やっぱりね。そうだよね。
「……これは?」
「わかりやすく言えば、『魔導具』という魔力の込められた特殊な道具だ。それは、この世界で『確認玉』と呼ばれているモノで、持って『スキルチェック』と念じれば、自身の持つスキルが全て表示される……のだ」
……何だろう。
先程から、何か言葉の歯切れが悪過ぎる。
まるで、これから起こる事を知っていて、どう伝えれば良いのかを迷っているような………………気のせいだな。
しかし、こうして自分の持つスキルを確認出来るのはありがたい。
早速確認しようとするのだが、色白の男性の言葉はまだ終わっていなかった。
「ついでに言っておくと、この世界の平均的なスキル保持数は、大体四個か五個だ。まぁ、実際に調べた訳ではないし、保持スキルの公開は個人の自由だから、一概に正しいとは言えない。まぁ、一つの基準にはなるだろう」
「そうなんだ……え? 公開は自由なの?」
「自由だ。ただまぁ、今回に関しては、予め予言の神から聞いているから、確認の意味も込めて、私達にも見せて欲しい」
「まぁ、別に良いけど」
知っているなら隠す必要はないと判断して、俺は「スキルチェック」と念じ、水晶玉の表面へと視線を向ける。
「 」
………………。
「 」
まだかな~。
………………。
「 」
………………。
………………あっ、もしかして表裏があって、手で隠れているところに表示されているとか?
全体的に確認してみよう。
「 」
………………。
………………。
「………………何も表示されないんですけど!」
え? 何これ? え? え?
もしかして、俺って何のスキルも持っていないの?
いやいやいやいや、そんなまさか………………でも、はっきり言えば、俺自身も持っているとは思っていなかった。
スキルがあると、実感出来ていなかったというか……。
でも待てよ。
まだ希望は残されている。
実はこの水晶玉が壊れて――。
「別に壊れていない」
「あっ、そう……」
……つまり、俺のスキル所持数は……ゼロという事になる。
………………。
………………。
この世に希望はないのかっ!
ガッデム! と頭を抱える。
うおおおおおぉぉぉぉぉっ!
自分が主役とか思ったのが恥ずかし過ぎる! 自意識過剰過ぎる!
主役はやっぱり親友たちの方でした。
というか、俺も異世界へと来たのに、何のスキルも持っていないとは……手でも抜かれたという事なのだろうか。
……いや、これが巻き込まれた者の宿命か?
しかし、俺が持つスキルが最強ってのも、そもそもスキル自体を持っていないって……。
今直ぐ穴を掘って、生意気な事を考えて申し訳ありませんでした、と潜りたい。
意気消沈していると、ふと気付く。
三人が冷静というか……リアクションが薄いというか……まるで。
「……俺にスキルがないって、知っていた?」
「済まない。聞いてはいたのだが、こちらも半信半疑だったのだ」
申し訳ない、と三人が頭を下げる。
そうか……知っていたのか………………え? 何で?
「いやいや、何で知ってんの? 俺が召喚されるまで会った事ないのに」
「封印される前に、予言の神から聞いたのだ。一人だけ外れた場所に召喚される事。そして、その者を手助けして欲しいという事を」
「なるほど。だからあの時に都合良く助けが入って、色々と世話を焼いてくれているという事か。とりあえず、ありがとう」
助けて貰ったのは事実なので、頭を下げる。
でも、同時に納得も出来た。
服とかやたらと準備が整っていたのは、そういう事だったのか。
……それなら、事前にトイレも良いのを作っていて欲しかった、と思うのは欲張り過ぎだろうか?
「いや、気にしないで欲しい。こちらにも手助けする事情があるのだ」
「事情? どんな?」
「それに関してはもう少し待ってくれ。その時がくれば教えると約束しよう」
う~ん、色々と何かありそうだ。
でも、今の状況では、無償で助けられるよりも、互いに持ちつ持たれつのような関係なら、信用も出来る。
「わかった。なら、その時まで待つよ」
「すまないな。ただ、今はスキル表記されていないが、更新されれば表記されるモノはある」
「え? 何が?」
「ふふっ。現に今、こうして話しているではないか」
「あぁっ! これもスキルに入るのか!」
「そういう事だ。それと、鍛錬の結果で何かしらのスキルは表記されると思う」
なるほどなるほど。
そう言われれば、何か納得出来た。
補正はないと思ったけど、実際は得ている事にホッと安堵する。
特別なスキルもないけど。
「とりあえず、わかった。つまり、俺たちは協力関係にあるという事?」
「そう取って貰えると助かる」
「なら、きちんと自己紹介をしておかないとね」
そう言って、俺は笑みを浮かべる。
思えば、喋れるようになっても、お互いに自己紹介をした覚えがない。
いや~、目の前の出来事というか、日々生き残る事に精一杯で、ころっと忘れていた。
三人もそういえばそうだったなと相槌を打つ。
それでこれまでやってきたのだから、案外俺達は相性が良いのかもしれない。
「それじゃ、言い出した俺から。俺の名前は『行道 明道』。十七歳。高校二年生だ!」
自信満々に言う。
「なるほど。コウコウニネンセイというのがよくわからないが、名と歳はわかった」
「う~ん……。今更だけど、黒髪黒目は珍しいけど……」
「それ以外は普通の男性ですね」
普通で悪いか!
