次に向けて出発します
戻って来たアドルさんたちの後方には、大量の馬車。
馬車馬車馬車馬車馬車馬車………………。
数えている間に、プールに行きたくなった。
いや、今は寧ろお風呂に入りたい。
手を重ねてピュッ! としたり、ああぁ~……とか声を出したくなった。
体はきちんと毎日拭いているから清潔だとは思うけど、一度気になってしまうと……。
それに、親友たちと再会した時、体の臭いが気になるとか嫌だ。
ここはやっぱり一度町に出向いてお風呂に――。
⦅マスター、思考が逸れています⦆
おっとそうだった。
今は大量の馬車の方だ。
なんでこんなに? と思ったので、早速こちらに来たアドルさんに尋ねる。
インジャオさんとウルルさんは、一緒に来た人たちに対応するようだ。
「神殿遺跡内外にそれなりに居たからな。運ぶのにも人手が多く必要だったのだ」
それはわかる。
でも……。
「なんとなく見た目の判断ですけど、兵士っぽいですね」
「兵士だからな」
へぇ~……兵士か……え?
軽装、重装、様々な鎧を身に纏う兵士たちに、もう一度視線を向ける。
「……アドルさんたちが近くの町に着いてから、何がどうなってこうなったんですか?」
「あぁ、まずは教えられた近くの町に向かった。全速力ではないがそこそこの速度でも数時間程度だったので、思ったよりも近くだったのは幸いだったな」
うん。俺にはわかる。
絶対、思っているよりも近くないと思う。
アドルさんたちのような人のそこそこと、俺が思うそこそこは絶対違うはず。
あとアレね。
普通、数時間走り続けるなんて出来ないから。
「ただ、町に着いたは良いものの、どう話せば良いのかと悩んでな」
「それはそうですよね。ウルルさんというか獣人ならまだしも、吸血鬼と骸骨から怪しいのを捕まえたから人を手配してくれ、なんて言われても、いやいや怪しいのはそっちでしょ? と返されるのがオチでしょうし」
「それは偏見というモノだ、アキミチ。それに、吸血鬼とか見た目で判断出来ないだろうし、インジャオは全身を鎧で覆っている。どちらも普通に人に見えるのは間違いない。論破だ」
くっ……出来るな、アドルさん。
⦅また思考が逸れていますよ、マスター⦆
はい。すみません。
アドルさんに先を促す。
「結果としては、一度も止まる事なくスムーズに事が運んだので、今こうしてここに戻って来ているのだがな」
「え? そうなの?」
「あぁ。セミナスさんが三人で行けと言った意味がよくわかった。まず、私たちが辿り着いた町は『リアンルテ』というのだが、門番がインジャオの知り合いだったので事情を軽く伝えた」
「はぁ」
「その門番が門番長に報告し、門番長が更に上の立場の者に報告しに行った。それで、話の真実を伺いに来た者がウルルの友達だった」
「ふむふむ」
「そのウルルの友達が相当上の立場の者だったようで、領主は居なかったのでその代理と、冒険者ギルド・リアンルテ支部のマスターを連れて来たのだが」
「……オチが見えた!」
「私の知り合いだったのだ」
「うん! でしょうね!」
話の流れ的にそれしかないと思った。
きっとするすると話が進んでいったんだろうなぁ。
「でも、話をしただけで、よくここまで迅速に動いてくれましたね」
「あぁ、どうやら、どこかからの指示で何やら色々と探っていたようだ。今回の出来事は、その内の一つに偶々合致したらしい。だからこそ、直ぐに準備が進められて時間をかけずに動く事が出来た訳だな」
「へぇ~……そんな事があるんですね」
「実際に起こっているし、あるという事だな」
ハハハ……と、アドルさんと揃って笑う。
⦅……フッ⦆
セミナスさんから勝ち誇ったような雰囲気を感じる。
……触れないでおこう。
勝利の余韻に浸らせてあげるのも優しさだよね。
そのあとは、インジャオさん、ウルルさんと合流し、兵士たちはエイトによって積み上げられた敵をテキパキと馬車に積んでいく。
何名かが、神殿遺跡内に入っていった。
調査でもするのかな?
入れ違うようにしてエイトが神殿遺跡から出て来て、こちらに向かって来る。
見逃しがないかチェックしていたようだけど、誰も運んでいないから終わったのかな?
