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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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別章 前回とは違うという事

「あの時つけられなかった結末を、つけてあげますよ」


 詩夕が剣を構え、魔王マリエムに向けて駆ける。

 対する魔王マリエムは、悠然と構えて魔法を連続で放つ。


「……あの時はもっと数が居たと思うけど? 果たして出来るかしら?」


 放たれた魔法をすべて斬り落とす詩夕。

 その表情には自信があった。


「出来るさ。いや、やってみせる、かな?」

「あなたを見ていると本当に出来そうに思えてくるから怖いわ。……でも、前回とは状況が違うという事を、きちんと理解しているかしら?」


 魔王マリエムの目が怪しく光る。

 合わせて、魔王マリエムの体からオーラのような靄が立ち昇り始めた。


 それは魔力。


 溢れ出て可視化する濃密な魔力によって、魔王マリエムの存在感を更に増していく。

 同時に、その存在感には殺気も交ぜられていて、並の者なら呼吸すら困難になるほどの圧力が詩夕に向けて放たれる。


 重力が増したかのような感覚を抱く詩夕。

 同時に息苦しさもあり――。


「はあああああっ!」


 詩夕が体に力と気合を込める。

 増した重力と息苦しさが消え、詩夕は再度剣を構えた。


 その様子を見て、魔王マリエムが口を開く。


「まぁ、そうよね。一度は私を倒したのだもの。これぐらいで私に屈してもらっては困るわ。なら、次は本当に重くなってもらいましょう」


 魔王マリエムが魔法を発動。

 詩夕がいつでも斬れるように剣を構え直すが、魔王マリエムはただ手のひらを詩夕に向けているだけ。


 先ほどまでとは違い、魔法の影も形もない。

 不発? 何も起こらない? と首を傾げそうな場面だが、詩夕は優れた感覚で察していた。


「くっ」


 脳裏を過ぎるのは、間に合うか? という疑問。

 詩夕は瞬時にその場から前方に向けて跳ぶが、その途中で体全体が先ほどよりも重くなって床に倒れる。


 その重さは床に倒れてもなお増していき、縫い付けられていくような感覚を抱いた。


「どう? 実際に重くなったけど? もう動けないのかしら?」

「まだ……まだぁ……」


 余裕がある笑みを浮かべる詩夕。

 実際、それでも詩夕は起き上がってみせる。


「そう……そうよね。そうこなくては困るわ。やられそうになった時のお礼を、まだ返せていないもの」

「そう、律義に……返す必要はない、ですよ」


 重力は確実に増している。

 動きは緩慢となり、一歩前に足を出すだけでも一苦労だ。

 それでも、詩夕は足を前に出す。


 同時に、詩夕は思考する。

 この世界にある魔法の属性の中で、重力に関するモノで最も近いのは「土属性」だろう。


 しかし、詩夕はそれではない……正確には、それだけではないと判断する。

 視界に捉えている魔王マリエムの魔法技術は、前回の戦いの時から既に卓越している事はわかっていた。

 それこそ、自分より、自分の友たちよりも。


 前回は人数差があるために渡り合える事が出来た。

 しかし、今回は自分一人だけ。

 自分だけで解決しないといけないのだ。


 だからこそ思考し、感じ取る。

 卓越しているからこそ、簡単に破れないようにしているはずだ、と。


 そして、詩夕の試みは成功する。

「土属性」の魔力は感じ取る事が出来た。


 それとは別に、「風属性」の魔力も感じ取る。

「風属性」の魔力も同時に増す事で、標的を中心とした特定範囲の大気も重くしていたのだ。


 その事を理解出来たのは、詩夕の感覚が優れているからというのもあるが、それよりも大きな要因となっているのは、詩夕が全属性の魔法を使用出来るという事にある。


 全属性が使えるという事は、どれがどう、何が違うのかを理解出来るという事だ。

 つまり、これではないと消去法で除外していけば、正解に辿り着く。


 正解が、どの魔法が使用されているのかわかれば、あとは対処するだけ。

 同じように「土属性」と「風属性」の魔力を刃に乗せて、詩夕は空中を斬る。

 ガラスが割れるような甲高い音と共に、魔王マリエムの魔法が砕け散った。


 その事に、魔王マリエムは驚かない。

 表面上だけではなく、内面も。

 冷静そのもの。


 というのも、魔王マリエムはある仮説を先ほどから試みていた。

 それは、放つ魔法の属性を変えていき、詩夕がどれに対処出来るか出来ないかを見定めるため。

 対応出来ない属性があるという事は、それは弱点にもなり得るからだ。


 その試みは、先ほどので完結した。


「……そう。あなた、『全属性』持ちなのね。私と同じで」

「ええ、ですので、僕に魔法はあまり効果がありませんよ」

「そうね。普通の魔法を使う者であれば、対処は難しいでしょうね。魔法という技術を用いた戦闘における優位性を、ほぼ無効化しているのだもの。そう……普通なら、ね」


 魔王マリエムが手を前に出して真横に振ると、その振った手の先には、漆黒の剣が握られている。

 魔王マリエムが、自らの魔力を圧縮して造り出した剣であった。


 剣を構えた魔王マリエムが、詩夕に襲いかかる。

 振るわれる漆黒の剣を、詩夕は完璧に受けていくが、内心では少し驚いていた。


 魔法に特化していると思っていた魔王マリエムの剣術レベルは、一流といっても遜色ないレベルであったからだ。

 その上、そこに――。


「ただの剣だけでは芸がないでしょう?」


 剣戟の合間に魔法も発動して、攻撃の幅と密度を加速度的に増していく。

 だが、それと似たような事は、詩夕にも可能であった。


 剣には剣で、魔法には魔法で、詩夕は魔王マリエムの攻撃に対処していく。


 その合間に、詩夕は魔王マリエムに向かって口を開く。


「随分と、前回とは違いますね。ここまで動くとは思っていませんでした」

「ここだと、場所を気にしなくても構わないからかしら」


 その答えを聞いて、詩夕の脳裏を過ぎったのは、前回の戦い。

 あの場所が傷付けないように立ち振る舞っていた事を思い出す。


 つまり、そういう心配が必要ないここでなら、存分に力を振るえる――本気を出せるという事。

 前回は人数差だけではなく、そういう制限もあったのかと、詩夕は魔王マリエムを更に警戒する。


 そうして攻防を繰り広げている時に、互いに同じ事を思う。

 相手は自分と似たタイプだ、と。


 剣も魔法も、どちらも同じように扱える。

 ただし、割合で言えば――。


 どちらかといえば、剣の方が強い詩夕。

 どちらかといえば、魔法の方が魔王マリエム。


 両者共、自分の特性を活かすように戦い始め、より激しさを増していく。

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