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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 EB同盟対大魔王軍本軍 5

「ぐぶぶ。歯応えもありそうで、本当に美味そうな肉だ。貴様の口からこの槍を突っ込み、丸焼きにして食ってやろう」


 自らの欲を隠す気はなく、はっきりと口に出すオークキング。

 それが本心である事を示すように、ウルトランを見て、だらだらと涎を垂らしていた。

 腕で拭うが、次から次へと溢れ続けている。


「………………」


 それに対して、ウルトランは何も答えない。

 というより、興味がないとか、交わす言葉を持っていないという感じ。


 ただただオークキングを見据え、怒りの表情を浮かべている。


「ぐぶぶ! 動くと余計に痛いぞ! それに、肉に余計な傷を付けたくない!」


 笑いながら、欲のままにオークキングがその膂力を振るう。

 ウルトランに向けて、オークキングは巨大な槍の突きを放つ。


 そこに技術は一切見られない。

 ただ、己の力のままに放たれる突き。


 相手が普通であれば、それは大した脅威ではない。

 だが、オークキングともなれば別。

 超一級の力を持ち、その力で放たれた突きは、すさまじい速度と威力を有している。


 並の者なら反応すら出来ずに貫かれているだろう。

 力だけで、それを可能にしていた。

 それが、オークキングなのである。


 しかし、今回は相手が悪かったと言える。

 放たれた突きの先に居るのは、怒れるウルトランだ。


「ふんっ!」


 突かれる槍の穂先を殴る。

 ウルトランの拳を受けて、槍の穂先は砕け散った。


「……はっ?」


 オークキングが素っ頓狂な声を上げるが、ウルトランはとまらない。

 連続して振るわれるウルトランの拳は槍をそのまま破壊していき、オークキングとの距離を詰めていく。


 オークキングが気を取り戻した時には、槍は既に自身が持っている根元部分しかなく、ウルトランは眼前に迫っていた。


「ば、馬鹿な!」


 驚愕と共に、オークキングは根元しかない槍を放ってウルトランに掴みかかる。

 それは焦りからくる本能的な行動。

 己の力に絶対の自信があるからこそ、力による勝負を行おうとしたのだ。


 が、ここであえて言うのであれば、世の中、上には上が居る。


 そういう意識が、オークキングには欠けていた。

 ウルトランは掴みかかってきているオークキングの手を逆に掴み、そのまま握り潰して破壊。

 硬いモノが砕け散る音が響き、オークキングは痛みで叫びながら膝を付く。


 膝を付いた事で、顔面が丁度良い位置まで下りる。

 そこに、ウルトランの渾身の蹴りが放たれ、オークキングの頭部は吹き飛んでいく。

 ウルトランが掴んでいた部分を放すと、頭部がなくなったオークキングはそのまま崩れ落ちた。


「……ふんっ」


 つまらない者を相手にしたと言わんばかりに、息を吐くウルトラン。

 ウルトランがそのまま視線をずらすと、その先ではウルアとフェウルが、ゴブリンキングと戦っているところが見える。


 といっても、もう終盤であり、戦いというよりは蹂躙と表現した方が良いくらいに圧倒していた。


「はぁ……はぁ……」


 ゴブリンキングの息は、もう既に切れている。

 肩を大きく揺らす呼吸だ。


 それもそのはず、ゴブリンキングの体には、斬撃の痕や打撃の痕が痛々しくいくつも付けられていた。

 持っていた剣は剣身が斬られ、盾は硬いモノを防いだかのようにへこんでいる。


 斬撃の痕と剣身を斬ったのは、大剣を振るうウルア。

 打撃の痕と盾をへこませたのは、鉄扇を振るうフェウル。


 ゴブリンキングの攻撃をウルアが防いだ時はフェウルが攻撃を行い、フェウルが防いだ時はウルアが攻撃を行う。

 二人は息の合った見事な連携をもって、ゴブリンキングを圧倒していた。


 というよりは、そもそもの話。

 一人でもゴブリンキングを相手に倒せるだけの力を有している。


