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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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EB同盟対大魔王軍本軍 9

 ベヒモスはグロリアとカノートによって倒された。

 だからといって、その脅威までが完全に排除された訳ではない。

 何しろ、ここは大魔王軍本軍が勢揃いし、拠点としている場所。


 様々な魔物が集合しているという事は、その中には、戦闘方法が独自の存在も多種多様という事だ。


 そうなってくると、戦場という舞台において出会いたくない存在、もしくは、居て欲しくない存在というのがそれぞれあるだろう。


 ――ネクロマンサー。

 簡単に言ってしまえば、霊魂や死者を利用する魔法の類を行える存在。


 もし敵側にそのような存在が居て、このような戦場で見つければ、真っ先に倒すべきだと思うのは間違いない。

 何しろ、ネクロマンサーが利用出来る死者が、人、魔物問わず、豊富に存在しているのだから。


     ―――


「くそ、くそ……ふざけやがって!」


 EB同盟に所属する騎士の一人が、目の前の相手を見て、それを行った者に対しての怒りを露わにする。

 何しろ、その相手はその騎士にとって、心を許せて付き合える友の一人であった。


 しかし、今は違う。


 大魔王軍本軍の魔物にやられ、物言わぬ存在となっていたはずなのだ。

 だが、今はなんの感情も見えない目で騎士を見ながら、ゆっくりと前へ前へと歩んでいる。


 ゾンビと化していた。


 それを行った存在――ネクロマンサーの存在は周囲にはない。

 ただ別の似たような戦いが起こっているだけ。


 ゾンビと化したのは、何もEB同盟の人だけではない。

 倒した魔物もゾンビとして動き出し、EB同盟へと襲いかかっている。

 といっても、動きは生前と違って緩慢であり、そこまで脅威であるという訳ではない。


 ただ、魔物のゾンビならまだしも、EB同盟側のゾンビともなれば、話は別だ。

 戦闘以前の問題である。

 相手によっては、精神的にくるモノがあるだろう。


 それこそ、悪態を吐いた騎士のように。

 この騎士は、自分では刃を振るう事が出来なかったため、他の者に託す事にした。


 そして、そのような行為を行ったネクロマンサーは、大魔王軍本軍の中に紛れていた。

 全身骸骨で、ボロボロの黒のローブを纏ったような姿であり、見える頭部はほくそ笑んでいるように見える。


 このネクロマンサー自体に戦闘能力はさほどない。

 ただ、死者を利用した魔法に関しては超一級品であるため、ネクロマンサーは内心でも歓喜を抱いていた。


 何しろ、今、ネクロマンサーがその視界に捉えているのは極上の死体。

 超巨大な魔物・ベヒモス――の死体であった。


 ネクロマンサーがベヒモスの死体に向けて魔法を唱える。

 すると、死んでいたはずのベヒモスの死体が動き出し、ベヒモスゾンビと化す。

 緩慢な動きで立ち上がり、EB同盟側に向けて侵攻を開始した。


 それは恐怖の対象。

 大きな脅威であった。


 何しろ、元々頑強な体躯というだけでなく、今はそこに意思が存在しない。

 それはたとえ攻撃が通ろうとも、痛みを感じないという事である。

 つまり、ベヒモスゾンビは、侵攻をとめる理由が存在しないのだ。


 咆哮も上げず、叫びも行わない……物言わぬベヒモスの死体の侵攻は、不気味そのものだ。

 緩慢な動きも相乗効果を生んでいるだろう。


 その侵攻方向は、EB同盟本陣に向けられていた。

 EB同盟は大慌てで対処を行うが、攻撃を与えても通じず、侵攻をとめる事ができない。

 といっても、とめられない者が居ないという訳ではなかった。


 その時はそこに居なかっただけ。

 異変を察知して、再び強者が集まる。


