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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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状況的に言っただけだから

 洞窟から侵入した神殿遺跡内を進む。

 えっと、洞窟が地下だったから、ここも地下で良いのかな?


⦅考えるまでもありません⦆


 合ってた。

 でも、セミナスさんがちょっと辛辣になったような気がする。


⦅そんな事はございません。ただ、マスターが私の力を超える時があると思うと、こう……なんと言いますか……そう……トゥクン……⦆


 ときめきっ!

 というか、それは擬音であって、実際に言葉にしない方が良いと思う。


⦅ですので、心の赴くままに、マスターへの好感度を上げておきましょう⦆


 ……下がる時は来るんだろうか?


 そんな感じでも、セミナスさんの指示は完璧だった。

 ローブの男性と同じ姿の敵を何回か見かけたが、結果は見つかっていない。

 思ったより人数が居るっぽいけど、敵の数、進行方向、歩数、視線など、全てを見切っているセミナスさんのおかげだ。


 物陰に隠れてひっそりと……回避。

 天井近くで左右の壁に手足を伸ばして張り付き……回避。

 行った事あるような、ないような……海浜公園。


 普通の公園は記憶にあるんだけどなぁ……。

 そもそも、違いがわからない。

 場所的な事なのかな……。


⦅真面目にやって下さい⦆


 ごめんなさい。


 言われた通り真面目に進んでいくが……あれ? セミナスさん。

 そこに上に行く階段があるけど……。


⦅上がりません⦆


 その横に下に行く階段があるけど……。


⦅下りません⦆


 どうやら、目的はこの階層にあるようだ。

 でも、一体なんだろう?

 確か、証拠集めと戦力増強で、証拠集めはアドルさんたちの方だから、こっちは戦力増強という事になる。


 ……こんな場所で?

 単純に考えれば人だけど……武器とかありえるか。

 忘れられたとか、封印されたとか。


⦅………………⦆


 この話題を考えると、セミナスさんがどことなく不機嫌になるような気がする。

 それでも指示を出してくれるので進んでいくと、辿り着いた場所はそこそこ広い部屋。

 柱が何本も立ち、壁も崩れている箇所は見当たらない。

 比較的まともな部屋だが、綺麗さっぱりとしている。

 調度品とか、そういうのが一切ない部屋……逆に違和感が。


⦅元宝物庫です。この神殿遺跡は秘密という訳ではありませんでしたので、長い年月の間で荒らされ終わり、名も存在も忘れ去られようとしています。ですので、マスター的に言えば、逆に候補に挙がらないと言いますか、見つかりにくい場所のため、賊が集まりやすくなっています⦆


 なるほど。

 荒らされ終わっているから、宝物庫といっても何もないのか。

 ガランとしているのも理解出来る。


 ………………ん? なら、どうしてここに?

 もう何もないんでしょ?


⦅表向きは⦆


 表向きは?


⦅まず、そこらにある柱ですが――⦆


 セミナスさんの説明を聞きながら行動していく。

 まず、注目するように言われた柱だが、よく見ると下の方の一部が回せるようになっている。

 しかも、数字のメモリっぽいの付き。

 ここが宝物庫だったのなら、宝物の方に目が向いて気付かないと思う。

 もしかしたらそれが狙い?


 とりあえず、全部の柱がそうなっているようなので、セミナスさんの言う通りに回していく。

 最後の一本を回し終わると、部屋の奥の壁の一部が横にずれて通路が現れる。

 ゴゴゴ……って感じでずれていったけど……。


 ………………。

 ………………。

 ふぅ~……敵は現れないな……。

 そこそこの音量だったけど、この宝物庫もそこそこ広いから外まで響かなかったのかな。


 入り口横の壁に張り付いて杖を構えていたけど、無駄な労力だった。


⦅そもそも、敵が現れるなら私が告げます⦆


 ですよね。

 杖を下ろして現れた通路に向かう。

 通路は直ぐに終わり、次に現れたのは上に向かう螺旋階段。


⦅マスターの目的地はこの螺旋階段を上った先にあります⦆


 ……一体何があるんだろう?

 行けばわかるか、と早速向かう。

 螺旋階段を上がった先にあったのは扉。

 開けて中に入ると同時に、室内の壁に設置されていたランプが光る。

 魔法か?


 そして、部屋の奥。

 豪華な椅子に座り、眠っているように見えるメイドが居た。


 黒髪に、目を閉じていてもわかる可愛らしい顔立ちで、見た目で言えば十二歳くらいだろうか?

