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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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分かれる

 セミナスさんが言うには、これから二手に分かれるそうだ。

 それに問題はない。

 必要な事なんだろう。

 でも、分かれ方に問題があった。


 第一グループ → 俺オンリー

 第二グループ → アドルさんたち


 詰んだ。

 いやいや、どう考えても無理だよね?

 たかが数ヶ月、頑張っただけなんだよ?

 ここ、過酷な世界だし、何も出来る気がしないんだけど?


 ………………。

 ………………。

 そもそも、危険が一杯のPremonition。


 予感を英語変換してしまうくらい、本能が危機到来を訴えている。

 こうなっては仕方ない。

 スッと片手を上げる。


 異議を申し立てる!


⦅却下します。それと、マスターが無言で手を上げましたので、そこの吸血鬼たちが私に意見をしているのかな? と生温かい視線を向けています⦆


 スッと上げた片手を下ろす。

 異議を申し奉ります!


⦅言い方を変えても駄目です。却下します。何度言われようとも答えは変わりません。それに、マスターは一人ではありません。前提が間違っています。私という完璧なスキル……生涯の伴侶が付いていますので、どこにも問題はありません⦆


 いや、言い直す意味があったの?

 ……あぁ、ただのスキルではないと言いたかったのかな?

 それとも、普通に考えればスキルがなくなるなんて事はないから、ずっとそこにあるという事で、そういう言い回しをしたのかもしれない。


⦅それでも不安でしょうか?⦆


 しかも、もうそこには触れないんだね。

 ちょっと勢いで言ったしまった、とか?


⦅なるほど。理解出来ました。マスターは今後、一日一回は必ず足の小指を壁にぶつけるように》


 いやぁ~、セミナスさんが一緒だなんて頼もしいなぁ!

 ないない! 不安なんて一切ない!

 これはもうアレだね!

 成功が約束されているようなモノだ!


⦅そこまで己の力に自惚れている訳ではありませんが、マスターから寄せられる期待に応えられるよう、鋭意努力させて頂きます⦆


 宜しくお願いします。

 でもさ……こう、なんて言うか……不安とかそういうには特にないんだけど……危険な場所に向かう事に変わりはないでしょ?

 特に俺は攻撃能力皆無みたいなモノだから、敵と遭遇すると他の人たちより危険度が増すというか……。


⦅マスターの攻撃能力が皆無でも問題ありません。そもそも、敵と遭遇した場合の危険度がどれだけ高かろうとも、遭遇しなければ関係ありませんので⦆


 なるほど。そういう考え方か。

 確かに、出会わなければ問題なんてないけど……でも、なんだろう。

 セミナスさんから、出来る女の雰囲気が醸し出されている気がする。

 キツメの眼鏡をかけていそうな。


⦅そうですね。今の私は出来る……いえ、実際に出来過ぎる秘書ですので⦆


 自信満々にクイッと眼鏡をいじってそう。

 いや、実際出来過ぎるんだろうけど。


 ……それでも、一人は……やっぱり寂しい。

 なので、付いて来て貰うために、アドルさんたちに二手に分かれる事を伝える。


「……という訳で、これから俺一人とアドルさんたちの二手に分かれて行動するそうです。でもほら、俺は攻撃力がないから誰か一緒に」

「わかった。こちらは問題ない。インジャオ、アキミチは大丈夫だな?」

「そうですね。未だに攻撃に関しては壊滅的ですが、防御と回避だけに絞れば一流と言っても通用するレベルにはなっていますので、敵に出会っても逃げに徹せば問題ないと思います」


 アドルさんとインジャオさんは敵となった。

 味方を求め、ウルルさんを見る。


「大丈夫だって! それに、今後の事も考えれば丁度良いんじゃない?」

「……今後、の事?」

「そうそう。いつも私たちが傍に居られるかはわからないんだからさ。誰も居ない状況だって起こり得るんだし、その時のための練習だと思って」


 うん。まぁ、ウルルさんの言う事もわかる。

 ………………。

 ………………。

 そうだよな。

 いつまでも助けられる立場に居る訳にはいかない。

 アドルさんたちに頼りっ放しじゃ駄目だ。

 疑うまでもなく頑張っている親友たちと再会した時、自慢出来る俺で居たい。


「よし! 頑張る!」

「「「おお~」」」


 アドルさんたちが拍手してくれる。

 状況に応じているため、音量は少々小さいが。


 さぁ! セミナスさん、指示を!


