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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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無意識は意識出来ないから無意識

 アドルさんたちと分かれて行動する事になった。

 それは良い。

 もう起こった事、というか、アドルさんたちは既に行ってしまったから、もうどうしようもない。

 後戻りは出来な……いや、待てよ。

 今から追いかければ――


⦅意味のない事はやめて下さい。分けた意味がありません⦆


 ですよね。

 セミナスさんから注意された。

 それも別に良い。

 気にしない。


 ただ、こうして一人になると……やっぱり寂しい。

 ………………。

 ………………。

 しまった!


 せめて、高性能の武器でも持たせて貰うんだった。

 攻撃に対する才能がなくても、持っているのと持っていないのとでは大きな違いがある。

 このままだと、手ぶらで動く事になってしまう。


⦅必要ありません。そもそもマスターが戦う事にはなりません……いえ、そうさせません⦆


 言い切ったよ。

 けど、それが出来るのがセミナスさんだ。


⦅どうしても何かを持ちたいのでしたら、そこらにある木の枝でもお持ち下さい⦆


 ………………。

 ………………。

 ないよりはマシかも? と木の枝を持つ事にする。


 ……意外としっくりときた。

 ヒュンヒュンと素振りもしてみる。

 ……何故か気持ち良い。

 たかが木の枝だけど、不思議と万能感がある。


 まぁ、いざ戦いになれば、なんの役にも立たないんだろうけど。

 気持ちの問題だな、うん。

 木の枝を装備して、セミナスさんの指示する方向へと歩を進めていく。


 ………………。

 ………………。

 あの、セミナスさん?

 神殿遺跡からどんどん離れていくんだけど……どこに向かっているの?


⦅マスターの身体能力では見張りをかわせませんので、裏口のような部分から侵入します⦆


 もう少しオブラートに包んでくれると嬉しいんだけど……。


⦅建物内に居るのは大して動けもしない、固定砲台のような魔法使いしか居ませんが、周囲を見張っているのは脳筋戦士ばかりですので、貧相な魔法使いたちならまだしも、マスターの現在の身体能力では脳筋戦士たちに太刀打ち出来ません。特に、一人はマスターのようなタイプが好みのようですので⦆


 詳しく説明して欲しいって言った訳じゃないよ?

 心に優しく効く言葉でってお願いしたん……ちょっと待って。

 俺が好みって何?


⦅辿り着きました⦆


 いやいや、だから、俺が好みって何?


⦅そこの岩陰に地下に下りる階段がありますので、そちらから侵入して下さい⦆


 ……答えてくれる気はないようだ。

 いや、重大な事ならセミナスさんはもっと注意を促すはずだから、大した事ではないのかもしれない。

 そう思う事にした。


 ちょっと肩を落としながら、俺の倍くらいありそうな大きな岩の周囲を窺う。

 ……これ、かな?

 一見すると目立たない、というか注意深く見ないとわからないような位置の地面に扉があった。

 扉の半分くらいを隠すように上に石や岩が載っているが、力を入れれば開き……ぐぐ………………ふぅ~。


 何個かどければ……いや、やれる!

 俺ならやれるはずだ! 男の意地をみせてやる!


⦅マスター、ファイト!⦆


 素直に応援されると不安になる。

 しかし、やってみせる!

 固く閉まった蓋だって開けられるんだ!

 扉だってぇ~……ぐぐ………………はぁ、はぁ、はぁ……。


⦅ちなみにですが、見た目以上に重いので、数個は扉の上からずらす事をオススメします⦆


 そういう事は早く言って!

 大人しく数個ずらしてから扉を開けた。


 ……うぅ~ん、緑の匂い。

 いや、実際に見える範囲だけでも、植物の根というか茎のような部分が、ところどころ生い茂っている。

 しかも、それ自体が光っていた。

 ……え! 発光してる!


⦅そういう植物です⦆


 さすが異世界。

 でも、扉の先は下に下りる階段があって、その先は洞窟のようになっているので、光源の役割なのかもしれない。

 助かります。


 暗い洞窟内を進むと転んでしまうし、転んで方向がわからなくなる、なんて事もあるかもしれないしね。


⦅安心して下さい。私の指示通りに進めば良いだけですから。マスターを導きましょう⦆


 そんな事はなかった。


⦅私とのトゥルーエンドへ⦆


 そっち!

