別章 EB同盟対大魔王軍本軍 6
シュラとオーガキングの、互いに持つ棍棒の打ち合いは続いていた。
硬いモノ同士がぶつかる鈍い音は何度も続き、それは次第に大きくなっていく。
その様子を見て、EB同盟側は次第にそこから距離を取るようになっていった。
巻き込まれてはいけないという思いを持った者が居ない訳ではないが、大半はあれは邪魔してはいけない、という思いからだ。
シュラとオーガキングは、そういう雰囲気を放っていた。
――決闘。
いや、既にこれは意地の張り合いとなっているのは、誰の目から見ても明らかだ。
しかし、大魔王軍側からすれば、そんなのは関係なかった。
正確には、それなりに確固とした自意識を持っていない魔物からすれば、だ。
オーガキングと打ち合い続けるシュラは、恰好の獲物に見えた。
目の前の相手だけを見て集中している姿は、それ以外の何も見えていないように見える。
故に、大魔王軍側の末端のような魔物たちは、雰囲気に関係なくシュラへと襲いかかった。
「邪魔を、するなっ!」
そんな魔物たちを棍棒で叩き飛ばしたのは、オーガキング。
言葉通り、邪魔された事に対する怒りが表情に表れている。
オーガキングは、シュラとの打ち合いを楽しんでいた。
何しろ、自分の自慢であり、誇りでもある力と、真っ向勝負出来る存在が現れたのだ。
そんな存在は初めてであったために喜んでいたのである。
同時に、誇りの部分で、己の方が強いと、真っ向から証明したくなっていた。
だからこそ、なんであろうとも邪魔は許さない。
たとえ、同じ大魔王軍の魔物であったとしても。
だからといって、横槍が入った程度でやられるシュラでもない。
確かに邪魔を入れてきた魔物たちをオーガキングが叩き飛ばしたが、それは大半。
攻撃速度的に一部がオーガキングを抜けているのだが、その一部を、シュラはきっちりと叩き飛ばしていた。
目の前に相手に集中はしているが、だからといって、それで奇襲が成功するほど、シュラは甘くない。
また、集中していても勘のようなモノが働いて窮地を脱する。
シュラはそんなタイプであるため、言ってしまえば、常識が通用しない理不尽な存在であり、EB同盟内の誰しもが認める強者の一人なのだ。
己が相手しているのは強者であるという事を、オーガキングはこれからその身を以って知る。
邪魔な魔物たちを瞬く間に掃討したオーガキングは、シュラに向けて口を開く。
「さぁ! 続きだ! 存分に楽しませろ!」
そう言うオーガキングは笑みを浮かべる。
だが、シュラもまた、笑みを浮かべていた。
「ありがとう」
オーガキングに向けて感謝の言葉を言うシュラ。
何故そのような言葉を? とオーガキングは首を傾げる。
「私は、今までのが最大だと思っていた。でも、対抗出来るモノが現れた事で気付いた。その感謝さ」
シュラの笑みが、獰猛なモノへと変わっていく。
オーガキングは無意識でたじろぎ、一歩下がってしまう。
シュラから己にだけ向けられる不穏なモノを感じ取ったのだ。
それを言葉にするのなら――死の気配。
これから訪れるであろう己の死に、その死をもたらすであろう目の前の相手――シュラに対して、オーガキングは自然と喉を鳴らす。
「どうやら」
シュラが超硬質棍棒を強く握り締め、オーガキングに向けて一歩前へ。
「私はまだまだ本気ではなかったようだ。その力で倒し、私は次へと向かう」
シュラが超硬質棍棒を振るう。
オーガキングが咄嗟に構えて受けるが、先ほどよりも大きな鈍い音が響く。
咄嗟とはいえ、先ほどまでであれば、きちんと受け止める事が出来るだけの力は込めていた。
それなのに、実際は腕と棍棒が後方に少しもっていかれる。
それだけで、オーガキングは悟った。
今、目の前の相手が言った事は、虚言でも妄想でもないという事を。
先ほどまでの叩き合いで、相手がまだ本気ではなかったという事を。
そこから始まるのは、シュラの一方的な攻撃だった。
振るわれる超硬質棍棒を叩き付ける。
その光景は、まるで暴風雨――嵐のようだ。
強く鈍い音が何度も周囲に響き、オーガキングは防戦一方となる。
変化はそれだけではなかった。
シュラが使用しているのは、超硬質棍棒。
オーガキングが手に持っているのは、ただの棍棒という訳ではないが、超硬質という訳ではない。
シュラとオーガキングの力の差だけではなく、使用している棍棒の差も表れてくる。
言ってしまえば、オーガキングの棍棒が、シュラの力と超硬質棍棒の威力に耐えられなくなってきた。
嵐のような攻撃に晒され、オーガキングの棍棒は段々へこんでいき……最後はパキンと悲しい音を発して折れる。
当然、シュラはとまらず、オーガキングは超硬質棍棒による嵐のような乱打を受けて絶命した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
オーガキングを倒したのを確認したあと、シュラの呼吸は大きく乱れていた。
自分が普段出している以上の力を出したため、その反動として体力を大幅に消費し、疲労が表に出てしまったのだ。
けれど、シュラはただ力が強いという訳ではない。
身体能力全般が非常に優れているのだ。
呼吸の乱れは直ぐに治まり、最後に大きく息を吐くと、既に乱れはなくなった。
「よし。次だ!」
シュラはオーガキングに言ったように、次へ向けて歩を進める。
―――
奮闘するEB同盟。
強者も加わり、その動きは確かな流れとなって、EB同盟は少しずつ盛り返していく。
元より、相手は大魔王軍本軍。
苦戦するのは当然であり、そう簡単に勝利を得られるとは思っていなかったのだ。
多少追い詰められたからといって、諦めるつもりは……それこそ、たとえこのあとに最後の時が来たとしても、この場に居る誰も諦めるつもりは毛頭なかった。
だが、未だEB同盟が倒した数は、大魔王軍本軍からすれば一部であり、表面、表層の部分でしかない。
大魔王軍本軍の数はまだまだ多く、人以上にその構成は種類が多いために、EB同盟に対する攻撃方法には幅がある。
大魔王軍本軍がEB同盟に対してその獰猛な牙を剥くのは、これからなのだ。




