一度でも上がると下がった時が辛い
商売の神様の封印地があった村から旅立って、数日が経った。
その間、野宿。
「「「「ベッドが恋しい」」」」
俺とアドルさんたちは、野宿続きで挫けそうになっていた。
予言の神様のお願いによってアドルさんたちは俺を迎えに来たという事もあり、事前の準備はしっかりしている。
というか、元の世界と違って自然豊かな世界の旅なんだから野宿がデフォルトなので、ある程度続こうが大丈夫なように、アドルさんたちの準備は完璧だ。
食糧とかも、そこら辺に生えている食べられる草や木の実、野良魔物とかアドルさんたちが定期的に確保してくるので問題ない。
だが、このままだとただ養われているだけになってしまうので、俺はウルルさんの料理を手伝うようになった。
自分的には上手く出来ていると思うが、アドルさんたち的には及第点。
落第点でないだけマシだと思いたい。
でも、就寝に関しては少し前にベッドの快適さを味わったばかりだ。
まだあのフカフカな感触が残っている。
そこで土の硬さ、木の堅さは……キツイ。
今の目的地であるラメゼリア王国に辿り着くまで、野宿が続くんだろうか。
⦅いえ? まだ向かっていませんが?⦆
………………。
………………え? まだなの? セミナスさん。
⦅はい。まだまだ寄るところがありますので⦆
そうなんだ。
……えっと、それじゃ、次の村か町に着くのは。
⦅………………⦆
返事がない。
まだまだ着かないようだ。
……うん。これは俺だけが知っていて良い内容じゃない。
アドルさんたちと共有しないと。
なので、正直に話す。
「………………という訳です」
「「「何故希望を打ち砕いた!」」」
聞き終わったアドルさんたちの表情と、俺の浮かべている表情は同じだろう。
「「「「あぁ……ベッドが恋しい」」」」
◇
更に数日が経った。
その間、村や町に辿り着く事なく、全て野宿。
いい加減慣れた。
ベッドの感触は消えた、とも言える。
もちろん、インジャオさんによる鍛錬も怠っていない。
相変わらず攻撃に関しては駄目駄目な俺だが、回避防御に関しては更に上手くなったと思う。
それにしても、セミナスさんの指示する方に移動しているのだが、これは一体どこに向かっているのだろう?
確かな目的地があるのは間違いないのだが。
そんな感じで進んでいたある日の夜。
アドルさんたちと焚き火を囲んで談笑していたのだが、話のタネの一つとして、ある議題が持ち上がった。
「『セミナスさんルート』というのはどうだ? 言いやすいし」
アドルさんが不敵な笑みと共に言う。
セミナスさんが指し示す道筋を進む事を、どういう風に言う? みたいな議題である。
「良いと思いますよ」
「他にも何かありそうだけど……う~ん……思い付かないから、それで良いかな?」
インジャオさんはアドルさんの提案に賛同して、ウルルさんは他にないかどうか考えてはみたけど、駄目だったようだ。
俺もアドルさんの提案に異論はないやちょっと待った。
「却下っ!」
このまま流れそうな空気をぶった切る。
駄目だ。それは駄目だ。
その呼び方は駄目だ。
「おぉ! 急にだな。別に否定するのは良いが、代案は?」
「………………」
アドルさんの言葉に答える事が出来なかった。
だって、勢いで断っただけだし。
でも、「セミナスさんルート」という名称だけは……どうにか変更したい。
何故なら、ゲームとかだと「名前」のあとに「ルート」と付けば、それは「攻略中」という事になる。
つまり、「セミナスさんルート」だと、「セミナスさん」を「攻略中」と聞こえる訳だ。
アドルさんたちはそういうゲームなんて知らないだろうから、そう聞こえるのは俺だけ。
もちろん、アドルさんたちが狙ってとか、そういう意味でその名称を提案した訳ではない事はわかる。
……けど、やっぱり俺にはそういう風にしか聞こえないんだ!
⦅なるほど。では、「セミナスさんルート」を採用で⦆
しまったぁ!
セミナスさんには考えている事が筒抜けだったぁ!
……いえ、別の名称にしませんか?
⦅却下します⦆
即否定!
もう少し考えても良いと思うんですが?
⦅考える必要などどこにも存在しません。安心して下さい。マスターがこれまで積み上げた私の好感度は、既にセミナスさんルート・ハッピーエンド分の必要値を超えています⦆
……おぅ。もう既に。
というか、早過ぎない?
いや、セミナスさんの中でどこまで予定が消化されているのかわからないけど、まだまだ封印された神様が居るよね?
親友たちだけじゃなく、大魔王どころか魔王にも会ってないし………………待てよ。
もしかして、こっちと違って親友たちの方はもの凄い早さで話が進んでいるのかもし。
⦅同じように進んでいるので安心して下さい。つまり、先はまだまだという事……ですので、このままトゥルーエンドを目指しましょう⦆
更に先のエンディングがあった!
親友たちも同じようなのは嬉しいけど。
でもちょっと待って。
ハッピーとかトゥルーの前に、ノーマルとかバッドはないの?
⦅……フッ⦆
その反応は「私のエンディングにノーマル、バッドは存在しません……いえ、させません」と、言っているようだった。
………………今のでそれがわかるって。
⦅私の事を深く理解していっているようで、大変嬉しく思います。マスター⦆
トゥルーエンド一直線かな?
慣れていっているだけだと思いたい。
と、そこで気付く。
セミナスさんとの会話に集中した事で、またアドルさんたちを放置してしまったのだ。
アドルさんたちに視線を合わせると、まるで事情はわかっているとでもいうような、優しい表情で俺を見ていた。
……こっちも、確実に慣れていっているね。
結局、「セミナスさんルート」で決定した。
まぁ、間違ってはいないし、言いやすいしね。
……他に上手い言い回しが思い付かなかったんだから仕方ない。
◇
それから更に数日が経ち、森を越え、小さな山を越え、漸く次の目的地に辿り着く。
そこは、村でも町でもなく……遺跡みたいだった。