 そこに深く突っ込んではいけない気がしたので、大人しく階段を下りて洞窟内を進んでいく。

 蜘蛛の巣が偶にあったが、そこは俺の装備した木の枝が活躍した。

 ふははははっ! 蹂躙してくれるわっ!

 ……荒らすようで申し訳ない、蜘蛛。


 一本道の洞窟を進んでいくと、人工物っぽい壁にぶつかる。


⦅この先は神殿遺跡の地下一階にある一室に繋がっています⦆


 なるほど。

 つまり、この洞窟はいざという時の避難路……隠し通路だったのか。


⦅その通りです、マスター。あとはそこの棒を下げると、あっ⦆


 洞窟の壁から棒が突き出ていたので、言われた通り下げる。

 人工物っぽい壁がぐるんと半周した。


「「え?」」


 目の前に居る人と声が重なる。

 人工物っぽい壁が半周すると、ローブを身に纏った男性が現れた。

 魔法使いっぽく見える。

 壁に寄りかかっているので、休んでいたのかもしれない。


 ………………。

 ………………。


「う、うわっ!」

「て、敵か!」


 ローブの男性が驚きながら洞窟の壁に手を付く。

 俺も驚きながら腕を振り抜くと、木の枝がローブの男性の顔面を強打して、折れた。

 しっくりきていたのに……。


 ローブの男性は昏倒していた。

 木の枝の跡がくっきりと付いているのが痛々しい……じゃなくて!


 セミナスさん!


⦅どうかしましたか?⦆


 いや、どうかしましたか? じゃなくて!

 敵っぽいのが居ましたけど?

 ……敵だよね?


⦅はい。敵です⦆


 冷静!

 そういう事じゃなくて、戦いは起こらないって言っていたよね?


⦅……? 今のが戦いだと?⦆


 ………………。

 ………………。

 そう言われると……ねぇ?

 戦い、と呼べるかどうかと問われると、呼べない……かなぁ?


⦅その通りです。ですが、攻撃能力が皆無に近いマスターにとっては危機的状況に陥ったと言っても過言ではありません。それに、マスターがこちらの想定外の動きを取る事も理解していたのに……動く前にとめられなかったのは私の責任です。申し訳ございませんでした。今後はもっと気を配っていきますので⦆


 待って待って待って待って。

 そう素直に謝られるとは思わなかったから、ちょっと驚いて対応出来な……あれ? 俺、今ディスられた?

 というか、その前に聞きたいんだけど、セミナスさんでも想定外の事って起きるの?


⦅そうですね、先ほどの私が言い切る前にマスターが即座に棒を下ろしたのは想定外でした。どうやら、マスターの行動は私の内包しているスキルの一つ、『未来予測』すらも上回る時があるようです。さすがは予言の神に選ばれた存在だと再認識しました⦆


 いやぁ~。それほどでも。

 ………………。

 ………………。


 ちょっと待って。

 それって、つまり……あれだよね。

 今後、より危険が増した……って事?


⦅ふむ。そういう言い方も出来ますね。……私も頑張りますがマスターも、ファイト!⦆


 おー! と手を上げておく。

 ほんと、考えなしに動かないように気を付けないと……でも、そういう行動って無意識だからなぁ……。

 一息吐いて気持ちを入れ替える。


 とりあえず、先に進んで問題ないよね?


⦅はい。確認しましたが、壁の向こう側の部屋に敵影はありません⦆


 よし、行くか。

 ……あっ、ローブの男性どうしよう。


⦅吸血鬼たちと合流後に回収で問題ありません⦆


 という事で放置。

 人工物っぽい壁を背にして、下がっていた棒を上げる。

 ぐるっと半周。

 洞窟内から神殿遺跡内へ。


 ………………よし。誰も居ない。

 室内というのはわかるが、遺跡だけあってそれなりにボロボロだ。

 ……ん?

 回る壁の横に、真新しい杖が立て掛けてあった。


 ……あぁ、そういえば、木の枝で殴り倒す前にローブの男性が壁に手をやったのは、これを取ろうとしたのか。


 折れた木の枝の代わりにしっくりこない杖を持ち、セミナスさんの指示する方に進んでいく。

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