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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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カテゴリー分けは慎重に

 豪華な椅子から飛び降りた少女メイドが、俺を見て……ローブの男性を見て……自分の姿を見て……俺に視線を向ける。


「魔力波形から、あなたがエイトのマスターである事を目視で確認しました」

「はぁ」

「故に、マスターに言いたい事があります」

「な、なんでしょう?」

「エイトが眠っている間にメイド服を着せて悦に入るとは、マスターはとんだロリコン変態野郎ですね」

「ちょっ! いきなり何言ってんの、この少女メイド! 濡れ衣だから! それ、濡れ衣だから! 神様たちだから! 趣味に走ってそういうの着せたの、神様たちだから!」


 起動するための詠唱文もそうだけど、ほんと、この少女メイドを作った神様たちはろくでもないような気がする。

 解放せずに、このまま封印しておいた方が、この世界のためになるんじゃないかと思えるくらいに。


 ただ、そんな俺の思いと言葉は、少女メイドには届いていなかった。


「ですが、残念なお知らせです、マスター。エイトは作られてからそれなりの月日が経っていますので、ロリBBAのカテゴリーに該当すると思われます」

「そんな事聞いてないから! というか、何故そんな事を言った! どちらにしても俺の趣味じゃないから!」


 全力否定すると、少女メイドが優しい笑みを浮かべる。

 まるで、隠さなくても良いんですよ、と言わんばかりに。


「いや、別に隠してないから! 事実だから! ほんと、事実だから!」

「あっ、エイトの事はエイトとお呼び下さい」


 少女メイド――エイトがスカートを摘まんで挨拶をする。

 その表情は、言ってやったとどこか満足気だ。


「自由かっ!」


 心の底から声を張り上げて叫ぶ。

 と、そこで気付く。


 しまった! 敵が現れたのに放置してしまった!

 直ぐに確認するために視線を向けると――。


「「「………………」」」


 ローブの男性が三人に増えていた。

 分裂……分身……したとは思えないので、単純に増援かな?

 ……でも、ローブで顔が見えないからか、誰が誰とか判別が付かず、皆同じ人に見える。

 体型もどことなく似通っているし。


 すると、恐らく最初に現れたと思われるローブの男性が、他の二人にこそこそと何かを伝えると、一斉に俺を指差してきた。


「ロリコンなのが罪なのではない」

「このような場所に連れ込んで」

「手を出した事が罪なのだ」


 差していた指を引っ込め、杖の先端を俺に向けてくる。


「「「この犯罪者め! 覚悟しろ!」」」

「いや、こんな場所でこそこそしている人たちに言われたくないわ!」


 完全なる冤罪である。

 犯罪者なのは、寧ろ向こうだろう。

 ……まぁ、なんの犯罪なのかはわからないけど。


⦅マスター。その返しですと、ロリコンなのは否定されていませんが?⦆


 ………………。

 ………………。

 はっ! 確かに!


 即座に否定してようとするが、その前に、自分の体を目視で確認したエイトが言う。


「マスター。エイトには手を出された跡がありません」

「うん。出してないからね!」

「……なるほど。エイトは完全に理解しました」

「うん。絶対理解していないよね?」

「あそこに居る三人を気にしているようですので、人目が気になる事……つまり、マスターのマスターサイズを気にして手を出していないのですね?」


 ………………。


「………………いや、ちょ! ちょっと待って! 今、多分だけど、言っちゃいけないような事を口に出したよね? もちろん否定するよ! いや、なんの事を言っているのか理解出来ないけど、否定しておくから!」


 今度は、俺の方からローブの男性三人を指差す。


「それと、そっちは勝ち誇った顔すんな!」

「問題ありません、マスター。気になる人目を排除すれば良いだけですから」


 そう言って、エイトがローブの男性三人に向けて襲いかかる。

 だからそういう訳じゃなくて、弁明させてくれないかな!

