説明回です
夕食時、焚き火を囲みながら話を聞く事になった。
ちなみに、今日の夕食のメインは、人を丸呑み出来そうな大きさの蛙の魔物。
全身鎧の人? が仕留めたモノだ。
もちろん、俺も手伝った。
鍛錬の成果が出ていると言っても良いだろう。
……まぁ、囮だったけど。
逃げあ……脚力が鍛えられていると実感出来た。
……蛙、美味い。
「それじゃ、お互いに喋れるようになったし、色々と聞きたいんだけど」
「まぁ、そう焦るな。長い話になるから、夕食を食べながら語ろう。……さて、どこから話したものか……」
そう前置きして、色白の男性が語る。
この世界の名は「ファースリィル」。
人だけじゃなく、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族などなど、様々な種族が共に住む世界である。
当然のように、「スキル」と呼ばれる多種多様な特殊能力があり、その中に魔法も存在していた。
……あとで教えて貰おう。
………………使えるよね?
と、これから先の事に思いを馳せていたのだが、この世界………………聞けば状況的にかなりヤバい。
まず、魔物で構成された軍勢による侵攻を受けていた。
といっても、現在は互いに小競り合いは起こるものの、休戦中のような状態で、互いに力を蓄えている段階らしく、その軍勢を率いているのが、大魔王と呼ばれる存在と、三人の魔王。
なので、魔物の軍勢は「大魔王軍」と呼ばれている。
あっ、やっぱそういうのが居るんですね。
その大魔王軍と争っているのが、大陸に住む全種族が集まって結成された「EB同盟」と呼ばれる同盟軍である。
「EB」とは、「永遠の絆(Eternal Bonds)」の略。
……大丈夫。恥ずかしくなんてない。
真顔で、なるほどと頷いておいた。
なんでも過去の偉い人達が発足した同盟なのだが、今は名ばかりらしい。
俺を助けてくれたこの三人は、同盟軍側に所属。
いや、これで大魔王軍側とかだったら、俺どうしたら良いのかわからなかったわ。
………………待てよ。
これでもし、大魔王軍側の方が正しかった場合は………………あっ、目的は不明だけど、大魔王軍が攻めてくるから迎え撃っているのね。
聞く耳も持ってくれない、と。
なら仕方ない。
つまり、元々大陸に住んでいた全種族が集まった同盟軍 対 大魔王を筆頭にした三人の魔王と魔物が集まった大魔王軍が争っている世界という事か。
色白の男性が世界地図を持っていたので、見せて貰いながら続きの説明を受ける。
地図に描かれているこの世界は、簡単に言えば、大きな丸の中に小さな丸が二つ並んで、上下がかろうじて、左側、真ん中、右側、で陸続きになっているような、そんな大きな大陸と、いくつかの小さな大陸が描かれていて、他は海だった。
大魔王軍に侵攻されているのは大きな大陸で、その上半分が既に支配されているそうだ。
一時は下半分の大陸にまで侵攻されている時があったそうなのだが、多大な犠牲を払う事によって何とか押し返し、繋がっている左右の陸続きで、同盟軍と大魔王軍が睨み合っているというのが現状である。
「……あれ? 中央も繋がっているけど、そこで睨み合いは起こってないの?」
「中央は駄目だ。『竜』の領域だからな」
そう言って色白の男性が大雑把に指し示したのは、中央の陸続き付近と二つの小さな丸で、その辺りが竜の領域である。
下手に侵入すればどちらにでも襲いかかって来るので、ある意味中立のような立場。
また、竜の中でも「王」と呼ばれる存在は、大魔王に匹敵する力を持っているそうだ。
「竜王がどれくらいの力かを簡単に言えば、大陸に空いている小さな丸二つは、過去に竜王が発した攻撃によって出来た」
………………。
………………。
よし、俺は一切手出ししない。ノータッチ。
ちなみに、その丸二つは湖になっているそうだ。
さぞかし綺麗な場所なのだろう。
絶景かもしれない。