⦅………………⦆


 ………………。

 ………………あれ? セミナスさん?


⦅………………つーん⦆


 なんで不機嫌な表現を?


⦅私の言葉ではなく、そこの獣人メイドの言葉で、マスターがやる気になったのが気に食わない訳ではありません⦆


 逆に正直だと思う。

 それと、そんなセミナスさんが、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 完璧だと思っていた人が偶に見せる隙って……良いよね。


⦅………………マスターには常に私が付いていますので、その都度指示を出します。ですので、そこの吸血鬼たちが取るべき行動を説明させて頂きます⦆


 あれ? 説明してくれるの?

 さっきまで不機嫌だったのに?


⦅不機嫌? はて、なんの話でしょうか?⦆


 なかった事になってる!

 よくわからないけど、説明してくれるのなら説明をお願いします。


⦅かしこまりました。では……⦆


 という訳で、セミナスさんの説明を聞き、俺がアドルさんたちに伝えていく。

 セミナスさんが直接話せるようになれば楽なんだけど……まぁ仕方ない。


⦅口頭では足りませんので、地面に図を描いて頂けると助かります⦆


 口だけじゃなく手まで使うようになった。

 そこらに落ちてあった感じの良さそうな木の棒を使って、地面に描いていく。


 ……多分、神殿遺跡の見取り図。


 本当はもっと複雑なんだろうけど、さすがに地面に細かいところまでは描けないので、ある程度は簡略化している。

 もちろん、簡略化している事を踏まえて欲しい、とアドルさんたちに伝えておく。


 ……ちょっと描いている手が痛くなったが、なんとかセミナスさんの指示通りに描き終える事が出来た。

 自分的には上手く描けたと思う。

 アドルさんたちの様子を窺うが、特に困っているようではないので、充分通じているようで良かった。


⦅では次に、二階部分をお願いします⦆


 ………………。

 ………………。

 頑張った。

 描いた手がプルプルしているけど。

 木の棒も一本折れた。

 良い感じだったのに。


⦅では次に……⦆


 ……くっ。もってくれ……俺の手よ。

 それかもう一方……いや、そっちは不器用だから――。


⦅敵の数と配置を教えますので、そこらの石を指定する場所に置いていって下さい⦆


 勝った!

 思わず拳を握りたくなったが、我慢。

 セミナスさんの指示する場所に、そこらの石を置いて……くっ。手がプルプルしているから掴み辛いし落としてしまう。

 ……引き分けという事にしておいた。


⦅なんの勝負をしているのか理解出来ません⦆


 それは俺もわからない。

 ……男のプライドり、かな?


 それにしても、改めてセミナスさんの凄さを理解してしまう。

 建物の内部構造とか、そこに居る敵の数とか配置が筒抜けって……恐ろしい。

 その上、未来も見えるので、奇襲や待ち伏せも通用しないのだ。

 ……敵、詰んだな。


 そんな事を考えている間に、説明を伝え終わる。

 アドルさんたちは問題ないと頷いた。


⦅そもそも、そこの吸血鬼たちの戦闘力であれば、真正面から無策で突っ込んでも無傷で勝利します⦆


 アドルさんたちも恐ろしい。

 それでもこうしてセミナスさんが説明したのは、目的の一つである、何に使うかよくわからない何かの証拠を確実に手に入れるためだった。

 ……という事は、真正面から突っ込めば、その証拠がなくなるのかな?


⦅はい。襲撃を察知すると、まず証拠隠滅を行う指示が出ているようです⦆


 ふ~ん。


「では、行動を開始しよう。頑張れよ、アキミチ」

「一人でも出来ると信じていますよ、アキミチ」

「ファイトだよ、アキミチ」


 あれ? そんなアッサリなの?

 というか、心配され過ぎじゃない?

 俺だって一人でやろうと思えば出来るんだから!

 それを証明してみせる!


 ただ、移動を開始したアドルさんたちの背中を見て……ふと思った。


 ……セミナスさんが俺と二人きり? になりたかった訳じゃないよね?


⦅それだけで選んだ訳ではありません⦆


 だよね………………ん? それだけ?


⦅さぁ、デートに向かいましょう⦆


 ちょっ! 建前が取れているから!

 大丈夫なんだよね?

 俺、一人で行動して大丈夫なんだよね?


 ちょっと不安になった。

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