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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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たくましかった

 商売の神様のあとを追って、黒い神殿の外に出る。

 そのまま居なくなると思っていたけど、商売の神様は結界の直ぐ外に居た。

 待っていてくれたのだろうか?


 そうだよね。

 セミナスさんがそう言っていただけで、ブラック商会がどこのどんなのかを教えていないし……でも、神様なんだからそういうのは普通にわかるか。

 となると、なんでそこに居るんだろう。


 不思議に思いつつ近付くと、商売の神様の行く手を遮るように立っている人が居る事に気付く。

 ……んん~、一体誰だろ?


 視線をずらすと、商売の神様の前に立っていたのは……短パンの少年?

 ………………。

 ………………あぁ! 武技の神様か!


「いやぁ~、ほんと助かるよ。スキル更新といっても、一度に出来る訳じゃないからね。一人一人きちんと見ていかないと、あとで怒られるのは僕だし。僕の次に解放された神が、そういうのが大得意なので助かったよ」


 武技の神様……ニッコニコである。

 というか、商売の神様の解放はついさっきなのに、一体どうやって感知を……。


⦅仮にも神と名乗っているのですから、他の神の気配を察知すれば、瞬時にそこに飛ぶ事も可能です⦆


 そういう説明は素直にしてくれるんですね。

 というか、仮にもって正真正銘の神様では?

 もしかして、セミナスさんの中では自分よりも下に位置付けしているのだろうか?


 と、そこで思い出すのは、商売の神様との会話。

 そろ~っと商売の神様を確認すると……青い顔をして武技の神様から視線を外していた。

 見るからに苦手そう。


 というか、絵面が子供にやりくめられている大人のように見える。


「いや、あの……これからちょっと向かうところがあって」

「大丈夫大丈夫。こっちをパパッと片付けてくれれば自由だから」

「……でも、世界規模で私一人となると、時間がかかると思うんですが?」

「もちろん僕も手伝うよ。でも、苦手な僕が一人でやるより、得意な者の補佐に回った方が、より効率的だと思うんだよね。ほら、なんて言うの……そう、武のとか剣のが言っていた、適材適所ってヤツ?」


 あぁ……本当に言っていたんだ、それ。

 武技の神様の言葉から察するに、武神様とか剣の神様とかがその考えの主動なのかな?

 商売の神様は、露骨に嫌な表情を浮かべている。

 感情を隠す気が一切ない。


「まぁまぁ、そんな嫌な顔しないでよ。……ほんと助けて」


 武技の神様から闇を感じる。

 目に光が見えない。

 苦労しているのが目に見えてわかる……というか、本当に大変なんだろう。


「……これまでごめんなさい」


 しかも謝った!

 その姿を見て、商売の神様は優しい笑みを浮かべる。

 漸くわかってくれたか……とか思っているのかもしれない。

 わだかまりが氷解していくような気がする。


 とりあえず、俺も結界の外に出て、商売の神様に声をかけた。


「あの、商売の神様」

「アキミチか。……安心しろ。私は私のやるべき事をするだけだ」


 そう言って、商売の神様は武技の神様の下まで行き、肩に手を置く。


「行こうか」

「ほんとありがとう。ほんとお願いします」


 武技の神様……めっちゃ泣きそうな表情。

 でも、やっぱり絵面が……。

 今度は、少年に魔の手を伸ばす大人のように見える。

 いや、気のし過ぎかな?


 と思っていると、商売の神様が俺に視線を向ける。

 まさか、気付かれた?

 それとも、俺も毒牙に?


「アキミチよ。一つ確認したいのだが、私にブラック商会の事を話したという事は、それがどこの誰かわかっているという事で良いのか?」


 ………………。


⦅はい。問題ありません⦆


「あっ、はい」

「では、そのブラック商会と出会った時、私を呼べ。私自ら鉄槌を降す」

「はぁ、はい」

「では、その時まで……一時の別れだ」


 そう言って、商売の神様が空に浮く。

 次いで武技の神様も。


「あっ、アキミチ。シユウたちも頑張っているから、アキミチも頑張って。じゃ!」

「え! あっ!」


 ちょっと待って、武技の神様!

 もう少し詳しく!


 その事を尋ねる前に、武技の神様は商売の神様と共に飛んで消えて行った。

 あぁ~……詩夕たちの事、聞きたかったなぁ……。


「あれは武技の神と商売の神か。もう行ってしまったのだな」

「うん。この世界の人たちのスキル更新が忙しいって……」


 ………………。

 ………………。


「……え?」


 いつの間にかアドルさんが傍に居た。

 というか、インジャオさんとウルルさん……だけじゃなく、少し離れた場所に村の人たちも居る。


「どうして村の人たちまで?」

「真実を話しても信じないのでな、証拠として結界の仕組みを見せようとしたのだが、それ以上のモノを見る結果になった、という訳だ」


 あぁ……なるほど。

 確かに、結果として二柱の神様を見た事になるね。

 信じるしかない訳だ。

 疑う余地がないほどに。


 となると、残るは村の人たちを騙していたアンディズムの処分だけか。

 そう思って、村の人たちの方に視線を向ける。

 ………………。

 ………………んん~。


「アドルさん」

「どうした?」

「アンディズムは連れて来なかったの?」

「いや、明らかにするために連れて来た……」


 アドルさんが村の人たちの方を見て固まる。

 その姿を見たインジャオさんとウルルさんが首を傾げ、同じように村の人たちの方を見て固まった。


「………………逃げられた?」

「「「っ!」」」


 アドルさんたちの体がビクッと跳ねた。


 ……その後、本当に逃げられていた。


 アドルさんたちじゃなく、俺も村の人たちも周囲の捜索を行ったが見つからなかったのだ。

 逃げ足が速いな。

 そこだけは感心してしまった。


 ただ、村の人たちに対してだけは申し訳なく思う。

 アンディズムを逃がした事だけではなく、垂れ幕まで作った新たな興行がなくなったのだから。

 何か代わりになるようなモノが出来れば良いけど……。

 そんな事を思いながら、村の宿屋で寝た。


 ………………。

 ………………翌朝。

 いやぁ~、この村の人たちはたくましいね。ほんとに。

 俺の目の前には昨日も見た垂れ幕がある。

 ただし、書かれている内容は違う。


――商売の神様が封印されていた聖地! ここで一泊すれば商売の運気が上がる事間違いなし!――


 ちなみに、アンディズムが使用していた家屋は、神殿のようなモノが建築中だった。

 心なしか、村の人たちも活き活きしているように見える。


 門番の男性が、垂れ幕を前にして満足そうにしていた。

 多分、この人がまた作ったんだろう。

 大人って凄いなって思った。

 こっちの方がご利益があると、旅立つ前に出会った村の人たちから感謝される。

 いや、商売の神様から許可された訳じゃないけど……まぁ良いか。


 でも……上手くいけば良いな。


⦅問題ありません⦆


 セミナスさんからお墨付きを貰った。

 これでこの村は安心だな。

 心を軽くして先へと進める。


 ただ、アンディズムを取り逃がした事で、アドルさんたちから怒りが漏れ出ていた。

 もしアンディズムと次会う事があれば、どうなるんだろう。

 ……ああいうのに限って、また会いそうだし。


 とりあえず、まぁまぁとアドルさんたちを宥めながら、村を出て旅立った。

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