そして、状況的にかなりヤバいと思った最大の要因が、同盟軍に勝ち筋が見えない事だ。
何がヤバいのかというと、スキルが関係している。
「剣術」スキルは「剣術の神」が、「槍術」スキルは「槍術の神」と、スキルはそれぞれ担当している神が居て、付与や恩恵――補正みたいな部分に影響があった。
もちろん、スキルのありなし関わらず、努力なしで成長しないのは当たり前。
より努力した方が強いのも当たり前。
該当するスキルがあった方が良いのは当たり前。
けれど現状は、その担当している神々、というかこの世界の神々全てが封印状態のため、スキルは名ばかりみたいな状態だそうだ。
「それってつまり、担当する神様を復活させないと、スキルは獲得出来ないって事?」
「いいや、そういう訳ではない。正確には、神が一柱でも封印から解放されれば、獲得スキルの更新は出来る。ただ、付与や恩恵に関しては担当する神が解放されなければ駄目だ」
………………。
………………。
なるほど。神は居るのか。
そっちの方に驚いてしまったが、この世界は危機的状況というのはわかった。
神々を封印したのは、もちろん大魔王軍。
最初は徐々に、下半分の大陸まで侵攻された時に、全ての神様が封印されてしまったそうだ。
スキルを後天的に得られないのも問題だけど、やっぱり既に持っているスキルの補正が得られない方が深刻だと思う。
いや、大問題だ、これ。
それ以上の大問題があった。
特定のスキルを持っていると使える、「武技」「魔技」と呼ばれる必殺技が使えないそうだ。
担当しているのは、「武技の神」。
もちろん封印中……くっ。
必殺技……見てみたかった。
という感じで、この世界は正直に言って詰みに近い。
大魔王軍と睨み合っている現状は、いつ崩れてもおかしくないと思う。
「………………ヤバいな、この世界」
「そうだな。それは間違いない。このままでは滅亡するだろう……だからこそ、ここに私たちが居て、お前が居るのだ」
色白の男性がそう言って、俺に視線を向けてくる。
念のため後方確認。
………………誰も居ない。
前を向く、と見せかけてもう一度後方確認。
………………やっぱり誰も居ない。
どゆ事?
「俺がここに居る事が、何か関係あるの?」
……あれ? 俺って巻き込まれただけというか、勝手に来ただけのイレギュラーだと思っていたんだけど。
「大いに関係している……と思われる」
色白の男性がそう答える。
もう少しハッキリ言って欲しいので……詳しく聞く。
「それ、どういう事?」
「何と言えば良いか……まず前提としての話だが、何でも異世界からの来訪者は、世界を渡る際にスキルの恩恵が授けられるそうだ。こちらの世界の神々にではなく、元々居た世界の神々から」
「………………え?」
「つまり、現在この世界でスキルを得る事は出来ないが、異世界からの来訪者であれば予めスキルを持った状態で来る……そうだ」
「でも、今ってスキルは名ばかりでしょ?」
「確かにそうだが、やはりあるのとないのとでは大きく違うのだ」
「そうなの?」
「そうだ」
色白の男性が、肯定するように頷く。
そうなんだ……と思うと同時に、脳裏にある考えが過ぎった。
ちょっと待って。
………………この流れ……読んだ事ある!
これあれだ! 本命じゃない者が最強とかって流れじゃないだろうか?
つまり、未だ自覚はないけど、俺の持つスキルが最強ってヤツなんじゃ!
おっとこれは、もしかして……親友たちじゃなく、俺が主役なのか?
俺はワクワクしながら尋ねる。
「それじゃあ、俺にも何らかのスキルを得ているって事なのか?」
「あ、あぁ……それは……」
三人が顔を見合わせて、困ったような雰囲気を作る。
「どうかした?」
「いや、まぁ……見た方が早いか。頼む」
色白の男性の言葉を合図に、獣耳の女性が近くに置かれていた袋の中から手の平サイズの水晶玉を取り出して、俺に手渡してきた。




