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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第一章 始まりの始まり
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鍛錬の日々

 アドルさんたちは、どうやら俺にやって欲しい事があるようだ。

 何が目的かは、その時になれば教えてくれるそうなのだが、果たして一体何が待ち受けているのだろう。

 きっと、危機的状況に陥り、俺の隠され続けていた力がついに解放!


 更に倍!

 追加で倍!

 紙芝居!


 ……まぁ、元が大した事ないけど。


「何か心の声らしきモノが漏れているよ。それに、アキミチにそんな力はないからね」

「え? 声に出てた? ……希望くらいは持たせて下さい」


 俺を鍛え上げてくれている、骸骨騎士のインジャオさんが、笑っているような気がした。

 まぁ、骸骨なんで、本当に気がしただけなんだけど。雰囲気でも可。

 しかし……声に出ていたのか……恥ずかしい。


「でも、それだけ元気なら、休憩を終えて鍛錬の続きが出来るという事だね」

「ふっ……俺を見くびらないで下さい。口しか動かせません!」


 体の方は、先程までの鍛錬で既にボロボロである。


「いやいや、限界になってからが勝負だから」

「いや、やめて! ほんと限界だから! 今はもう無理だから!」


 反論するが、地面にお寝んねしていた体は動かせず、上機嫌っぽいインジャオさんに、簡単に担ぎ上げられてしまう。

 その瞬間、体中に筋肉痛が走った。


「筋肉痛が! ちょっと休ませて!」

「そこら辺は慣れだよ」

「慣れる前に潰される! 下ろして! この、鬼! 悪魔!」

「はっはっはっ、自分は骸骨だよ」

「駄目だ。通用しない……というか、全身骨だけなのに、どうしてそんなに力があるの!」

「う~ん……魔法的な何かだと、自分は睨んでいるよ」

「自分の事はせめて把握しておいて!」


 ………………。

 ………………タンレン、ガンバッタ。

 ………………。

 ………………こうやってカタカナにすると、「ガンバッタ」って、銃みたいな形のバッタか、銃を持っているバッタ、という風にも取れるよね。


「どこか、まだ余裕がありそうですね」


 ニッコリと笑っていそうなインジャオさん。


「…………………………やってやるわぁ~!」


 ……数秒後、気を失った。


     ◇


 そうして鍛錬の日々を過ごしていると、アドルさんたちの事もわかってきた。

 まず、アドルさんは、陽の光を克服している吸血鬼のようだが、朝が極端に弱い。

 寝て起きて、体を起こしてから一時間くらい経たないと行動しないのだ。

 その間は、ずっとぼぉ~っとしているだけ。


 ……本当に起きているのだろうか?

 アドルさんたちの持ち物の中に筆とインクがあったので、試しにインジャオさんと一緒に、起きたばかりのアドルさんの顔に落書きをしてみる。


「やっぱり、目の上に目を書くのは定番だと思うんです」

「それは確かに。あっ、アキミチ。もう少しまつげを長くして下さい」

「……ノリノリですね、インジャオさん」

「こういうの楽しいですよね。……それじゃ自分は、頬に斜線を入れて……照れているように見せましょう」


 インジャオさんと一緒に笑い合いながら、落書きを続ける。

 ウルルさんは呆れた目で俺達を見ていた。


「………………」


 それにしても、アドルさんは無反応である。

 やっぱり、起きていないんじゃないかな?

