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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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別章 閑話のような間の話 刀璃編

 異世界に召喚された者たちの一人、神無地刀璃かんなじ とうり

 刀璃を一言で表すのなら、凛々しい、だろう。

 親友たちの中で、同性に限れば最も人気が高い。

 お姉様、と呼ばれる事が多いのが、本人の悩みの種の一つだ。


 刀璃が自然と凛々しくなった理由の大きな部分は、実家で母親が剣道道場を開き、幼い頃から習っていた事にある。

 その反動で、とある趣味を持つようにもなったが。


 そんな刀璃と明道の出会いは、幼い頃だ。

 互いの両親が友達付き合いをしていた事もあり、所謂幼馴染の関係だった。

 また、刀璃の方が先に生まれたという事もあって、明道に対してはお姉さん風を吹かすようになる。

 幼い頃は、主に刀璃が明道を色々なところに引っ張っていった。


 二人の関係性が更に強まったのは、明道の両親が事故で亡くなった時。

 明道の親戚が海外に居るのと余り乗り気ではなかったいう事もあって、刀璃の母親が表立っての何度かの話し合いの結果、最終的には神無地家に引き取られる事になった。

 そこから二人は、本当の姉弟のような関係で育っていく。


 明道に剣道の才能が全くない事に刀璃の母親が少し残念がる、といった場面もあった。

 また、剣道を習う刀璃の姿を見た明道が綺麗だと呟いた瞬間、顔を真っ赤にして竹刀をぶんぶん振り回す刀璃に追いかけ回される、という事もあったが、二人にとって今では笑い話になっている。


     ◇


 時折、思い出したかのように大魔王軍が攻め込んで来るがその数は少なく、ビットル王国の騎士、兵士たちでも余裕で対処出来るほどだ。

 だからこそ、詩夕たちの鍛錬は続けられ、実戦経験を積むのに丁度良いと、シャインは詩夕たちを大魔王軍に突っ込ませていた。


 シャインが行う鍛錬が良いのか、実戦経験を積んだのが良いのか、それとも両方か、詩夕たちは日々を追う毎に確実に強くなっていく。

 そんな詩夕たちの姿を見て、ビットル王国の騎士、兵士たちも奮起する。

 好循環が生まれていた。


 ビットル王国の中で中心人物となりつつある詩夕たちの人気は高い。

 その中でも一番人気が高いのは、詩夕……ではなく、刀璃である。


 何しろ、詩夕たちの中で一番の良識人であり、凛とした容姿と佇まいから、男性騎士、兵士のみならず女性騎士、兵士、メイドからも高い人気を得ているのだった。


「叱られたい」

「罵られたい」

「踏まれたい」


 刀璃ファンの者たちから、一部抜粋した声である。


 ただ、これは外部の話。

 当の本人たちは元の世界でも人気があったので、周囲の者たちから向けられる視線の意味をそれなりに察してはいるが、正しくは伝わっていなかった。

 日々の鍛錬に集中しているというのもあるが、本人たちに知る気がない、という方が大きいかもしれない。


「ふぅ……」


 城内に用意された自室。

 ベッドに腰掛けた刀璃が息を吐く。

 これは鍛錬の疲れからくるモノではない。

 寧ろ、鍛錬は好きな方である。


 気疲れだった。

 自分がどういう風に見られているかを理解している刀璃は思う。


(……全然、そんな事ないんだけどなぁ)


 周囲が見ている凛とした佇まいは既に無意識レベルの話であり、刀璃自身が思う自分の性格は全くの別物である。

 そういうギャップがあるため、時折先ほどのような息を吐いていた。


 まぁ、既にいつもの事と化しているので気にしても仕方ないか、と刀璃は気持ちを上向きに修正する。

 その時、室内にノック音が響く。


「はい」


 返事をして刀璃が扉を開ける。

 当初は詩夕たちにそれぞれメイドが付く予定であったが、当人たちが実際に付いて慣れなかったというのと、自分の事は自分でしたいと考えたため、メイドが付くという話はなくなった。

 実際は、隣の部屋とか近くに控えてはいるのだが。


 それはともかく、刀璃が開けた扉の先に居たのは、大きな包みを抱える水連だった。


「水連か。どうかし……その包みは、まさか?」

「……うん。新しいのが出来たよ、刀璃」


 差し出される大きな包みを丁寧に受け取る刀璃。


「ありがとう、水連」


 お礼を言う刀璃の表情は、親友たちにしか見せない極上の笑みだった。

 もし、他の者たちに見る機会があれば、心を掴まれる事が間違いなし級の。


「……うぅん。気にしないで。私にとっても良い鍛錬になるから」


 刀璃の破顔は既に何度も見ているため、特に気にする事なく答える水連。

 それじゃ、また出来たら持ってくるね。と言い残して、水連はこの場を去る。

 水連が廊下の先に消えるまで見送ったあと、刀璃は扉を閉めた。


 ガチャリ、と施錠も行う。


 ガチャガチャとドアノブを動かしてきちんと施錠が出来ているかを入念に確認したあと、刀璃は室内の中央付近にあるテーブルの上に、大切な物を扱うように大きな包みをそっと置く。

 大きな包みをゆっくりと開くと、その中にあったのは……メイド服だった。

 ただし、喫茶とかにありそうなミニスカでフリッフリなのが。


「おぉ!」


 目を輝かせる刀璃。

 手に取り、持ち上げ、くるくると回して前後ろを確認する。


「おおぉ!」


 更に目を輝かせる刀璃。

 そのまま部屋の隅の方に置かれている衝立の裏に引っ込み、パパパッと着替え、近くにある姿見の前に立つ。


「………………」


 再び前後ろを確認したあと、刀璃は嬉しさが隠し切れないとでもいうように、その場でパタパタと足踏みを行った。

 その次はいくつかポーズを取ったあと、ジッと確認する。


「……この国のメイドさんたちに衣裳を元にしている節があるな。だが、うん。さすがは水連。充分に可愛い!」


 満足そうに頷く刀璃。


 刀璃が思う自分の性格の一つに、可愛いモノが好き、というのがある。

 そこから派生したのが、コスプレ趣味だ。

 裁縫が得意な水連に協力して貰い、元の世界でも様々な職種やアニメ衣裳など作って貰っていた。


 ただ、誰かに見せるのは恥ずかしいのか、自分だけで楽しんでいる。

 それでも、刀璃にとっては良い気分転換というか、心の栄養補給になっていた。


 もっとも、この趣味は水連以外の親友たちも全員知っている。

 見た事あるかどうかは別だが。


 ちなみに、この部屋のクローゼットの中には、現地産のメイド服と執事服、リボンやカチューシャ、ネクタイなどの小物が既に収められていた。

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