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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 EB同盟対大魔王軍本軍 11

「来るぞ! 構えろ!」


 騎士団長の合図で、周囲一帯のEB同盟の騎士、兵士、冒険者が身構えた。

 その前列は、大きな盾を構え、体に力を込めて衝撃に備える。

 うしろに居る者たちは槍などの長物を盾の隙間から突き出すように構えていた。


『グオオオオオオオオオオッ!』


 そこに、大魔王軍本軍の魔物たちが隊列を組んで突進してくる。

 上官クラス以上の魔物の指示による行動だ。


 そして、戦場の至るところで、激しい衝突音が響き渡る。

 EB同盟の構える盾と、大魔王軍本軍の前列がぶつかったのだ。


 魔物たちの体当たりのような突進の衝撃に耐えきれず、倒されてそのまま踏み潰されるEB同盟の者たち。


 逆に、EB同盟の者たちが構える盾に突進がしっかりと受けとめられ、勢いがとめられて体が硬直した瞬間に槍などの長物を突かれて命を落とす大魔王軍本軍の魔物たち。


 双方共に衝突による被害は出たが、それで戦いはとまらない。

 何しろ、これまでとは状況が変化している。

 BE同盟側ではなく、大魔王軍本軍側で。


「……たくっ! ここでそれとか、めんどくせえなぁ!」


 変化した大魔王軍本軍の様子を見て、冒険者の一人がそう口走る。

 ただこのセリフは、EB同盟の誰しもが思っていた。


 何しろ、先ほどまでは同じようにぶつかり合っても、そこから先の行動は単発的だったのだ。

 個々で勝手に動き、点での戦いでしかない。


 しかし、今は違う。

 少なからず共に戦う姿勢を見せ、少なからず周囲に対してのカバーを行い始めている。


「右ガ薄クナッテイル! 厚ミヲ持タセロ!」


 大魔王軍本軍の魔物たちは、この場に居る上官クラスの魔物の指示の下、その通りに行動し始めていた。

 種を超えて、背中合わせにEB同盟と戦う魔物たち。


 力は弱いが速度の速い魔物が牽制を行い、速度は遅いが力の強い魔物が主攻を行う。

 防御の低い魔物を庇うように、防御が高い魔物が前に出る。


 本来、魔物戦には存在していた弱点が、魔物同士がフォローし合う事で消えていく。

 人が魔物に対してパーティで挑むのと同じように、魔物もまた複数でEB同盟に対するようになった。


 培ってきた経験が崩れていく。


 大魔王軍本軍がこれまでとは違った動きを見せ始めた事で、EB同盟は後手に回ってしまう。

 ここまで丁寧に着実に積み上げてきた勢いは失われ、逆に大魔王軍本軍を勢い付かせる事になる。


 それは、ここまで何度もEB同盟を勢い付かせてきた強者たちも同じであった。


「ここに来てわらわらと……面倒ね」


 グロリアが悪態を吐きながら次々と射っていく。

 一射一射、グロリアは丁寧に射っているため、先ほどまでは容易狙いを定められ、ほぼ一射で相手を絶命させる事が出来ていた。


 しかし今は、狙った魔物を他の防御力の高い魔物が庇うようになり、横槍が入るような形で倒す頻度が下がっている。


 悪態を吐くグロリアに向けて、その近くで戦っているシュラが軽口を叩く。


「そう思うのなら、大人しく後方に下がったらどうだ? 本来、射手は後方だろう? 格闘戦のように近接で戦う必要はないと思うけど? 遠くからでも当てられる腕前なんだし」


 自分と違って、とでも言うように、シュラは超硬質棍棒を振るう。

 ただ、そのシュラもやりにくそうにしていた。


 力では圧倒的だ。

 それは魔物相手でも変わらない。

 だが、シュラが物理的な力の強さを持っているとわかると、決して単体では挑まず、複数で押さえつけるように魔物が動き出していた。


 それでもシュラの力であれば跳ね除ける事は容易ではあるが、煩わしい事に変わりはなく、複数同時は気の抜けない状況でもあるため、内心では多少なりとも苛立ちを抱いている。


「遠方からでも良いんだけど、正直近接で射る方が向いているのよね。母の血のせいかしら?」

「母? シャインさんか! なら、否定出来ないな!」


 互いに軽口を叩き合いつつも、手はとめない。

 EB同盟の勝利のため、少しでも多くの大0魔王軍本軍の魔物を倒すために。


 それは他の場所でも同じである。


「なるほど。厳しい局面とは……まさにその通りですね」


 カノートによる神速の突きで、相対していた魔物は瞬時に穴だらけになって絶命した。

 その穴だらけになった魔物を囮にしたように、別方向から新たな魔物が襲いかかる。


 しかも、一方向からではない。

 左右、後方からの三方向同時であった。


「やらせん!」

「やらせません!」

「させない!」


 そこにウルトラン、ウルア、フェウルが割り込み、カノートに三方向から襲いかかった魔物を倒す。


「別に対処出来ましたが、助けられた事は事実です。感謝の言葉だけで良いですか? それとも、何か物でも贈った方が良いでしょうか?」

「感謝の言葉だけで良いわ!」

「えっと、今ですか?」


 カノートがウルトランに向けてそう問いかける。

 何しろ、未だ戦闘中。

 カノートに向けて、魔物は次々と襲いかかってきているのだ。


「口を開くくらい、戦いながらも出来るだろ?」


 そこにウルトランが加わり、魔物を倒していく。

 ウルアとフェウルも、二人一組のように揃って魔物を倒していた。


「そうですね。では、ありがとうございます」


 笑みを浮かべながらカノートは感謝の言葉を述べる。

 ただ、そこにはどことなく疲れが見え始めていた。


「どうした? 何やら疲れているようだな?」

「まぁ、大きいのを相手に武技を使用しましたから」

「アレか。……下がりたければ、いつでも構わんぞ。戦いはまだ続くのだからな」

「そうですね。きちんと見極めて、下がる時は下がりますよ」

「なら、それまでは頑張ってもらおうか」

「そのつもりです」


 カノートとウルトランは、背中を預けるように協力し合って魔物を倒していく。


 また、ひっそりとだが、ロードレイルと宰相も、EB同盟全体に対して援護行動を続けている。


「……ロードレイル様。もう少し前に出て行うべきでは? 今なら注目されますよ?」

「それが嫌だから!」


 ロードレイルはそう拒否するが、何度か援護する姿は目撃され、感謝の念を送られる事になる。


 それでも、ここでEB同盟は一気に押される事になった。

 いや、大魔王軍本軍が調子を取り戻したと言うべきか。

 それこそ、ここで決着が着けられていてもおかしくないほどに、大魔王軍本軍の侵攻が巨大であった。


 それでもEB同盟は瓦解する事なく、上手く対処して耐えられた。

 事前に厳しい局面を超えるために態勢を整え、様々な垣根を超えて協力し合う状態であったために、押し切られる事がなかったのだ。


 また、耐えられたという事は、それだけ時間が稼げたという事でもあった。

 そして、その稼げた時間があったからこそ、壊滅的状況ではなく希望が残された状態で、EB同盟に援軍が到着する。

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