……あっ、そういえば、この証拠の紙束はどうしたら良いの?
兵士たちに渡せば良いのかな?
⦅こちらで使用する予定がありますので、渡す必要はありません⦆
アドルさんたちにもそう伝えておく。
というか、アドルさんたちは、多分そうなるだろうと思っていたようで、リアンルテで話を通した際に、証拠の紙束の事は言わなかったそうだ。
……あれ? なんだろう。この気持ち。
……嫉妬? なのかな。
俺の方がセミナスさんを理解していると思っていたのに……って違う。
思ってない! そんな事、思ってないから!
⦅私の掌の上にようこそ、マスター⦆
今以上にコロコロと転がされてしまうのだろうか?
未来の自分はどうなっているんだろうと心配していると、エイトが直ぐ傍で立っていた事に気付く。
その目は俺を真っすぐに見つめ、何かを期待しているかのように見える。
「えっと……どうした?」
「該当区域の敵生命体の運搬が終了した事を報告します」
「は、はぁ……」
「該当区域の敵生命体の運搬が終了した事を報告します」
「えっと、わかった?」
「該当区域の敵生命体の運搬が終了した事を報告します」
……いや、なんで何度も同じ事を?
⦅褒めて欲しいのだと助言しておきましょう⦆
なるほど。
そういう事ならと、エイトの頭の上に手を置いて撫でてしまうのは、きっと見た目のせいだろう。
「ありがとう。助かったよ、エイト」
「………………」
あれ? 反応がない?
不思議に思って様子を窺うと、エイトは顔を真っ赤にして固まっていた。
思っていた反応と違う。
「え、えっと……」
どう対応すれば……と考えていると、エイトがぼそっと呟く。
「……ご主人様への好感度を上げておきます」
お前もか、エイト。
その呟きで俺も冷静になった。
とりあえず、もう一撫でしてから手を放し、アドルさんに尋ねる。
「それで、俺たちはどうすれば良いんですか? あの兵士たちが終わるまで待っていた方が良いんですか?」
「いや、私たちの役目はここに案内するまでで終わっている。寧ろ、関わり過ぎると自由に動けなくなるからな。だからこそ、もう自由行動だ。その証拠に、向こうからの干渉がないだろう?」
「……確かに」
言われてみると、兵士たちは俺たちの存在を認知はしているけど、不必要な接触をしようとはしていない。
ただ、時折、アドルさんたちに向けて手を振ったりの合図をする人は居るけど……多分、あの人たちが、アドルさんたちの知り合いというか友達なんだろう。
とりあえず、ペコッと頭を下げておく。
ここまでご苦労様です。
あと、宜しくお願いします。
そこで閃く。
待てよ……自由行動という事だけど、このまま兵士たちと行動を共にすれば、町に行けるんじゃない?
しかも、徒歩じゃなく馬車で!
その上、アドルさんたちの友達が居るという事は、町の案内、もしくは良質の宿の紹介……いやいや、待て待て。
ここまでの事をした事によって宿代は無料、果ては金一封をこの手に!
という事は、俺はこの世界に来て初めて自由に使える金を手にする訳か。
……あざーす!
⦅茶番の妄想は終わりましたか? では、次に向けて出発しますよ⦆
ですよね~……。
はぁ……せめてお風呂に入りたかったな。
結局、森から出た時に行った村の宿にはなかったし。
⦅ご安心下さい。マスターの意向も充分理解しております⦆
というと?
⦅確かに、そこいらに居る者たちに付いて行けば町に辿り着き、金一封はありませんがお風呂には入れるでしょう⦆
あっ、金一封はないんだ。
⦅正確には既に吸血鬼たちが……しかし、普通の町のお風呂で良いのですか?⦆
いや別に普通のお風呂で良いんだけど、ちょっと待って。
今、聞き捨てならない事を言わなかった?
⦅これから向かうのはこの国の王都です。しかも、このまま進めば、王都ならではのとても豪華なお風呂に入る事が出来るでしょう。異世界に来て初めてのお風呂がとても豪華なお風呂というのも良いではありませんか?⦆
………………。
………………。
よぉし! この国の王都に向けて出発だぁ~!
⦅……まぁ、王都に着いたからといって、休まるかどうかはわかりませんが⦆
セミナスさんが何か呟いたような気がするが、今は王都だ!
エイト、アドルさんたちに王都に向かう事を伝え、出発した。