「一国の王として、EB同盟の一員として、生物として、貴様のような存在は看過出来ん! ここで終わらせてくれる!」


 ウルトランが疾駆した。

 ベヒモスゾンビの真正面に回り込み、その侵攻を受けとめる。

 といっても、双方の大きさには圧倒的な差があり、ウルトランはベヒモスゾンビに張り付くような形で押されていく。


「……き……に」


 ウルトランが体に力を込めながら、呟きが漏れる。

 その呟きは、咆哮へと変化。


「筋肉に優る質量などないわ! 『その身に宿る獣を呼び起こし 己の中の獣を解放し 真なる獣へと至らん 真獣化』」


 それは獣人だけが使用出来る特殊武技。

 己の中の獣性の力を完全に解放し、身体能力を飛躍的に上げるモノ。

 故に、ウルトランの存在が増すように、その体が全体的に、特に筋肉が膨れ上がる。


 それは、純粋な力。


 なんの障害もなく進んでいたはずのベヒモスゾンビの侵攻が次第にゆっくりとなっていき、果てはピタリととまる。

 ウルトランが、その力で真正面からとめたのだ。


 そこに来るのは、ウルアとフェウル。

 ベヒモスゾンビに対して、左右から挟み込むように疾駆する。


「陛下のように長時間の発動は無理でも!」

「瞬間的になら!」


 まったく同じタイミングで、二人が特殊武技を発動させる。


「「『その身に宿る獣を呼び起こし 己の中の獣を解放し 真なる獣へと至らん 真獣化』」」


 ウルアとフェウルがその存在を増し、純粋な力を叩き込むように、ベヒモスゾンビを蹴り上げる。

 激しい衝撃音が周囲に響くが、ベヒモスゾンビは僅かに浮くだけ。

 そこに追加の力が加えられる。


 ウルトランの魂の叫びが咆哮のように轟く。


「だから……パパと呼びなさいと、前から言っているだろうがぁ!」


 ウルアとフェウルの力も合わさって、ウルトランはベヒモスゾンビを空中に放り投げる。

 それだけであれば、ただ落ちてくるだけ。

 いくらウルトランでも、目的なしにそんな事はしない。


 ベヒモスゾンビの体躯が陽光を遮り、地上に大きな影が出来上がる。

 そこに、小さな影が飛来した。


「はははははっ! 飛ばし甲斐があるっ!」


 ベヒモスゾンビの前まで飛び上がってきた小さな影の正体は、シュラ。

 スイングするように、超硬質棍棒を構える。


「『滾らせるは戦意 溢れさせるは部位 振るわれるは暴威 超絶衝撃フルインパクト』」


 武技が発動。

 超硬質棍棒の、シュラが持つ柄以外の部分が、倍、倍、と段々大きくなっていき、元の数十倍の大きさとなる。


「飛んでけぇーーー!」


 シュラが渾身のフルスイング。

 周囲一帯の大気を震わせるような激しい衝撃音と共に、ベヒモスゾンビが飛んでいく。


 飛んでいった先は、まだ戦場とはなっていない場所。

 そこに居たのは、前がつかえて進めない大魔王軍本軍の魔物たち。


 ベヒモスゾンビは地上に落ちた瞬間から転がり続け、その大きな体躯故に、非常に多くの魔物を巻き込み潰す。

 それは大魔王軍本軍にとって、決して少なくない損害を出した。


 ウルトラン、ウルア、フェウルが空に向けて親指を立てる。

 空中で落下しながら、シュラも地上に向けて親指を立てた。


 しかし、飛んでいったのはベヒモスゾンビ。

 そう、死体。

 まだ動くのであれば、それは脅威であり、ネクロマンサーにとっては極上の死体なのだ。


 ネクロマンサーが再びベヒモスゾンビを動かそうとした瞬間――。


「本当に迷惑だから、もうやめてもらおうか」


 そんな言葉が聞こえたと思った時には遅かった。

 頭部が砕かれ、ネクロマンサーは体の骨がサラサラと崩れていきながら絶命する。


 砕いたのは拳。

 その拳を放ったのは、ロードレイル。


「これで、もう死者が冒涜される事はない」


 ロードレイルはそう言い残して、宰相と共に別の魔物を倒しに向かう。

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