確かに顔の出来と体型も普通だけど、それの何が悪い!
そんなの、俺が一番知っているわい!
ぷりぷりしていると、色白の男性が立ち上がる。
「では、私から始めよう。名は『アドル』」
色白の男性――アドルさんを、改めて確認する。
金髪のオールバックに、鋭い目付きの非常に整った顔立ち。八重歯がチャームポイント。
見た目は二十代後半くらいで、服は黒のタキシードを着ている。
一緒に居てわかった事は、朝が弱くてだらしない事だろうか。
「歳は覚えていないな。これでも吸血鬼だからな」
「なるほど。吸血鬼だから朝に弱いのか」
「いや、そういう訳ではないのだが、驚かないのか?」
「え? 何に?」
「え?」
互いに意味がわからないと首を傾げる。
「いや、別に驚かないけど。何か見た目からそれっぽかったし」
「そ、そうか……何か聞きたい事はあるか?」
「あっ、じゃあ一つだけ。陽の光に当たってた時もあったけど、大丈夫なの?」
「弱い者も居るが、私は克服した。……いや、そうではなくて、血を吸わないのかとか聞かないのか?」
「いや、そのつもりなら、もうやっているだろうし、そもそも勝てると思えないし」
何というか、見た目と違って強そうだ。
うんうんと頷いていると、次は獣耳の女性が立ち上がる。
「次は私が! 名は『ウルル』! 見てわかる通り、白狼の獣人よ!」
獣耳の女性――ウルルさんを改めて確認する。
長い白髪に狼耳が頭の上にぴょこんと、可愛らしい顔立ちに腰辺りから尻尾が飛び出していた。
見た目は二十代前半で、メイド服の上からでも体型がグラマラスだという事がわかる。
「はぁ……宜しくお願いします」
「扱いが軽くない! 獣人だよ、獣人! しかも白狼の!」
いや、自慢気に言われても、正直意味がわからない。
首を傾げると、ウルルさんが落ち込んだ。
何か申し訳ない。
すると、次は自分だなと、全身鎧の人? が立ち上がった。
正直に言って、最初に抱いた印象から、本当に人なのかな? と怪しんでいたのだが、吸血鬼、獣人ときたので、ちょっと確信している。
「自分の名は『インジャオ』。見た目ではわからないだろうから、正体を明かそう。怖がるかもしれないが、襲わないから安心して良いよ」
そう言って、全身鎧の人? が兜を取った。
そこから現れたのは、骸骨。
立派な全身鎧を着た骸骨。
それがインジャオさんだ。
「最初に助けてくれてありがとうございます、インジャオさん。これからも宜しくお願いします」
「……いや、普通だね。大抵の人は驚くんだけど」
「まぁ、何となく人ではないと思っていましたし。でも、一つ聞いても良いですか?」
「何でも聞いてくれて構わないよ」
「じゃあ遠慮なく。どうやって喋っているんですか?」
「さぁ」
わからないのか。
仕組みを知りたいと思ったけど、わからないのなら仕方ない。
魔法があるくらいだし、何でもありなのだろう。
出来るから出来るくらいの認識で丁度良いのかも。
うんうんと自己完結していると、三人から呆れた目を向けられているような気がした。
「まさか、何でもないように受け入れるとはな」
「私はちょっと不満です」
「俺は怖がらずに受け入れてくれるだけで充分ですけどね」
まぁ、親友たちからも、何事も受け入れるのが早過ぎるとは言われていた。
器が大きいという事で、どうかお一つ。
「それで、これから俺はどうしたら良いの?」
「それに関しては予言の神からの指示がある。もう少し鍛錬を積めば、向かって欲しい場所があるのだ」
アドルさんがそう教えてくれる。
神からの指示とか怖いんだけど、協力関係にある以上、やっておいた方が良さそうだ。
……危険な事じゃないと良いなぁ。
そして、その場所に向かうまで、俺は主にインジャオさんの指導の下、鍛錬を積む。




