出来る事と出来ない事はあって当然
俺、詩夕、エイト、シャインさんでダンスホールだったところを抜け出し、遠回りして先に進む。
人形たちの相手を任せたけど……大丈夫だよね?
⦅問題ありません。寧ろ、生命の危機という意味では、こちらの方が上です⦆
……だよね。
何しろ、これから向かう場所に居るのは、間違いなく大魔王。
大魔王軍の一番上であり、最も強いと思われる存在。
………………この人数で大丈夫?
⦅はい。実際のところは対峙してやり合ってみない事には正確な事は言えませんが、そもそもの話として、無理にこの人数で倒そうとする必要がありません⦆
え? 倒さなくても良いの?
⦅いえ、倒します。でなければ、大魔王軍の方がとまりませんので。ただ、ここに居るマスター、勇者A、汎用型、暴走エルフだけで無理して倒す必要はないという事です⦆
なるほど。
増援を待てば良い……ちょっと待って。
エイトの汎用型、シャインさんの暴走エルフは前からだけど、詩夕が勇者A?
⦅はい。勇者として完全覚醒しましたので。マスターの友人たちは漏れなく全員そうですから、わかりやすく区別を付けるために、『A』と⦆
いや? そういう問題?
……ちなみにだけど、常水は?
⦅『B』です。もう一人の男性が『C』と続き、女性陣は『D』から始まります⦆
……まぁ、セミナスさんの声は俺にしか聞こえていないし、放っておこう。
なんとなくニュアンスで誰の事を言っているかは伝わって来るし。
そうして、セミナスさんの案内で大魔王城内を先へと進んでいく。
ここでもまた、魔物というか、生物の気配を一切感じない事。
実際、人形は別として、魔物という存在に関しては、この大魔王城に入ってから、一切見かけていない。
外の戦場に向かっている、というよりは、元々居なかったんじゃないか? とすら思える。
……まっ、居ないなら居ないで、煩わしくなくて良いか。
ただ、そう上手くはいかない。
魔物の代わりと言ってはなんだけど、時々だが、ランデム的に人形が襲って来る。
どの型が出てくるかはその時々で違い、また数も少ない。
単発ばかりで、一気に襲いかかれば良いものを、そういう時は兆候すらなかった。
ただ、これは意図あるモノだという事をなんとなく察する。
こちらの様子を窺いつつ、邪魔しているのだ。
少しでも大魔王の下に辿り着くのが遅くなるように。
一度に襲って来ないのは、こちらに回す数に限度があるからだろう。
だから、一度でやられてしまうと、それ以上が出せない。
でも、少しでもこちらを削りつつ、時間を稼ぐために、少ない数で回数を増やし、休ませる時間を少しでもなくそうとしているのかもしれない。
「ふっ!」
詩夕が剣を一振りしたかと思うと、それは何度も斬ったあとで、バラバラに斬り落とされる。
その中に核が存在していて、両断されていた。
詩夕は素ですごいというか、なんか核に関しても外しがないというか、毎回核を両断しているんだよね。
「なんで?」
「なんとなくわかるというか、そこかな? と思ったところが当たっているだけ」
試しにやってみるが……。
⦅……代わりに私がやっておきます⦆
うん。俺には出来ませんでした。
詩夕……おそるべし。
「そこですね。エイトの目は誤魔化せません」
エイトがレーザービームのような圧縮した魔法を放つ。
レーザービームは正確に核を砕き、人形は動きをとめる。
詩夕の感覚はわからなかったが、エイトの方法なら出来るかもしれない。
「……なんでわかるの?」
「意思なき人形と同じとは一切思いませんが、どこか似たような設計思想なのかもしれません。なので、なんとなくですが、わかるのです」
なるほど。
なんとなくでわからない以上、詩夕と同じでエイトも感覚派という事か。
「つまらん」
シャインさんは、もう人形の相手に飽きていた。
それでもきっちりと瞬間フルボッコをしている姿に、どことなく作業感を覚える。
というより、どことなくピリピリしている感じがする。
ナーバス……と表現するのが正しいのか。
多分だけど、大魔王のところに向かう、という行動に、昔の事を思い出しているんだと思う。
旦那さんを亡くした出来事を。
「あれは……迂闊に触れない方が良さそうだね」
「俺もそう思う」
詩夕と一緒にそう判断する。
エイトも空気を察しているのか、特に絡むような事はしなかった。
いざ大魔王、もしくは魔王との戦いが始まれば、いつもの状態に戻る……と思う。
そうして、数体現れる人形を倒すという事を何度か行いつつ、上へ上へと大魔王城を上っていく。
そうして辿り着いた先にあったのは、細かい装飾が施された両開きの大きな扉。
……この奥に?
⦅はい。勢揃いしています⦆
自然とごくりと喉が鳴る。
詩夕、エイト、シャインさんを順に見ていけば、詩夕とエイトからは、覚悟は出来ていると頷きが返され、シャインさんはさっさと開けろと急かされた。
はいはい。今開けますよ。
大きく深呼吸してから大きな扉を開く。
開いた先は、俗に言う謁見の間。
元々ここにあった国がどれだけ栄えていたかがわかるくらい、凝った造りなのが今でも見てわかった。
どの柱にも装飾が施され、床や壁、天井の材質がここだけ違って、どことなく高級な感じがする。
そして、扉から真っ直ぐに進んだ先、十数段高くなっている場所に……居た。
「……来たな」
赤髪の筋骨隆々の男性が、俺たちを見てそう呟く。
その表情は獰猛な獣のような笑みで、どことなくこの状況を楽しんでいるように見えなくもない。
また、その姿には見覚えがあるというか、三型ある人形の一型に似ている。
つまり、あの男性が、俺が出会っていない魔王。
確か、魔王リガジー。
「……予定よりも少し早かったけど……まぁ、問題はないわね」
魔王リガジーに続いて、こちらを見ながらそう言うのは、先ほど逃げ出した魔王マリエム。
その表情には、悠然とした笑みが浮かんでいた。
そんな二人に挟まれるように置かれている玉座。
その玉座には、この大魔王城の主であると示すように、女性が鎮座していた。
あれが……大魔王。




