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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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これまで通りでいこう

 横転した馬車から出て来た白髪の偉丈夫は周囲の様子を窺い……アドルさんを見て驚きの表情を浮かべる。

 ん? 知り合いなのかな?

 でも、アドルさんは無反応なので、一方的に知っているだけなのかもしれない。


 白髪の偉丈夫は、まず馬車を守っていた武装している人たちに声をかける。

 遠いから何を言っているのかはわからないけど、武装解除し出したから、多分安全だと言っているんだと思う。

 お? これは、こちらから安全だと声をかけなくても良いかもしれない。


 そんな様子を窺っていると、白髪の偉丈夫はアドルさんに声をかけた。

 妙にかしこまっているように見えるけど……気のせいかな?

 アドルさんも最初は訝しんでいたが、二言三言言葉を交わすと……俺を手招きで呼ぶ。

 どうやら安全っぽい。


 向こうもこっちを知らないが、こっちも向こうを知らないしね。

 セミナスさんは知っているけど。


⦅呼ばれていますので向かいましょう⦆


 どういう人かくらいは教えてくれても良いと思うけど?


⦅これから紹介されますので必要ありません⦆


 という事らしいので、俺もエイトを連れてアドルさんのところに向かう。

 インジャオさんとウルルさんは呼ばないようだ。

 というよりは、倒した武装集団を動けないように縛っていっている。

 武装していた人たちもそれに協力していた。


 その様子を見ながら思う。

 それなりの人数だけど、ロープ足りんの?


⦅問題ありません。固定するために荷物を縛るなど、使い道は多々ありますので、それなりの長さのロープを持ち歩き、用途に応じた長さに切って使用する、というのはこの世界では基本です。また、馬車などの置き場あるのでしたら、それほどかさばるモノでもありませんし、それなりの数が常備されています⦆


 なるほど。説明ありがとう。

 この世界の事について、まだまだ知る事は多いんだな、と思ったところで、アドルさんに辿り着く。


「えっと、呼びました?」

「あぁ、アキミチを交えた方が、話が早いと思ってな」


 ……確かに。


「そういう事なら。でも、その前に聞きたいんですけど、先に話していたという事は、二人は知り合いなんですか?」

「いや、そういう訳ではなく、名を知っていたのだ。まぁ、向こうは私の姿もだが」

「一度遠目にお見かけした時がありました。商売柄、人の顔と名は一度で覚えるようにしていますので」


 アドルさんの返答に、白髪の偉丈夫が更に答えた。

 商売柄? と首を傾げながら、白髪の偉丈夫の姿を確認する。

 白髪短髪の六十代くらいの男性で、ベテラン戦士ですか? と思えるくらいに厳つい顔立ちに、偉丈夫と判断した通りの大きい体躯の上、仕立ての良さそうな服をモリモリと膨らみ上げている筋肉が特徴。


 ……うん。この人なら一人でも武装集団をどうにか出来たんじゃないだろうか?

 そんな雰囲気というか、迫力がある。

 ただ、そんな人物が、先ほどからアドルさんに気を遣っているというか、敬っているように見えた。


 もしかして、アドルさんって偉い立場の人?

 ………………。

 ………………。

 いやいや、ないない。


 だって、アドルさんだよ?

