状況的に言っただけだから
洞窟から侵入した神殿遺跡内を進む。
えっと、洞窟が地下だったから、ここも地下で良いのかな?
⦅考えるまでもありません⦆
合ってた。
でも、セミナスさんがちょっと辛辣になったような気がする。
⦅そんな事はございません。ただ、マスターが私の力を超える時があると思うと、こう……なんと言いますか……そう……トゥクン……⦆
ときめきっ!
というか、それは擬音であって、実際に言葉にしない方が良いと思う。
⦅ですので、心の赴くままに、マスターへの好感度を上げておきましょう⦆
……下がる時は来るんだろうか?
そんな感じでも、セミナスさんの指示は完璧だった。
ローブの男性と同じ姿の敵を何回か見かけたが、結果は見つかっていない。
思ったより人数が居るっぽいけど、敵の数、進行方向、歩数、視線など、全てを見切っているセミナスさんのおかげだ。
物陰に隠れてひっそりと……回避。
天井近くで左右の壁に手足を伸ばして張り付き……回避。
行った事あるような、ないような……海浜公園。
普通の公園は記憶にあるんだけどなぁ……。
そもそも、違いがわからない。
場所的な事なのかな……。
⦅真面目にやって下さい⦆
ごめんなさい。
言われた通り真面目に進んでいくが……あれ? セミナスさん。
そこに上に行く階段があるけど……。
⦅上がりません⦆
その横に下に行く階段があるけど……。
⦅下りません⦆
どうやら、目的はこの階層にあるようだ。
でも、一体なんだろう?
確か、証拠集めと戦力増強で、証拠集めはアドルさんたちの方だから、こっちは戦力増強という事になる。
……こんな場所で?
単純に考えれば人だけど……武器とかありえるか。
忘れられたとか、封印されたとか。
⦅………………⦆
この話題を考えると、セミナスさんがどことなく不機嫌になるような気がする。
それでも指示を出してくれるので進んでいくと、辿り着いた場所はそこそこ広い部屋。
柱が何本も立ち、壁も崩れている箇所は見当たらない。
比較的まともな部屋だが、綺麗さっぱりとしている。
調度品とか、そういうのが一切ない部屋……逆に違和感が。
⦅元宝物庫です。この神殿遺跡は秘密という訳ではありませんでしたので、長い年月の間で荒らされ終わり、名も存在も忘れ去られようとしています。ですので、マスター的に言えば、逆に候補に挙がらないと言いますか、見つかりにくい場所のため、賊が集まりやすくなっています⦆
なるほど。
荒らされ終わっているから、宝物庫といっても何もないのか。
ガランとしているのも理解出来る。
………………ん? なら、どうしてここに?
もう何もないんでしょ?
⦅表向きは⦆
表向きは?
⦅まず、そこらにある柱ですが――⦆
セミナスさんの説明を聞きながら行動していく。
まず、注目するように言われた柱だが、よく見ると下の方の一部が回せるようになっている。
しかも、数字のメモリっぽいの付き。
ここが宝物庫だったのなら、宝物の方に目が向いて気付かないと思う。
もしかしたらそれが狙い?
とりあえず、全部の柱がそうなっているようなので、セミナスさんの言う通りに回していく。
最後の一本を回し終わると、部屋の奥の壁の一部が横にずれて通路が現れる。
ゴゴゴ……って感じでずれていったけど……。
………………。
………………。
ふぅ~……敵は現れないな……。
そこそこの音量だったけど、この宝物庫もそこそこ広いから外まで響かなかったのかな。
入り口横の壁に張り付いて杖を構えていたけど、無駄な労力だった。
⦅そもそも、敵が現れるなら私が告げます⦆
ですよね。
杖を下ろして現れた通路に向かう。
通路は直ぐに終わり、次に現れたのは上に向かう螺旋階段。
⦅マスターの目的地はこの螺旋階段を上った先にあります⦆
……一体何があるんだろう?
行けばわかるか、と早速向かう。
螺旋階段を上がった先にあったのは扉。
開けて中に入ると同時に、室内の壁に設置されていたランプが光る。
魔法か?
そして、部屋の奥。
豪華な椅子に座り、眠っているように見えるメイドが居た。
黒髪に、目を閉じていてもわかる可愛らしい顔立ちで、見た目で言えば十二歳くらいだろうか?
