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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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別章 直感故の行動

 挑発するように魔王リガジーが言う。


「面白い! だったら、その強さを見せてもらおうか!」

「見られるまで生きていたらな!」


 答えるのはシャイン。

 両者同時に駆け出し、そのまま拳を振りかぶって前へ。

 室内の丁度真ん中で拳がぶつかり合い、衝撃が部屋中に伝わった。


 ビリビリに震えるのは空気だけではなく、床や壁、柱も小刻みに震える。

 床に至っては、両者の足元に蜘蛛の巣上の亀裂が走っていた。

 かなりの力が込められていた事の証明だろう。


 何しろ、両者共に初手で決めようとしていた。

 一撃で殺すつもりで、拳を放ったのだ。


 結果は、互角。


 両者が拳を振り切った状態で拮抗する。

 魔王リガジーが笑みを浮かべながらシャインに向けて口を開く。


「初手で殺しに来るとは意外だな。俺たちとララの関係性の話は聞いていると思っていたが?」

「魔王を殺せば大魔王が強くなる、というヤツか? 気にするような事ではないな。強くなったのなら、その強くなったのを倒せば良いだけだ」

「……なるほど。確かに、その通りだな」


 魔王リガジーが体に力を込めていく。

 拮抗していた状態から、魔王リガジーが押す形へと変わる。


 だが直ぐに対抗するようにシャインも力を込めていき、再び拮抗状態へ。


「倒せば良いだけと口に出すだけの力はある訳か。だが、単純な力だけで倒せるほど甘くはないぞ」

「それはそっくり返してやるよ! 吸血鬼にやられたヤツが私に勝てると思っているのか?」

「あいにくと、お前の事は知らんからな!」


 まったく同じ動作をシャインも行っていた。


 両者の拳が再びぶつかり合うが、今度はとまらない。

 同じ動作を繰り返し、両拳を交互にテンポよく放っていく。


 相手を殺す気満々の力強い拳と拳がぶつかり合う。

 その衝撃は何度も発生し、部屋全体を揺らし続ける。

 また、拳がぶつかり合う度に床の亀裂は増していき、両者の足元も陥没していく。


 果ては、拳だけではなく、足も追加されてより激しさを増していった。


「はははははっ!」

「はははははっ!」


 両者の笑い声が響き、まるで打ち合う状況を楽しんでいるように見えなくもない。

 そして、ここまでくれば、もう拳など足、場所などは関係なかった。


 シャインの放った拳を手のひらで包み込むように受けた魔王リガジーは、そのまま掴んで自分の方に引き寄せる。

 カウンターのように空いた方の手で殴りかかるが、シャインもまた空いた方の手で受けとめた。


 魔王リガジーは更に引き寄せ、タイミングを合わせてひざ蹴りを放つ。

 シャインは頭を大きく逸らしたあと、頭突き。

 額で魔王リガジーのひざ蹴りを受けとめた。


「くっ」


 苦悶の声を漏らしたのは、魔王リガジー。

 少しだけ痛がる表情を見せた魔王リガジーは、そのままシャインを放り投げる。


 シャインはくるりと回りながら綺麗に着地したあと、自分の額をさすりながら口を開いた。


「どうだ? それなりの硬さだと自負しているんだが?」

「そうだな。危うく割れるかと思ったぞ!」


 魔王リガジーは、笑みを浮かべる。


「良いな。良いぞ。吸血鬼には俺と渡り合えるだけの巧みさがあった。そして、お前は俺と真正面から打ち合えるだけの純粋な力がある。誇っても良いぞ。純粋な力で俺に届いているのだからな」

「まだなんのケリもついていないのに、随分な言い方だな。まるで、それでも自分が勝つ、とか思っていそうだ」

「負けると思って戦う馬鹿が居るものか」

「それもそうだ、な」


 言い切るとシャインが前に。

 魔王リガジーも同時に前へと飛び出し、両者は再度ぶつかり合う。


 殴る、蹴り、掴み、投げ、頭突き、とどちらも攻撃を行い続ける。

 また、同じ攻撃を行って拮抗したり、攻撃を受けとめる事はあっても、互いに避けもしない。


 それでも傷らしい傷を負っていない辺り、両者の力がそれだけ卓越しているという事だろう。

 攻撃を受けて、逆に繰り出しながら、シャインが口を開く。


「どうやら、あいつにやられた影響は残ってないみたいだな!」

「知っているだろうが、この体は特別製だからな!」

「だったら、言い訳は出来ないな」

「何がだ?」

「万全の状態でも、私には勝てなかった、と!」


 シャインの動きが一段階上がる。

 攻撃の威力も、速さも、鋭さも、そのすべてが上がった。


 瞬間的にシャインは圧倒するが、魔王リガジーも直ぐに一段階力を増して対抗する。

 より激しさを増していく戦いの中、魔王リガジーはこれまでで一番の笑みを浮かべた。


「やはり、お前があの中で最強だったな!」

「それはどうかな?」

「隠す必要性がどこにある!」

「なら教えてやるよ! 残念ながら、あいつがお前に教えた切り札は、私の事じゃない!」


 それだけで、魔王リガジーは悟る。


「なるほど。やはり、俺の直感、それとマリエムの警戒は正しかった訳か」


 本来なら、同室内に居るのだから、ちらりと視線を向けたり、思考の中に思い描いたりといった事を行うだろう。

 けれど、魔王リガジーはそういった素振りは一切ない。

 しなかった。


 これもまた、魔王リガジーの直感というか、本能による行動。

 今相対しているシャインとやり合うにあたって、瞬間的にでも余計な行動や思考を挟むと、一気にやられるとわかっていたからだ。


 僅かながらのこれまでのやり取りで、魔王リガジーはシャインにそれだけの力がある事を察していた。

 だからこそ、疑問が浮かぶ。


「それにしても……意外だな」


 その言葉に疑問を覚えたシャインが尋ねる。


「意外? 何がだ?」

「お前のようなタイプは、直感的に場に居る中でも最も強い者とやり合おうとするはずだ。似たようなタイプだからわかる。なのに、お前は俺とこうしてやり合っている。この場の最強を他の者に任せて」


 シャインの視界には、魔王リガジー越しに、大魔王ララが見えた。

 それでも、シャインの意識は魔王リガジーに向けられたまま。

 大魔王ララの事は一切気にしていない。


「確かに、あれは強い。実際に見て、そう判断せざるを得ない。……が、お前が直感でアキミチを警戒したように、私も直感で動いている」


 シャインが魔王リガジーを真正面から見る。

 その目には、決してお前を逃さない、という意思が込められていた。


「私の直感が言っている……理由はわからん。ただ、お前は危険だと、殺せる時に殺しておかないといけない、とな」


 だから、私はお前を殺す、と目が告げていた。

 魔王リガジーは不敵な笑みを浮かべる。


「……やれるモノなら、やってみるが良い!」


 互いに殺意を剥き出しにした戦いへと突入する。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] リガジーのセリフ 「負けると思った戦う・・・」→「負けると思って戦う・・・」 だと思います
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