あの時の事がこの時に
盗賊集団から助けたダオスさんは言った。
上から、白、赤、青、黄、緑の五色葉を探していると。
………………。
………………。
アドルさんと肩を組み、くるっと回ってダオスさんに背を向ける。
「アドルさん、もしかして……」
「いや、もしかしなくても、そういう事だろう」
「ですよね」
間違いなく、セミナスさんが採取するように言って、実際に採取した五色葉だ。
アドルさんと揃って頷く。
すると、エイトが俺とアドルさんの前に回り込み、ジッと見てくる。
「えっと、どうしたの?」
「エイトを除け者にするのは酷いと思います」
「えぇ~……いや、酷いと思いますと言われても、採取した時にエイトはまだ居なかった訳だから……ピンと来ていないでしょ?」
「ピンッ!」
「いや、言えば良いという事でもないから」
とりあえず、盗賊集団捕縛中だけど、インジャオさんとウルルさんを呼んで事情説明をする。
その間、エイトが俺の周囲をぐるぐる回りながら、タイミングを計っては「除け者は酷いです」と直談判してきた。
……駄々をこねる子供に見えた、と言わない方が良い気がする。
「えぇと、これは……私はどうすれば良いのでしょうか?」
ダオスさんが不安そうに尋ねてきた。
そうだよね。
いきなり背中を向けられたら、尻相撲勝負を挑まれたのでは? と考えて、自分も背を向けて準備するべきか、それとも自分は審判役として開始の合図を言うべきかで躊躇ってしまうのもわかる。
かくいう俺も、勘違いだったけど前に同じこ――。
⦅違います。いえ、ちょっと待って下さい。その記憶はまだ見⦆
どうやら違うようだ。
なら、どういう対応を取れば良いのかで悩んだのかな?
それは失礼しました。
さて、どうやらこの時のための五色葉なのは間違いないが、どうして必要なのかくらいは聞いても大丈夫かな?
セミナスさんの指示によるものだから、悪用されるとは思わないけど。
ぐるぐる回るエイトを落ち着かせ、その辺りの事を含めてアドルさんに窺いの視線を向けると、任せろと頷きが返される。
「ダオス殿。不躾なのは理解しているが、どのような目的でその五色葉を探しているのか、教えては貰えないだろうか?」
「気を遣って頂いているようで、ありがとうございます。ですが、五色葉の使い道などそう多くはなく、大抵の場合はただ一つ。私が求める理由も同じであり……知り合いの薬師から、ノノン――孫の病を治すためには、その五色葉が必要だと教えられたからです」
……えっと、別に疑っている訳じゃないけど、本当に?
⦅はい。そこのいかつい商人が言っている事は事実です。また、いかつい薬師も真実を述べていますので、嘘を吐かれているという事もありません。ここは素直に渡して恩を売りましょう。今後のために、いかつい商人の協力が必要なので⦆
恩を売りましょうって、ぶっちゃけちゃったよ!
もう少しオブラートに包もうよ!
というか、薬師もいかついの?
⦅採取した五色葉を渡せば、そこのいかつい商人はマスターの味方となりますので、王都内で便宜を図って貰えます⦆
そうなんだ、じゃない!
言い方を変えたというか、もっと具体的で生々しくなっただけ!
⦅あっ、いかつい薬師はいかついです⦆
思い出したように言う!