わかりやすくメイド服を着ている。
最近のヒラヒラフリフリのではなく、なんだっけ……クラシックタイプ? ってやつ。
う~ん……エレガント。
⦅こほんっ⦆
あっ。
決してそういう趣味が――。
⦅私もクラシック的なメイド服に着替えました。存分に妄想を楽しんで下さい⦆
ちっがぁ~う!
だからそういう趣味が――。
⦅もちろん、妄想ですので私を好きにして頂いて構いません。ですが、助言を一つ。……私のメイド服はオーダーメイド。腰の紐を引きますと、一気にはだけるようになっています⦆
………………その仕組み詳しく。
じゃない!
危ない! 心が奪われるところだった……いや、違う!
別に奪われようとなんて最初からしていないから!
⦅……想定していた以上の動揺ですね。それほど好きという事ですか。さすがは『未来予測』を上回る時があるマスターです⦆
今それを言われても嬉しくない!
というか、こういう事で上回っても………………いや、寧ろ安全は確保されているようなモノだから、これはこれで良いのか。
って、そうじゃなくて!
……もしかしてだけど、戦力増強になるのは、このメイドの少女?
⦅はい。その通りです⦆
やっぱりそうなんだ。
……でも、なんでこんなところで寝ているんだろう?
⦅マスター。気付いていないようなので言いますが、それは様々な神が協力して造り出した神造生命体……ホムンクルスです⦆
………………。
………………。
え? いやいや、え?
だって、継ぎ目とかそういうのないし、普通にメイド服を着た女の子にしか見えないよ?
⦅間違いありません。正式名称は『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・汎用型』です⦆
途端に物騒になった!
兵器とか汎用とか……あれ? ちょっと待って。
そういう名称が付くって事は、汎用じゃないのもあるって事じゃ……。
⦅素晴らしい着眼点です。そして正解です。この『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器』には、『特化型』も存在しているようです⦆
更に物騒に、というか物騒でしかない!
⦅だからこそ、戦力増強になるのです。今後のマスターの安全のためには必要ですので、割り切って頂かないといけません⦆
安全のためと言われると……ん?
割り切るって、何を?
⦅私はもう割り切りました⦆
割り切ったって、何を?
⦅ですので、まずは『対大魔王軍戦よ』……長いので割愛しましょう。それを起動して下さい。そのあと、マスターを主として登録するための行動に応えて下さい⦆
待って。こっちの話は終わってないよ?
まずは何を割り切らないといけないのかを、教えて欲しいんだけど?
⦅起動には詠唱が必要ですので、復唱をお願いします。『我が心に刻み誓うは、紳士淑女のオリハルコンの掟』。はい⦆
教える気がないのはわかった。
多分だけど、起こせばわかるんだろう。
「……我が心に刻み誓うは、紳士淑女のオリハルコンの掟」
⦅『ちょ、違う違う! 触ってない! 一切触ってないから!』⦆
………………。
………………。
拒否して良いですか?
というか、本当に詠唱なの? それが?
⦅お疑いですか?⦆
いや、そういう訳じゃないけ――。
「貴様! こんなところで何をしている!」
「――っ!」
突然声をかけられて声にならない叫び声を上げる。
振り返ると、この部屋の入り口付近に、ローブを身に纏う男性が居た。
こちらを警戒するように見ていて、その手に持っている杖の先端が俺に向けられている。
……くっ、まさかこんなところで敵に見つかるとは。
セミナスさんも教えてくれれば良いのに。
そう思っている間に、ローブの男性の視線が俺と少女メイドの間を何度も行き来し……段々と眉間に皺が寄っていく。
「………………」
「………………」
「………………貴様! そんな年端も行かぬ少女を相手に一体何を!」
「ちょ、違う違う! 触ってない! 一切触ってないから!」
⦅『愛でているだけ! それこそがオリハルコンの掟』⦆
「愛でているだけ! それこそがオリハルコンの掟! って、それも違~う!」
「貴様ぁ! 動くなよ! 大人しく捕縛されろ! 近くにある城塞都市の警備兵に突き出してやる!」
「誤解だから! 話し合えば相互理解が出来るはずだから!」
そう説得してみるが、ローブの男性から本気を感じる。
というか、後ろ暗いのはそっちだと思うんだけど。
でも、戦いは避けられないかもしれない。
覚悟を固めていると、少女の声が室内に響く。
「起動詠唱を確認しました。声紋によるマスター登録をしました。同時にマスターの魔力波形も登録しました。条件オールクリア。『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・汎用型』……『エイト』。起動します」
振り返ると、少女メイドが、ぴょんと豪華な椅子から飛び降りた。




