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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 EB同盟対大魔王軍本軍 12

 個でぶつかるのではなく、集でぶつかり始めた大魔王軍本軍の猛攻に、EB同盟は完全に勢いを消された。

 長い時間か、短い時間か……感覚的なモノで誰も答えは出せない。


 ただ、苦しい時間だけが続く。

 EB同盟の上からの指示は、耐える事。

 決して、焦ったり、動揺したりして、戦いの決着を逸らずに、生き抜く事を第一に考えろという指示が出ていた。


 次の機会は必ず来る、と。


 それを信じて、EB同盟の騎士、兵士、冒険者たちは耐え続け……苦しい時間は終わりを迎える。


     ―――


 最初に気付いたのは、兵士の一人だった。

 度重なる戦闘によって昂られた精神は鋭敏となっていたからこそ、気付く事が出来たのだ。


 それは、本当に些細な違い。

 その兵士が好んで使うのは片手剣と盾。

 オーソドックスと言ってしまえば身も蓋もないが、安定性は抜群だ。

 相手に対して、得手不得手の振り幅が最も少ないとも言える。


 そこを気に入って、その兵士は片手剣と盾を使用していた。

 長年使用してきた事も関係しているんだろう。


 魔物の攻撃を盾で防げば、思っていたよりも受けた衝撃が少なく、前よりも強く長く耐えられるような気がした。


 魔物に向けて片手剣で反撃してみれば、振る速度が前よりも速く鋭くなっていて、前よりも硬いモノでも斬れそうな気がした。


 ただ、それで感覚が狂うかと思えば、そういう事も起こっていない。

 なんというか、前々からこういうモノであったと、自然と受け入れる事が出来ていた。


 そう。前々から……神が封印される前の頃は。


 一人が気付けば連鎖的に他の者たちも気付いていく。

 主に、剣、盾、槍、弓をメインとして使っている者たちが。


 同時に理解する。

 苦しい時間に終わりが来た事を。

 EB同盟にとっての、次の機会が来たのだと。


「わはははははっ!」


 戦場に高笑いが響く。

 耳に届く声量はそれほどではなかったが、戦場全体に届いているのだと、不思議と誰しもがそう思う。


 そこに、高笑いを上げながら、空から一直線に下りてくる者が居た。

 その者はそのまま戦場のど真ん中――丁度、EB同盟と大魔王軍本軍の最前列が争っているところに下りてくる。


 地面に衝突するように着地し、その衝撃で周囲に居た者は人や魔物問わずにたたらを踏み、同時に激しい土煙が吹き荒れた。


 誰もが急な事で咳き込み、一体なんだと下りてきた者に視線を向ける。

 土煙が晴れたところに居たのは、片膝を付いて地面を殴るような姿勢の男性。

 白銀の鎧が光輝き、赤いマントがたなびいている。


 その男性はゆっくりと立ち上がりながら、腰から提げていた鞘から長剣を抜いて、その切っ先を大魔王軍に向けた。


「わはははははっ! 主人公、参上!」


 そう言うのと同時に、近くに居た魔物へと斬りかかる。

 その一閃は、剣を使う者であれば、誰しもが見惚れるほどに綺麗な流線を描き、魔物の首を斬り裂く。


 男性はそのまま剣を振るい、次々と魔物を仕留めていった。

 その動きはまるで舞踊のように見え、殺伐とした雰囲気の中であったという事もあり、一瞬男性が現れた周囲の場が硬直する。


 EB同盟側は、ただただその動きに見惚れた。

 大魔王軍本軍は、ただただその動きに恐怖した。

 振るわれる剣の腕前が、見ただけでわかったからだ。


 ――その腕前は、まさに神の如き剣術。


 剣を振るう者であれば、誰しもがその胸中に抱く思いだろう。

 そして、それは何も、どこも間違っていない。


 実際に、その男性は神なのだから。


「わはははははっ! 主人公は遅れて到着するもの! そう! だから剣の神である俺が主人公なのだ! EB同盟よ! 主人公足る、この俺の背中に付いて来い!」


 男性――剣の神が、大魔王軍本軍の魔物を斬り伏せながら、EB同盟に向けてそう言う。


 最初に動いたのは、自分の調子の変化に最初に気付いた兵士。

 流れるように理解する。


 神が解放され、恩恵を得られるようになったのだ、と。


「う、うおおおおっ!」


 その兵士が片手剣を振り上げて、対峙していた魔物に斬りかかる。

 恩恵を得られると同時にわかったのだ。

 耐える時が終わった事を。


 その兵士が魔物に襲いかかり、先ほどよりも鋭い剣技を周囲に見せる。

 それで、他の者たちも恩恵を得られるようになった事に気付く。


 それがどれだけの力を生む事になるのかを、EB同盟側は直ぐに理解した。


 得られる恩恵には差がある。

 習熟度とでも言えば良いのか、腕前や鍛錬時間によって、恩恵の実感には違いがあるだろう。

 しかし、それは今関係ない事。


 今重要なのは、周囲を見れば誰しもが理解出来た。

 剣の神の恩恵は、短剣、長剣、大剣などを問わず、剣であれば与えられる。

 それだけ汎用性が高い恩恵なのだ。


 その上、剣は主力武器。

 この場にある武器の種類は様々だが、どの武器が一番使用されているかと言えば、やはりそれは剣である。


 つまり、剣の恩恵とは、最も多くの者に与えられる恩恵なのだ。


 次々と――特に剣を持つ者は、その事に気付いていく。


『う、うおおおおおっ!』


 最初に動き出した兵士、それと、剣の神に続けと、剣を持つ者はあとに続いて大魔王軍本軍に襲いかかる。

 それは耐えていた事の鬱憤を晴らすかのような勢いがあり、突撃のような形となった。


 しかし、その力は先ほどまでとは明確に違う。

 恩恵による確かな力の上昇と共に、行われる攻撃なのだ。


 別に焦った訳でも、一か八かでもない。

 恩恵を得られた事で、僅かながら高揚感を抱いている程度だ。


 早くこの剣を振るいたいと。

 俺の華麗な、もしくは強い剣技を見てくれと。


 騎士、兵士、冒険者問わず、剣を持つ者たちによる進撃が始まった。


 特出した個だけではなく、全体的に近い数が強化されたEB同盟。

 個ではなく集で挑み始めた大魔王軍本軍。


 戦いはどこか特定の箇所に集中するのではなく、全体的に広がって行われるようになっていった。

 その花形は、間違いなく剣を持つ者たち。


 だからといって、剣以外を持つ者たちが不貞腐れているかというと、そういう事もない。

 というよりは、そんな暇はない。

 剣を持つ者たちが強くなった? というのなら、それを補佐してさっさと大魔王軍を倒してやると言わんばかりに立ち回っていた。


 そこに、先ほどの剣の神と同じように、空から下りてくる者が居た。

 それも複数。

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