もう良いや。さっさと渡してしまおう。
セミナスさん推奨だと伝えるため、俺はアドルさんに向かって頷く。
「言い辛い事だったろうが、わざわざ済まないな、ダオス殿」
「いえ」
「しかし、これは丁度良かった」
ダオスさんはどういう事だろうと首を傾げる。
アドルさんはニヤッと笑みを浮かべ、俺に向けて掌を見せてきた。
………………。
………………。
あ、あぁ。五色葉を出せって事ね。
肩の辺り、お腹の辺り、太ももの辺りの順に、服の上から手を置いて確認。
うん。ない。
というか、元々俺は持っていない。
インジャオさんを見る。
俺と同じように上から順に確認して……持っていないとアピール。
となると……と、俺とインジャオさんはウルルさんを見る。
首を傾げながら、ウルルさんは同じように上から順に確認して……持っていないとアピール。
ウルルさんはそのままエイトに視線を向けようとする。
いやいや……と、俺とインジャオさんは顔の前で手を振り、ウルルさんが提げている袋を指差す。
見た目以上の収納力を発揮する魔導具「アイテム袋」。
俺たちが基本手ぶらでも動けているのは、この魔導具があるからこそ。
採取した五色葉も、その袋の中に入っているはずなのだ。
ウルルさんは思い出したかのように手を打ち、袋の中を漁る。
………………。
………………。
どうやら、新しく色々と追加していたようで、目当ての五色葉が中々出て来ない。
鉱物、鉱物、鉱物、鉱物、木片、鉱物、鉱物、蜂蜜、鉱物……。
いや、鉱物多過ぎじゃない?
蜂蜜は無難だけど、木片は必要なの?
どう考えても、インジャオさんのためにどこかからパク……入手した物が多い気がする。
ウルルさんのインジャオさんに対する重い愛を感じた。
……鉱物だけに。
⦅なるほど! 取り出された鉱物の多さと、獣人メイドの骸骨騎士に対する愛の重さを掛け合わせた、という事ですか!⦆
セミナスさんのテンションが高い。
というか、思っていた反応と違う!
がっかりです! とか言われると思っていたのに!
……あれ? もしかして、この世界はそういう表現はないのかな?
……んんー、ないんだろうな。セミナスさんの反応から察するに。
………………。
………………恥ずかしい。
両手で顔を覆いたい気分になっていると、ウルルさんが漸く五色葉を袋から取り出し、直ぐにインジャオさんに渡した。
鉱物が山のように積まれているから、それを再び仕舞うのに忙しいんだと思う。
五色葉を受け取ったインジャオさんは、今度は俺に渡してきた。
受け取る。
いや、このやり取り必要? アドルさんに直接渡せばよくない?
そう思いつつ、アドルさんに渡す。
受け取ったアドルさんは、ダオスさんに五色葉を見せた。
「こちらで合っているか?」
「……おぉ……おおぉ!」
ダオスさんの目が輝く。
「確かにこちらの配色と並びで合っています! ですが、これは一体」
「……これも一つの縁。いや、きっと、ダオス殿の孫は救われる運命だったのだろう。この五色葉はアキミチが採取したモノだ。持ち歩いていればいつか使う時が来るかもしれないと、珍しく真剣な表情で言うので、アイテム袋の中に仕舞っておいたのだ。そして、実際にこうしてその時が来たという訳だ」
アドルさんがそう説明する。
セミナスさんの事を言うつもりはないっぽい。
まぁ、セミナスさんの力は、どう考えても破格だからな。
要らぬ欲を抱かないように隠すのは当然だと思う。
「先ほど、アキミチからも同意を得た。ダオス殿に、この五色葉を譲ろうと思う」
「なんとっ!」
……でも、珍しく真剣な表情って部分は必要?
いつも真剣だよ? 俺。
アドルさんにジト目を向けると、ダオスさんが一気に迫り、俺の両手を掴んでギュッと握る。
「ありがとう! 本当にありがとう! これでノノンは救われます! このような奇跡が起こるとは……アキミチ殿は、我が家にとって正に救世主で間違いありません!」
ダオスさんが、涙を流しながらそう言う。
きっと、これまで大変だったんだろうなぁ……。
でも、こういう時に不謹慎だけど、出来れば……そう、本当に出来ればだけど、こういう時の相手は美女が良かったな、と思ってしまった。
⦅呼びましたか?⦆
「ここに居ます」
俺と繋がっているセミナスさんと、俺の心情を的確に読んでくるエイトが反応する。
そもそも呼んでいないし、セミナスさんはわかるけど、エイトはどう見ても「美女」じゃなくて「美少女」の方だと思う。