 わかりやすくメイド服を着ている。

 最近のヒラヒラフリフリのではなく、なんだっけ……クラシックタイプ? ってやつ。

 う~ん……エレガント。


⦅こほんっ⦆


 あっ。

 決してそういう趣味が――。


⦅私もクラシック的なメイド服に着替えました。存分に妄想を楽しんで下さい⦆


 ちっがぁ~う!

 だからそういう趣味が――。


⦅もちろん、妄想ですので私を好きにして頂いて構いません。ですが、助言を一つ。……私のメイド服はオーダーメイド。腰の紐を引きますと、一気にはだけるようになっています⦆


 ………………その仕組み詳しく。

 じゃない!

 危ない! 心が奪われるところだった……いや、違う!

 別に奪われようとなんて最初からしていないから!


⦅……想定していた以上の動揺ですね。それほど好きという事ですか。さすがは『未来予測』を上回る時があるマスターです⦆


 今それを言われても嬉しくない!

 というか、こういう事で上回っても………………いや、寧ろ安全は確保されているようなモノだから、これはこれで良いのか。


 って、そうじゃなくて!

 ……もしかしてだけど、戦力増強になるのは、このメイドの少女?


⦅はい。その通りです⦆


 やっぱりそうなんだ。

 ……でも、なんでこんなところで寝ているんだろう?


⦅マスター。気付いていないようなので言いますが、それは様々な神が協力して造り出した神造生命体……ホムンクルスです⦆


 ………………。

 ………………。

 え? いやいや、え?

 だって、継ぎ目とかそういうのないし、普通にメイド服を着た女の子にしか見えないよ?


⦅間違いありません。正式名称は『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・汎用型』です⦆


 途端に物騒になった!

 兵器とか汎用とか……あれ? ちょっと待って。

 そういう名称が付くって事は、汎用じゃないのもあるって事じゃ……。


⦅素晴らしい着眼点です。そして正解です。この『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器』には、『特化型』も存在しているようです⦆


 更に物騒に、というか物騒でしかない!


⦅だからこそ、戦力増強になるのです。今後のマスターの安全のためには必要ですので、割り切って頂かないといけません⦆


 安全のためと言われると……ん?

 割り切るって、何を?


⦅私はもう割り切りました⦆


 割り切ったって、何を?


⦅ですので、まずは『対大魔王軍戦よ』……長いので割愛しましょう。それを起動して下さい。そのあと、マスターを主として登録するための行動に応えて下さい⦆


 待って。こっちの話は終わってないよ?

 まずは何を割り切らないといけないのかを、教えて欲しいんだけど?


⦅起動には詠唱が必要ですので、復唱をお願いします。『我が心に刻み誓うは、紳士淑女のオリハルコンの掟』。はい⦆


 教える気がないのはわかった。

 多分だけど、起こせばわかるんだろう。


「……我が心に刻み誓うは、紳士淑女のオリハルコンの掟」


⦅『ちょ、違う違う! 触ってない! 一切触ってないから!』⦆


 ………………。

 ………………。

 拒否して良いですか?

 というか、本当に詠唱なの? それが?


⦅お疑いですか?⦆


 いや、そういう訳じゃないけ――。


「貴様! こんなところで何をしている!」

「――っ!」


 突然声をかけられて声にならない叫び声を上げる。

 振り返ると、この部屋の入り口付近に、ローブを身に纏う男性が居た。

 こちらを警戒するように見ていて、その手に持っている杖の先端が俺に向けられている。


 ……くっ、まさかこんなところで敵に見つかるとは。

 セミナスさんも教えてくれれば良いのに。

 そう思っている間に、ローブの男性の視線が俺と少女メイドの間を何度も行き来し……段々と眉間に皺が寄っていく。


「………………」

「………………」

「………………貴様! そんな年端も行かぬ少女を相手に一体何を!」

「ちょ、違う違う! 触ってない! 一切触ってないから!」


⦅『愛でているだけ! それこそがオリハルコンの掟』⦆


「愛でているだけ! それこそがオリハルコンの掟! って、それも違~う!」

「貴様ぁ! 動くなよ! 大人しく捕縛されろ! 近くにある城塞都市の警備兵に突き出してやる!」

「誤解だから! 話し合えば相互理解が出来るはずだから!」


 そう説得してみるが、ローブの男性から本気を感じる。

 というか、後ろ暗いのはそっちだと思うんだけど。

 でも、戦いは避けられないかもしれない。

 覚悟を固めていると、少女の声が室内に響く。


「起動詠唱を確認しました。声紋によるマスター登録をしました。同時にマスターの魔力波形も登録しました。条件オールクリア。『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・汎用型』……『エイト』。起動します」


 振り返ると、少女メイドが、ぴょんと豪華な椅子から飛び降りた。

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