あれ? 鋭いという事は」
本当に人の名前が由来だった。
アドルさんとダオスさんが説明してくれる。
この世界で制定されている年号は「大陸歴」。
現在は、115年目。
では、その元年に何が起こったかというと、とある兄妹を中心にした世界統一国家「ルベライノト」が建国されたのだ。
今はもうその国家はなくなっているそうだけど。
その中心となった兄妹の名が、「兄・アイオリ」と「妹・エアリー」である。
ダオスさんからこの兄妹の名が出た時、アドルさんが懐かしそうに目を細めたのが印象的だった。
……知り合いなのかな?
考えてみれば、俺はこの世界の寿命とか知らない。
元の世界以上に色んな種族が居そうだし、考えられないような長命な種族が居ても変じゃないと思う。
吸血鬼なんてその最たる例の一つだし、アドルさんが知っていてもおかしくはない……かな。
と、思考が逸れた。
それで、兄であるアイオリは上大陸の北に、妹であるエアリーは下大陸の南に、それぞれ王城を築いて、自分が居る大陸を治める。
上下の王城と同時に城下町も建設され、世界統一国家ルベライノトの王都となった。
その王都の名は、それぞれ王の名を関している。
上大陸の方が、王都・アイオリ。
下大陸の方が、王都・エアリー。
何か懐かしんでいるアドルさんが言うには、当の兄妹は恥ずかしがって最後まで抵抗したそうだが、家臣団が押し切った……らしい。
やっぱり知り合いなんじゃない?
けれど、既に世界統一国家ルベライノトは存在しておらず、今は三大国といくつかの国家に分かれているらしい。
正確な数は? と尋ねると、アドルさんとダオスさんは揃って唸る。
まぁ、こういう世界じゃ把握するだけでも難しいよね。
それで今は、三大国の一つ、ラメゼリア王国が王都・エアリーを名と共にそのまま使用しているそうだ。
王都の名を変えていないのは、偉業を成した兄妹を称えて、との事。
偉業って……何をしたんだろう?
その事を聞こうとした時、とうとう王都に辿り着いた。
まぁ、良いか。
そこら辺は、また何かあれば、で。
◇
王都は魔物などの侵入を防ぐために、白く高い壁に囲まれている。
となると、当然、出入り口が必要だ。
……門。でっかい門。
首を曲げないと確認出来ないくらいにでっかい。
それと、でっかい門の前には兵士っぽい人たちと長蛇の列。
馬車や徒歩、様々だ。
門の前の兵士たちは、入る人たちと出て行く人たちをチェックしているように見える。
実際に盗賊が居た訳だし、そういう事への警戒の一つだろう。
それと見た感じ、長蛇の列は門の右側から入るように並んでいる。
となると、左側は出て行く方なんじゃないかと思う。
きちんと整理されているようで、なにより。
兵士たちのチェックは速く、列もぐんぐん進んでいくが、もう少し時間がかかりそうかなぁ……なんて思っていると、俺たちを乗せた馬車はぐんぐんと進んでいき、門の左側で止まる。
そうなると、当然のように門前の兵士たちはこちらを警戒してきた。
どうするだろうと思っていると、ダオスさんが腰を上げる。
「一度失礼します。色々と説明を行わないといけませんので」
そう言って馬車から出て行き、門前の兵士たちのところに向かっていった。
「……説明?」
何を? と思うと、アドルさんが言う。
「盗賊を乗せているだろう」
「あぁ!」
「それに、だ。ダオス殿の話によると、騎士団が動くほどの盗賊騒動があったのだから、盗賊に関しては国全体として気を張っていてもおかしくない。また、アキミチの世界ではどうかわからないが、王都ほどの大きさだと、馬車で数日の距離はまだ警戒範囲内だ。その範囲内に盗賊が現れたのだから、緊急性は高いと言える」
「なるほど」
「元とはいえ、ダオス殿はこの王都で一番の商会の会長でもあったのだから、そこらを加味した上で、即座に話を通す必要性があると判断したのだろう」
「ふむふむ………………一つ、良いですか?」
「何が聞きたい?」
「いや、聞きたいという事ではなく、アドルさんが出来る大人に見えました、と伝えようと思って」
そう言うと、アドルさんが少し固まった。
「………………はあ~? 私は元から出来る大人だ!」
「え? どこがですが? 自分で出来る大人だと言うのなら、毎朝きちんと起きて下さいよ。昨日なんて涎垂らして、ダオスさんが苦笑いでしたよ」
「……くっ」
アドルさんが顔を逸らして、悔しそうに拳を握る。
どうやら論破してしまったようだ。
勝ち誇った顔をしていると、アドルさんが視線を戻してきた。
「そういうアキミチも気を付けた方が良いぞ。セミナスさんと長話をしている時、間抜けそうな顔になっているからな」
「ムキャー!」
アドルさんと取っ組み合いを始める。
「……もう王都に入ったというのに、一体何をしているのですか?」
………………。
………………。
ん? あ、あれ? いつの間にかインジャオさんが居る。
ちょっとアドルさん、タイム。休憩。
なんか王都に入ったっぽい。
……おかしいな。
初王都入りは、もっとこう……感慨溢れるモノだと思っていたんだけど。
とりあえず、ばんざいして喜びを表現しておく。
エイトが真似して、アドルさんも付き合ってくれた。
◇
馬車を下りる。
人、人、人……。
この世界に来て、初めてこれだけ多くの人が居るのを見た。
しかも、なんか頭から角が生えている人や、目が三つある人、視線を誘われる際どい服装の女性、自信満々で上半身が裸体の男性など、多種多様。
おぉ、獣人!
……当たり前だけど、ウルルさんとは違う種族も居るんだな。新鮮。
エルフも!
……シャインさんと違って大人しい。当然だけど、基準はこっちかな。
「そういえば、アキミチがこの世界でこれだけの人たちを見るのは初めてか」
「そうですね。……人によっては、人の多さに酔うなんて事があるみたいですから、気を配っておいた方が良いかもしれませんね」
「という事らしいけど、大丈夫? アキミチ」
ウルルさんが気遣うように俺を見てくる。
「え? この程度の人数で酔ったりしませんよ。元の世界はもっと人で溢れる場所が多々ありましたから」
本当に大丈夫だと、親指を立てておく、
「「「………………」」」
疑わし気な目で見られる。
もっと信用してよ!
そんなに俺って貧弱……この世界の人たちからすればそうかも。
特にアドルさんたちのような強い人たちからすれば……な~んて思うか!
だったら、元気だって事をわからせてやる! と襲いかかるが返り討ちされた。