 まだ、インジャオさんの方が……いや、ウルルさんの方はないから………………よし、これまで通りでいこう。

 もし偉かったとしても……その時はその時だ。


「それじゃ、えっと……まずは俺が挨拶をすれば良いのかな? どうも、アドルさんたちに色々助けて貰っている、明道と言います。こちらは、メイドのエイトです」


 長い肩書きをわざわざ言わなくても良いだろう。

 エイトも簡単に紹介すると、白髪の偉丈夫は丁寧に一礼する。


「これはどうもご丁寧に。ダオス・ドングラと申します」


 そちらこそご丁寧に。


「ご主人様、エイトはただのメイドではなく、ご主人様の」

「誤解を招きそうだからやめようか」


 前回の反省を踏まえ、今度は人差し指と中指でエイトの唇を挟んで黙らせる。

 アヒルみたい……じゃなくて。

 ハハハ、と苦笑いを浮かべて誤魔化しつつ、気になった事を尋ねる。


「ドンラグ? ……あの、マークと一緒に書いてあるのと一緒ですね」


 もう大丈夫かな? とエイトの唇を解放し、横転した馬車の本体部分を指差す。


「あぁ、アレは商会のマークと、家名がそのまま商会名となっているのです」

「つまり、ドンラグ商会って事ですか?」

「えぇ、その通りです。このラメゼリア王国の王都に居を構える商会の一つです」

「という事は……その、ダオスさんは、家名と商会名が一緒だから、その商会のお偉いさんって事?」

「いえ、既に商会は息子に任せましたので、引退した身です。今は元会長というところですか」


 充分なお偉いさんだと思う。

 というか、筋肉質な体に丁寧な言葉遣いがミスマッチ過ぎる。

 違和感が半端ないけど、これは口に出さない方が良いのは間違いない。

 俺じゃ勝てないと思うし。


⦅正しい判断です⦆


 ………………。

 ………………。

 認められたら認められたで、それは悲しいモノがある。

 インジャオさんとの鍛錬、もっと頑張ろう。


 そう気合を込めていると、ダオスさんが俺とアドルさんに向けて一礼する。


「一先ずは感謝の言葉を。この度は助けて頂き、誠にありがとうございます」

「「いえいえ」」


 俺とアドルさんは、お気になさらずと、同じ態度を取る。

 期せずして同じ態度を取ると、なんとなく嬉しい。


「それで、セミナ……襲われていたので介入しましたけど、これは一体どういう状況なんですか?」

「そうですね。簡単に言えば、あの者たちは盗賊です」


 ダオスさんが縛り上げられていく武装集団を指し示す。

 おぉ、なるほど。つまり、武装集団ではなく、盗賊集団だったって事か………………え? 盗賊?

 そういう存在が居るってのは認識していたけど、初めて見るな。


「個人的な所用で王都を出たのですが、道中で襲いかかってかかられ、数的不利を考慮して逃走を選択したのですが、結果は見ての通りです」


 盗賊集団をジッと確認する。

 う~ん、なんというか……思っているより……。


「正直なところ、国としては恥なのですが、国内で盗賊が異常に増えた時期がありまして、騎士団も動いてある程度は排除したのですが」

「なんというかアレですね。盗賊という訳には見た目が良いと言いますか……もっと外見的に薄汚れているモノだと思っていました」

「え? あっ、はい。そうですね。もしかしたら、王都に侵入する事を考えていたのかもしれません。見た目だけでも小綺麗にしておけば、冒険者と名乗って通用する可能性が高いですし」


 確かに、よく確認すると、服もまともなモノを身に纏っている。

 ……だからか。

 こうも小綺麗にされていると、盗賊と見抜くのは難しいと思う。

 冒険者のように見えたため、ただの武装集団のように思っても仕方ない。


 だから、俺が盗賊だと見抜けなかったとしても、どこにも問題はないという事だ。

 同意を求めるように、アドルさんに視線を向ける。

 俺、抜けてないよね?

 意図が通じたのか、アドルさんは一つ頷いた。


「「いや、いくら見た目を小綺麗にしようとも、雰囲気でなんとなく盗賊だとわかる」」


 お前もか、ダオスさん!

 いや、アドルさんもだけど!

 というか、この短期間でダオスさんが俺の意図を読み取るとは……。


 これが年の功というヤツかもしれない。

 俺もいつか、そういう事が出来るように……あれ? そういえばダオスさんが何か言っていたような気が。


 ………………多分大丈夫。

 もし重要な事なら、セミナスさんから注意が入っただろうし。


⦅必要な情報はその都度教えますので問題ありません。ですが、マスターが人の話を聞かない駄目な人になっても困りますので、その事だけは心の中に留めておいて下さい⦆


 ………………。

 ………………。

 それは、ごめんなさい。反省。

 ダオスさんにも、正直に言って謝る。


 笑って許してくれた。

 そして、改めてもう一度、今度はきちんと話を聞いてから尋ねる。


「えっと、こんな状況ですけど、その所用というのは大丈夫なんですか?」

「そうですね。元々確定している話ではなく、塩の中から砂糖を見つけるような話でして……」


 それはほぼ見つからないって事では?

 ただ、ダオスさんの表情は、悲痛、悲壮といったモノに見える。

 アドルさんも同じモノを感じ取ったのか、心配そうに尋ねた。


「大丈夫か?」

「……わかりません。ですが、今の私には必要なのです。点在する全ての群生地に赴いてでも、必ず見つけなればいけません。……上から、白、赤、青、黄、緑の五色葉を」


 ………………ん?

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