 エイトの行動が速過ぎて、その隙がなさ過ぎる。


 けれど、排除すると言ったその力は本物だった。

 セミナスさんが戦力増強と言うのも理解出来る。


 エイトがいきなり襲いかかったので、最初は気が動転していたようだが、ローブの男性三人は直ぐに持ち直し、狙いを定めさせないために三方に散って杖を構えた。

 狙いはエイト。

 どうやら、襲いかかられた事でエイトを敵と認識したようだ。


「『魔力を糧に 我願うは 万物を灰する咆哮 火炎砲』」

「『魔力を糧に 我願うは 塵が集積した塊 土槌』」

「『魔力を糧に 我願うは 降り注ぐ輝き 光輝雨』」


 エイトに向けて、三方向から魔法が放たれる。

 杖の先から火炎放射が噴出し、土塊で形成された大きな槌が振り下ろされ、エイトを中心にした小範囲の光る雨が降り注ぎ出す。

 けれど、エイトは冷静だった。

 それぞれの魔法に対して、カウンター魔法を放つ。


 火炎放射に対しては――。


「『全てを凍えさす棺 氷箱』」


 氷で形成された棺型の箱が、火炎放射を丸ごと飲み込む。

 大きな土槌に対しては――。


「『吹き荒ぶ暴威 旋嵐』」


 可視化出来る無数の風の刃が、土槌を粉々に切り刻んでいく。

 光る雨に関しては――。


「『不歩の境界線 黒飲布』」


 エイトの上空に真っ黒な布が現れ、光る雨を全て飲み込んでいく。

 これにはローブの男性三人も驚き、焦るように魔法を連発していくが、エイトはなんでもないように、全てを完全に防いだ。


 という、セミナスさんの戦闘解説を聞きながら、目の前の光景を見て思う事は一つ。

 ………………エイトって普通に凄いな。


⦅アレぐらいは造作もないでしょう。そうでなければ、今後のための戦力増強にはなりませんから⦆


 そうなんだ。

 今後の敵の強さに不安を覚える。

 ……まぁ、性格は難ありって感じだけど。


⦅そこは目をつぶって頂きます。戦力としては一級品ですので、早々に慣れて頂ければ問題ありません⦆


 嫌な慣れだな、それ。

 ところでセミナスさん。

 ローブの男性三人に比べると、エイトの魔法詠唱が短いのは、やっぱり優秀だから?


⦅本来であれば、魔法は全文詠唱でなければ完全な力は発揮出来ません。ですが、少女メイドはその出自からして色々と規格外ですので……そうですね。詠唱破棄しても威力が下がらない種族特性という方が認識しやすいでしょうか?⦆


 なるほど。

 なんとなくわかった。

 他にも居るだろうエイトと同種の存在は、そういう力を持っているって事ね。


⦅ちなみにですが、そこの『汎用型』はその名の通り、通常時尖った力を持たない代わりに、全属性魔法の適性が与えられています。ですので、先ほどのように魔法攻撃に対しては、相性によるカウンター魔法で対抗出来るのです⦆


 相性?


⦅はい。火と水、風と土、光と闇は互いに影響し合い、時空は時空に、という感じでしょうか。ただ、周囲の環境や込められた魔力量などにもよりますので、基本的には、という一文が付随しますが⦆


 う~ん……聞いておいてなんだけど、現状で魔法が使えていない俺には関係ない話かもしれない。

 ……いや、そんな事もないか。

 一つ勉強になったのは間違いないし、覚えておいて損はないかもしれない。


⦅必要になれば私が全て教えますので、覚えなくても問題ありません⦆


 ……セミナスさんが居れば、テスト前に一夜漬けしなくても良くなるな。

 いやでも、テスト中に教えて貰うのは、カンニングに抵触するかもしれない。

 だったら、テスト前にヤマ勘って事にして出題問題を教えて貰えば……。


⦅マスターと私は一心同体。私の力はマスターの力。いつでも聞いて頂いて構いません。全て教えますよ⦆


 やめて! 誘惑しないで!

 自分を律しなければ堕落しそうだな、と思った。


 そうしてセミナスさんと会話している間に、エイトがローブの男性三人を倒していた。

 セミナスさんの説明によると、ご丁寧に魔力で作り出したロープで縛り上げ……ちょっと待って。

 確かアレって……一部からご褒美と呼ばれている、亀甲縛り? だっけ?

 しかも天井から吊るされているし……この場の誰が喜ぶの? これ?


 やった本人であるエイトも嫌な表情を浮かべて見ている。

 ならやるなよ。


⦅可能性の話ですが、そこの汎用型を造った神々から、縛り方は亀甲のみだと設定されているのかもしれません⦆


 やっぱり、ろくでもない神様たちだと思った。

 エイトがこちらに戻り、ジッと俺を見る。


「……やはり、エイトはマスター以外を縛るのは嫌です」


 こいつもろくでもないと思った。

 俺にそんな趣味はないからね!

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