 しかし、このまま落書きを残してバレると問題なので、もちろん一通り遊べば証拠隠滅のため消しておく。


 ………………。

 ふぅ~……これで大丈夫。

 インジャオさんと親指を立て合う。


「……いや、普通に意識はあるからな」


 数時間、インジャオさんと一緒に正座のまま説教される。

 ついでに言うなら、この中で一番強いのはアドルさんだった。

 ……今度、トマトジュースも試してみよう。


 ウルルさんはメイド服を着ているという事もあり、俺達の家事全般をしてくれている。


 というのも、料理が美味しい。

 とにかく美味しい。

 嫁に欲しい。


 でも残念。既に決まった相手が居た。

 インジャオさんである。


「え? インジャオさんと恋人同士なんですか?」

「はい。そうですよ。私のベタ惚れなんです」


 嬉しそうに体をくねらせるウルルさんの返答に、インジャオさんが恥ずかしそうに頭を掻いていた。

 いや、骸骨だからよくわからん。

 でも、羨ましい。


「生前からの付き合いなんですけど、前よりもっと好きになりまして」


 聞いてもいないのに答えてくる。

 ……というか、前よりもっとって……それってつまり……。

 案の定、ウルルさんの今一番大好きな事は、インジャオさんの骨を噛み噛みする事だった。


「う~ん、くすぐったい」

「あむあむ」

「ウルルを落ち着かせるのは、あれが一番だから覚えておけ」


 アドルさんが、対ウルルさん用の最終兵器は、インジャオさんの骨であると教えてくれる。


「ついでに言えば、好みの部位もある」


 その情報は要らない。

 というか、ウルルさんの尻尾が振れっ振れである。

 ……見ているだけで、もうお腹一杯です。

 ちなみに、食材の中で魔物の素材利用など固有の呼び名があれば別だけど、野菜とか果物の名前は大体同じである事が、ウルルさんと話している内にわかった。


 インジャオさんは、本当によくわからない。

 だって骸骨だし……喋るし……骨なのに力強いし……骨だからフットワーク軽いし……骸骨だし……。


「二回言う必要はないんじゃないかな?」

「いえいえ、大切な事は、二回言うのが決まりですから」


 インジャオさんがそういうモノかな? と首を傾げる。

 フットワークを犠牲にして、何故顔まで隠して全身鎧なのかと尋ねると、初対面の人を驚かさないための措置らしい。

 ……めっちゃ良い人……じゃなかった。骸骨だ。

 しかし、どうして本人よりも重い全身鎧を身に纏っているのに、あんなに動けるのだろう?

 疑問に思ってインジャオさんをよく観察すると、ある事に気付く。

 ………………何か、ところどころ黒い。

 骨としての、白さがなかった。


「………………インジャオさん。ちょっとそこの黒くなっている部分を触ってみても良いですか?」

「構わないよ」


 ウルルさんからめっちゃ睨まれている気がする。

 いや、取らないから!

 気を取り直して触ってみる………………ひんやりすべすべ……叩いてみた。

 甲高い金属音。


「……うん。何か金属というか鉄っぽい………………インジャオさん! 骨が鉄っぽくなっているよ!」

「えぇ! 何だって! どうしてそんな事に!」


 驚いたっぽいインジャオさんは、黒く歪な棒状の何かをガジガジ噛んでいた。

 何で今そんなモノ……を………………。


「………………インジャオさん。その噛んでいる棒状のは何ですか?」

「あぁ、これ。何か口寂しくて、最初はそこらの岩を棒にして噛んでいたのですが、それでも物足りなくなった頃に、ウルルが鉄の鉱石で用意してくれたモノです。最近では、アドル様が魔力を込めてくれますから、更に噛み応えが」


 あっ、うん。

 多分、原因はそれだ。

 噛み砕かれて粉末状になった鉄が、骨に振りかけられる事で一体化したんじゃないだろうか。

 よくはわからないけど、きっと魔力が込められているっていうのも重要な気がする。


 ………………まぁ、色々考えても正解かどうかはわからないので、考えるのを止めた。

 そういう存在として認識しておけば、それで良いような気がする。

 本人が一番気にしてないっぽいし。


 ちなみに、アドルさん達の中で一番仲良くなったのは、鍛錬で一番時間を共有しているインジャオさんだ。

 ついでに言うなら、インジャオさんの骨を噛み噛みしているウルルさんの歯も、同じような事になっていそうな気がする。

 ……確かめても良いけど、「歯、見せて下さい」とかどこの変態という話になるので、止めておいた。


 そうして鍛錬中心の日々を過ごしていると、ついにその日が来る。

 朝、珍しく起きていたアドルさんから、出発する事を告げられた。

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