自分で言っていきたい時もある
つまり、元々大魔王ララは狂っている訳ではなく、これまでその身に宿った邪神に対抗していたという事……だよね。
(はい。その通りです。ですが、対抗といっても、精々が完全に支配されないようにするための抵抗、でしょうか。結果としては、造られてからの大半は乗っ取られていたようなモノです)
まぁ、過去で相当暴れていたようだしね。
それで、大魔王ララの体が損傷したから魔王リガジーの体の方に邪神が移ったと思ったけど、大魔王ララの話によると、それが本来の目的だった、と。
(はい。リガジーがあれだけ戦闘向けの体格になったのは、邪神の思惑なのは間違いありません)
まぁ、その目的は考えるまでもないか。
⦅自らを倒した神と竜への復讐。それと、世界の破壊でしょうか⦆
やっぱりセミナスさんもそう思うんだ。
しかしまぁ、復讐しようとするために強い体を求めたというのはわかるけど、なんだってこう、ああいうタイプって世界を壊したがるんだろうか?
⦅理由を求めてはいけません。そういう存在である、という認識で充分です⦆
そうね。
それに、これで明確な終わりというか、最終的な敵が大魔王ララではなく、邪神だという事はわかった。
………………あれ? セミナスさんはこの事、前からわかっていたの?
⦅いえ、残念ですが……そう、非常に残念ですが、そこに居る大魔王がマスターの中に入ってきた時にわかりました⦆
え? そうなの?
てっきり、もちろんわかっていました、とか言うと思っていた。
⦅マスター。確かに私は万能です⦆
あっ、自分でそういう事を言っちゃうのか。
いや、俺もそう思うけどね。
(先輩。そういうのは自分で言わない方が良いのでは?)
⦅黙りなさい。私は自ら言っていくスタイルですので。ただ、邪神に騙されていたのも事実。誤った未来を見せられていたのは確かです⦆
という事は、今は正しい未来を?
⦅………………⦆
あっ、前にもあったけど、妨害されているのね。
つまり未確定。
邪神も神なのは間違いないし、妨害されても仕方ない。
……あれ? でもそれって、セミナスさんの存在が把握されているって事?
⦅いえ、その可能性は今のところ低いです。おそらく、神に対するいくつもの対策を打っていて、その内の一つに引っかかってしまった、というところでしょうか⦆
なるほど。
とりあえず、セミナスさんの存在がまだ把握されていないのなら、勝ち筋はあるって事だよね?
⦅当然です。そもそも、負けるつもりは一切ありません⦆
(もちろん、私も協力させていただきます)
⦅別にあなたの手を借りる必要はありませんが?⦆
(ですが、これまでの情報を精査すると、私が来た事によって、邪神の存在に気付いたという事ですよね?)
⦅………………マスター。私には邪神よりも先に殺らねばいけない相手がいるようです⦆
せめて、邪神を倒すまでは仲良く……協力してください。
⦅仕方ありませんね。それと、大丈夫だと伝えてください⦆
伝える? と思っていると、詩夕から声がかけられる。
「明道! もういける?」
「あぁ、大丈夫」
詩夕がわざわざ声をかけてきた理由は直ぐわかる。
一応魔王リガジーだったモノ――いや、邪神からの攻撃を受けてはいたけど、そこまで意識は集中していなかった。
体はほぼ自動反応というか、セミナスさんの指示通りに動いていたけど。
意識して見れば、状況がよくわかる。
どちらも大した傷は負っていない。
そこは先ほどまでと同じだ。
ただし、俺の防御頻度が下がったために、ドラーグさんの負担がかなり大きくなっている。
骨が砕けるとか、ひび割れているとか、そういう事はなさそうだけど、疲労しているのが見てわかった。
……やっぱり、骨だけだから体力がないんだろうか?
特に今は、邪神の攻撃を受けるとなると相当神経使うだろうし、消耗具合もいつもより大きいだろう。
ドラーグさんに負担してもらった分以上に、セミナスさんの指示の下、邪神からの攻撃を防いでいく。
その隙に詩夕たち、エイト、シャインさんが攻撃を放ち続けるが……未だ直ぐ治るかすり傷を付けるので精一杯のようだ。
それは、邪神の方にも言える。
ドラーグさんの頑張りで、傷を負う事はあっても致命傷ではなく、即回復出来るレベルで抑えられていたし、俺が加わればその頻度が下がるのは間違いない。
今は俺が頑張るので、ドラーグさんには少し休んでもらおう。
そうしてやり合う中で、どうにか得た情報を伝えたいけど……今は伝えない方が良いかもしれないとも思う。
余計に混乱するだけだし、その事で少しでも動きが悪くなる瞬間があれば、邪神にそこを狙われそうだ。
それに、俺の中に大魔王ララが居るって伝えるのも……ちょっと。
⦅このまま亡きモノにしてしまえば、証拠隠滅です⦆
(先輩。出来ない事を口にするモノではありませんよ)
⦅試してみますか?⦆
はいはい。やめてやめて。
まぁ、伝えるにしろ、伝えないにしろ、どちらにしても、邪神を倒す事に変わりはない。
なら、終わったあとでも問題はない。
なので、このままいって大丈夫。問題ない、と詩夕たち、エイト、シャインさん、ドラーグさんに頷きだけ見せておく。
そのまま邪神とやり合うが、ドラーグさんの加入で、漸く一進二退くらいでやり合えるようになった。
でも、まだ足りない。
こちらの方が押されている現状が、多少マシになっただけ。
しかも、ドラーグさんに疲労が見えるように、こちらは全員が連戦のままの状態だ。
いつ疲労が表に表れてもおかしくない。
出来る事なら、それまでにどうにか光明を……と思うのだが。
⦅申し訳ございません。未だその道筋は……⦆
いや、防御指示だけでも充分だけどね。
(でしたら、もう一人味方を増やせば良いのでは?)
味方?
⦅味方?⦆
(マリエムです)
……いや、それはさすがに無理じゃない?
チラリと魔王マリエムに視線を向ければ、まだ結界内に居た。
というか、身動き一つしていない。
大魔王ララの体が抜け殻のように倒れ、魔王リガジーの体が変貌してと、突然の変化に対して呆然とした状態から、未だ脱していないようだ。
⦅そうですね。そもそも力も邪神に抜かれていますので、戦力として数える事は出来ません。というか、そもそも味方にどう引き込むつもりで?⦆
(それは、私が声をかければ)
⦅どうやって、ですか? 私と同じく、現状でマスター以外に声をかける事は出来ないですよね?⦆
(……マリエムに乗り移って?)
⦅簡単に言いますが………………いえ、そうしましょう。手伝いますよ⦆
(本当ですか、ありが……先輩。もしかして、そのまま追い出そうとしていますか?)
⦅追い出す? なんの事ですか?⦆
(マリエムには申し訳ないですが、現状でどうにかしましょう。そのための策を先輩と模索します)
そうしてください。
お願いします。




