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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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別章 閑話のような間の話 天乃編

この章はちょっと長いので、今回と次回は、ちょっとした息抜き回です。

 異世界に召喚された者たちの一人、舞空天乃まいぞら あまの

 非常に優れた容姿だけではなく、誰にでも分け隔てる事なく接するため、非常にモテる。

 それは異世界に召喚されても同じ結果となり、「まるで聖女のようだ!」とビットル王国に居る者たちから男女問わず慕われていた。


 当然、計算である。


 いや、既に自然とそういう態度を取ってしまうところまで、昇華してしまったのかもしれない。

 天乃の得たスキルの中に「闇属性魔法」があるように、その心の内には闇がある……というよりかは、腹黒いと表現した方が正しいだろう。

 もちろん、親友たちは知っている。


 天乃が誰にでも分け隔てなく接するようになった理由は、そんな自分に好意を持った相手からの嫌がらせによって、とある人物がモテる自分を意識するのではないか? と考えたからだ。


「……なんか天乃のファンから、俺だけ執拗に嫌がらせされるんだけど?」

「そんなの決まっているでしょ。態度が公言しているようなモノだし。……わからない? 私の好きな人はね……」


 天乃の妄想から一部抜粋しました。

 みたいな事をやりたかったのだが、実際にそんな出来事はまだ起こっていない。


 その人物とは、明道である。

 天乃が明道の事を知ったのは中学生の頃。

 当時、最初は刀璃と仲良くなり、そこから明道の事を知ったのだ。


 仲良くなって行動を共にする機会も増えていったが、天乃が明道を意識するようになったのもまた、中学生の時である。

 既に詩夕たちとも知り合って行動を共にしているが、天乃と明道がささいな事で口喧嘩をし、互いに口をきかない時期があった。


 その時、天乃は自分の不注意で車に轢かれそうになるが、そこでいの一番に動いて助けたのが、明道なのである。

 それがきっかけで和解し、急速に仲を深めていった……と見るのは、天乃視点。

 いや、和解して仲が深まったのは間違いない。


 ただ、天乃が想定しているレベルではなかったというだけ。

 なので、天乃は継続的なアプローチを続ける事になった。

 誰にでも分け隔てなくも、その一つである。

 いつか実を結ぶ……いや、結んでみせると意気込んで。


 しかし、今は明道と別行動中。

 そのため、少々限界が訪れようとしていた。


     ◇


 それはとても晴れた日の出来事だった。


 刀璃が鍛錬に向かうために城内の廊下を歩いていると、ふと足元に視線を向ける。

 視線の先にあるのは、一枚の紙。

 どうしてこんなところに? と刀璃は首を傾げながら紙を拾い上げた。

 自然と、視線は紙に書かれている文面をなぞる。


 紙には、日本語でこう書かれていた。




   『願わくば』


 私は鳥になりたい そうすれば あの人の下へ飛んで行けるから


 私はもぐらになりたい そうすれば あの人の下へ掘ってでも進めるから


 私は人魚になりたい そうすれば あの人の下へ泳いで向かえるから


 けれど 私は どれでもない


 ただの人 ただの人間


 この足で 転んでも立ち上がって進むだけ


 この手で 倒れようが這ってでも進むだけ


 この目で 他には目もくれずにあの人だけを見て進むだけ


 それで充分 それだけで充分


 あぁ でも それでも


 望んでしまう 欲してしまう 求めてしまう


 キメ〇のつばさはどこにあるぅー!


 まほう〇じゅうたーん!


 ルゥー〇ァー!




 刀璃は固まった。

 知識としてそういう名の移動に関するアイテムや魔法がある事を知っているから……ではない。

 書いた人物が思い当たるからだ。

 日本語というだけでなく、筆跡に覚えがあった。

 ノートを交換したり、共に勉強をしたりなど、何度も見る機会はあったため、間違いはない。

 確信を得ていた。


(これを書いたのは……間違いないだろう。表面には表れていなかったが、きっかけは明道からの手紙か? もうここまで追い込まれていたとは……危険領域だ)


 そういえば、と刀璃は思う。


(明道と出会ってから、これほど長い期間離れていた事はなかったな。それ故か?)


 原因を探ろうと思考を始める刀璃。

 そこに後方から声がかけられる。


「刀璃ちゃん?」


 名を呼ばれ、ビクッと肩が跳ねる刀璃。

 瞬間的に紙を隠しつつ振り向いたのは本能だろう。


「………………」


 咄嗟に言葉が出てこなかったのは、そこに居た人物がこの紙に書かれている文面を書いた張本人だからだった。

 このタイミングの良さ、いや悪さに、刀璃の喉が自然と鳴る。


「……あ、天乃」

「そうだよ、刀璃ちゃん。他の誰かに見えた? それとも、その方が良かったのかな?」


 ニッコリと微笑む天乃。

 ただ、刀璃はその笑みが怖いと思ってしまう。

 全てを見透かされているような気がしたのだ。

 事実、それは正しかった。


「刀璃ちゃん。何を隠したのかな?」

「い、いや、別に何も」

「……もしかして、見たのかな?」


 何を? とは聞き返せなかった。

 事実としてガッツリ見ていたので、言葉に詰まったのである。

 その上、天乃からの圧力が増し続けているのだ。

 嫌な汗でも流れているのか、背中が冷たいと感じていたが、このままではいけない、と刀璃は覚悟を固める。


「……あぁ、見た」


 簡潔にそう告げる。

 すると、天乃は大きく息を吐き、増し続けていた圧力が霧散した。


「そっかぁ……見ちゃったか。隠し通しておきたかったんだけどなぁ」

「その……す、すまない」

「謝る必要はないよ、刀璃ちゃん。寧ろ、見られた相手が刀璃ちゃんで良かったよ。親友たち以外なら恥ずかしさの余り、記憶をなくすまで殴り続けるところだったし」

「そうか、私で良か………………え?」

「ん?」


 再びニッコリと笑みを浮かべる天乃。

 刀璃は追及するのをやめておいた。

 恐らく、いや確実に、今回の事は天乃のデリケートな部分なのだろうと、当たりを付けたのだ。

 親友だからこそ、心中を察する事が出来たのかもしれない。


 ただ、刀璃は思う。

 親友たちにそれとなく動向を注意して貰おう、と。

 同時に、この世界の人たちが無遠慮に触れないようにしなければ、と。


(……早く明道と再会したい)


 刀璃は、心の底からそう思った。

 切に願いつつ、刀璃は天乃と共に鍛錬へと向かう。


 ちなみに、この紙は天乃の闇属性魔法によって、闇の中へと消えた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これって、最新の方って主人公どのくらい強くなるんですか?
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