別章 アドルたち、証拠を取りに行く
セミナスの指示により、アドルたちは明道と一旦分かれて行動を開始する。
これからどのように動けが良いのかは、全てセミナスから聞いていた。
まずは神殿遺跡への侵入。
当然のように見張りが各所に居るのだが、これまた当然のように死角は存在する。
セミナスによって死角となる時と場所は既に判明しており、アドルたちはその時と場所から音なく跳躍した。
そのまま空中でくるっと一回転し、神殿遺跡の屋上部分に音なく着地。
ポーズ付き。
特にそういう訓練をした訳ではなく、全て身体能力の賜物である。
表情はわからないが、真面目な感じでインジャオがアドルに尋ねる。
「……アドル様。一つ伺っても良いですか?」
「……なんだ?」
「……空中で一回転とか、ポーズで着地するとか、セミナスさんの指示通りに行いましたが、必要なのですか?」
「……見栄え……らしい」
「………………」
「………………」
アドルはなんとも言えない表情を浮かべる。
インジャオはわからない。
ウルルだけは、うんうんと頷いて理解を示していた。
アドルとインジャオだけ気持ちを切り替えるように息を吐き、次の行動に移る。
ここは神殿遺跡……そう、遺跡なのだ。
しかも、ここに居る者たちは一時的に利用しているだけなのか、補修などは行っていない。
となると、風雨にさらされ続ければ、当然のように外壁が破損していく。
内部への侵入口は、そんな風に破損しているところの一ヶ所。
室内が剥き出しで、風雨にさらされていた部分が少し砕けている。
先ほどと同じように、音を立てないようにアドルたちが侵入。
一旦足を止めて、騒ぎなど異音がしないか確認。
………………。
………………問題はない。
「……念のために常に確認をしておいて欲しいと言われたが……なんの問題もなく侵入出来たな」
「そうですね。こうしてきちんとその恩恵を受けると、セミナスさんの凄さが否応なしにも理解出来てしまいます」
「もうスキルの枠を超えていますよね。自我もあるし。………………でも、アキミチの様子から察するに、色々関係ない事も話しかけられているみたいだし、私には必要ないかな?」
ウルルがう~んと考えながら言う。
その言葉に、アドルとインジャオも、もし自分にセミナスがあれば? と考え………………ウルルと同意見だと頷く。
関係ない話を頻繁に話しかけられるのはちょっと……と。
だが、アドルはそれとは別の事も考えた。
「………………しかし、セミナスさんの能力は本物だな。これなら、約束したように……確実に会う事が出来るな」
そう呟くアドルの表情は笑みだった。
ただし、それは喜びや楽しみではなく、怒りや憎しみ、殺意が混じる酷薄な笑みである。
「アドル様。殺意が漏れています。気持ちはわかりますが察知されると困りますので、今は抑えて下さい」
「そうですよ。それに、気を付けて下さいね。それは私たちがやるべき事であって、アキミチを関わらせてはいけないんですからね」
インジャオとウルルの言葉を受けて、アドルは静かに大きく息を吐く。
殺意を吐き出し、心を落ち着かせるように。
「……ふぅ。そうだな。二人の言う通りだ。少々気持ちが逸ってしまった。すまん」
アドルの謝罪の言葉に、インジャオとウルルは気にしていないと笑みを返す。
そして、行動を開始する。
音を立てないように扉を開けて、まだそれなりに形を保っている通路を一気に突き進んでいく。
曲がり角に敵が居れば、壁や天井を使った立体機動のような動きで即座に無力化。
通路を歩いている敵が居れば、崩れている壁などを利用して姿を隠し、近付いてきたところを一発ズドン。
セミナスによって、どこに敵が居るのかわかっているため、容易に対処出来ていた。
神殿遺跡内部がそれなりに広かったため少々時間はかかったが、予定外の事は起こらず、アドルたちは目的地として教えられた部屋の前に辿り着く。
「……ここ、だな?」
「はい。間違いありません」
「えっと、確か中に三人居て、サクッと倒さないと証拠が燃やされるで、合っている?」
「あぁ、それで間違いない。正確には、侵入時の方法と証拠は机の中にある、という事だけ教えられ、あとはこちらの判断に任せる、だがな。アキミチが言うには、必要以上に知らない方が上手くいく、らしい。まぁ、元々即座に無力化するので、その辺りはどうでも良い部類だ」
ウルルが思い出すように口にして、アドルが補足する。
目線を合わせて問題がない事がわかると、アドルとウルルは扉脇に陣取り、インジャオは扉から少し離れた位置に立つ。
タイミングを見計らい、インジャオが扉に手を付き、一呼吸のあとそのまま一気に突き押す。
衝撃で扉は室内に吹き飛び、ほぼ同時にアドルとウルルが開いた入り口から室内に侵入。
「――!」
「「――な!」」
アドルとウルルが侵入と同時に確認。
室内に居たのは二人。
……二人? と首を傾げるが、答えは直ぐにわかった。
吹き飛んだ扉と壁に挟まれて気を失っているのが一人居たのだ。
クッションの役割も果たしていたため、衝撃音がなかったのである。
ちなみに、この判断は時間でいえば瞬間的な事であり、残る二人は侵入したアドルとウルルに反応すらしていない。
一人が既に片付いている事を理解したアドルとウルルは、残る二人へと迫る。
アドルは床を蹴り天井を蹴って一気に肉迫し、標的にした一人の首をトン……として意識を刈り取った。
ウルルは床を蹴り壁を蹴って一気に肉迫し、標的にした一人にアイアンクローをかまし、腹部に一発食らわせる。
悶絶後、気絶。
命まで奪わなかったのは、証拠は多い方が良いので極力生かしておいて下さい、とセミナスから言われたからである。
「……それにしても、セミナスさんが言った通りだな」
きちんと気を失っているかを確認しながら、アドルがそう呟く。
室内に入って来たインジャオと、ウルルが同意した。
「そうですね。見張りは戦士職が多かったですが、建物内に居たのは魔法職ばかり」
「比率も魔法職の方が多いみたいだし……魔法職が中心の集団なのかな?」
「論じるのはあとだ。まずは手に入れるべきモノを手にしておこう」
アドルが室内にあるボロ机の引き出しを開く。
引き出しの中にあったのは……紙束。
紙束を手にしたアドルは、書かれている内容を確認する。
一見すると、その内容はなんて事はない知人に送るような手紙。
けれど、アドルは即座に見抜く。
「魔法で隠蔽されているな。残滓が残っている事から、切羽詰まった状況だったのか、元々大した腕ではないのか」
「どちらにしろ」
「間抜けって事ね」
インジャオとウルルの言葉に苦笑を浮かべたアドルは、魔力を掌に集め、紙束の表面をなぞるように動かす。
すると、紙束が薄く発光し、書かれていた文面が消えて、新たな文面が浮かび上がってくる。
アドルは、一番上の紙に書かれている一文を口にする。
「……『魔法使い部隊・指示書』?」
アドルたちは、これが証拠だろうか? と揃って首を傾げ、パラパラとめくって確認していると、神殿遺跡の外から爆音が響いた。