「フェウル姉様。そろそろ決めましょうか」

「なら、ウチがとどめを行うから、ウルアが注意を惹き付けて」

「いえ、そこは僕がとどめを行いますので、フェウル姉様が牽制をお願いします」


 二人の間にバチッと火花が散る。

 同時に同じ結論を出すのは、姉弟だからだろうか。


「「先に倒した者勝ちっ!」」


 ウルアの斬撃とフェウルの打撃が交差するように振るわれ、ゴブリンキングは絶命する。


「とどめは僕の斬撃が」

「いいえ、ウチの打撃が」


 同時に振るわれたので、決着は着かない。


「「なら、倒した魔物の数で!」」


 自然とそうなり、ウルアとフェウルは次へと向かう。

 ウルトランもまた、次に向けて動き出した。


     ―――


 ――数の暴力。

 ロードレイルと宰相に襲いかかった狼型の魔物の群れは、まさにその言葉を体現していた。

 獲物と定めたモノがどれだけの強さを持っていようが関係ない。


 絶え間なく襲いかかり、少しずつでも獲物を削って、精神を摩耗させるくらいに追い詰めていき、絶対の隙が見えた瞬間に喉元に食らいつく。


 そこにあるのは、どれだけ時間をかけようともじわりじわりと追い詰めていく忍耐強さと狡猾さ。

 そして、絶対に獲物を逃さず、食らってやるという本能。


 群れが一つの生命体のように動き、殺るか、殺られるか、その選択肢しか存在しない。

 そのように感じられる。


 事実として、ロードレイルと宰相が襲いかかってくる狼型の魔物を一度に数体倒そうとも、同数、もしくはそれ以上の数が、一体どこからと言いたくなるくらいに次々と追加されていく。


 未だ傷は負っていないが、これが延々と続いていけば、いずれ対応出来なくなる数になるのは明白。

 体力の消耗による疲れ、もしくは、数の暴力に屈する形になるだろう。


 なんにせよ、何かしらの策を講じなければ、いずれ均衡が瓦解し、食い散らかされる事になるだろう。

 普通であれば――。


「ロードレイル様。気付かれましたか?」

「倒した数と地面に倒れている数が合わない」

「質量を持った幻影……いえ、幻の中に本物を紛らわせている、でしょうか?」

「どちらにしろ、大元を断てば問題ない」


 ロードレイルがそう言い切るのと同時に行動を起こす。

 瞬時に駆けたかと思えば、地面に倒れている狼型の魔物の群れに向かって拳を放つと、その中の一体――他のとは少しだけ、ほんの少しだけ体格や毛の色が違う狼が飛び上がって拳を避ける。


 そこに宰相の蹴りが放たれ、メキメキと何かが砕ける音と共に、狼は蹴り飛ばされて絶命した。

 すると、周囲に居るのと、地面に倒れている狼型の魔物の数十体がその姿を消す。


 まるで、夢か幻であるかのように。


 まだ周囲に居た狼型の魔物の群れは、毛を刈られて丸裸になったかのように、その数を多く減らしてみすぼらしく見えてしまう。


 その状態は、どちらかと言えば狩られる側にしか見えず、実際、周囲に居たEB同盟の者や、他を気にしない魔物の攻撃によって瞬く間に全滅する。


「発見、お見事でございます」


 宰相に称賛に、ロードレイルは珍しく自信満々に答える。


「まぁね! 長年、隠蔽、隠遁、潜伏、その他同系統諸々を鍛えまくった余からすれば児戯に等しい」

「ロードレイル様。その言い方ですと、一般的に誇れる事ではないかと」

「……余は一芸に秀でている!」

「それでよろしいかと」

「ところで宰相」

「なんでしょうか?」

「一応、念のために聞くけど……大魔王軍との戦いに勝機が見えたら、これ幸いと混乱に乗じて、余を殺ったりしないよね?」

「さっ、ロードレイル様。次はあちらに参りましょう」

「確約! ないよりはマシだから、確約が欲しいんだけど!」


 ロードレイルにとって、一番の敵は宰相である。


 そうしてこの二人は、ロードレイルの一芸を活かして、上手く使われると厄介な、間接的な力を持つ魔物を優先して倒していく。

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