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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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 神様が封印されている黒い神殿に侵入し、本の悪魔ウーノを撃破……いや、実際に撃破した訳じゃなくて、勝手に居なくなっただけだけど、そこから先に進むと、ある部屋に辿り着いた。

 扉を少し開けて中の様子を窺うと、特に装飾などはなく、目立った部分といえば部屋の中央で寝そべっている男性――商売の神様が居るくらい。

 ……まぁ、実際は起きていたんだけど。


 その商売の神様が寝そべったまま言う。

「働きたくない」と。


 駄目な神様確定である。

 その印象が強くて、思わず少し振り返ってしまった。

 駄目だ駄目だ。

 いくら逃避しようが、現実は変わらない。


 とりあえず、商売の神様に声をかけた方が良いかな?


「………………あのぅ」


 扉をきちんと開けて声をかける。

 声をかけられると思っていなかったのか、商売の神様の体がビクッ! と跳ねた。

 ………………。

 ………………そこから動かない。


「あのぅ……」


 思い切ってもう一度尋ねてみる。

 しかし、それでも動きは……あった。

 商売の神様が両手を俺に向け、両人差し指を交差させる。


 ………………。

 ………………かける?

 実は俺とウーノとのやり取りを見ていて、掛け算をご所望なのだろうか?

 それとも、やはり商売の神様という事で、掛け算くらいは余裕で答えられると証明したいのかもしれない。


 えぇ~、そんな急に言われても……。

 神様が満足するような問題を出せる自信がないんだけど。

 それでも考えてみるのだが、その間、商売の神様はしつこいくらいに、何度も交差させた両人差し指を強調していた。

 わかっているって。そんなに急かさないでよ。

 ちゃんと問題を考えるから――。


⦅マスター、私的な意見ですが、「掛ける」ではなく「バツ印」を表しているのではないかと⦆


 ………………あっ。

 いやいや、これはアレだ。

 ちょっとした手違いというか、直前に掛け算問題をやったから、そういう風にしか見えない先入観があった、という事で間違いはない。


⦅そうですね、マスター⦆


 肯定されると辛くなるからやめて。

 とりあえず、心の中で謝っておこう。

 どうも、すみませんでした。


 それにしても、商売の神様が「バツ印」を俺の見せてくるのは……この状況を踏まえて考えてみると……。


「………………出て行って欲しい……いや、一旦出て行って、入り直して欲しい……つまり、やり直したい?」


 商売の神様が、両親指と両人差し指を合わせて丸を作る。

 正解のようだ。


「それじゃあ……一旦出ます」


 言葉にしてから扉を閉める。

 多分、色々準備があるのだろう。心の、とか。

 なので、しばし待つ。


 ………………。

 ………………。


 もうそろそろ良いかな? と思っていると、扉からコンコンとノック音が響く。

 準備完了のようだ。

 もちろん、俺も!


 勢い良く扉を開ける。


「ここかぁ! 神様が封印されているのは!」


 最初の出会いをなかった事にした俺の視界に映るのは、眩いばかりに輝く黄金の塊。

 正確には、溢れんばかりにある金貨の山。

 宝石類や宝箱もある。

 そんな黄金の山の頂点で鎮座している者が居た。


 吸い込まれるような黒髪に、上等そうな仕立ての良い服装を身に纏っている男性。

 顔立ちは整っていて、見た目で判断するなら、多分……二十代後半か三十代前半。

 足を組み、勝ち誇った笑みを浮かべている。


「おう。お前が異世界から来たヤツだな。話は予言のから聞いている」


 ……ドスが効いた感じで怖い。

 妙な迫力があるし。

 これが商売の……あっ、初対面って設定だった。

 なので、尋ねる。


「……はい。そうです。明道といいます。……それで、あなたはなんの神様なんですか?」

「アキミチか。覚えておいてやる。それと、私の事はこの巨万の富を見ればわかるだろう? 商売の神だ」


 なるほど。

 先ほどはなかった金貨の山を見て、納得するように頷く。

 すると、商売の神様が顔の前で手を組み、真面目な……いや鋭い目付きで俺を見てきた。


「という訳で、商談を始めようか。アキミチ君」


 商売の神様から発せられる圧に当てられて、ゴキュッと喉が鳴る。


「………………商談ですか?」

「そう。これは商談だ。これから私が提案する事をのんでくれるのなら、この巨万の富は全て君の物だ。足りないなら追加もしてやる」

「……はぁ」


 商売の神様からの本気を感じる。

 多分、先ほどの寝そべって働きたくないと言った事の口止めかな?


「それで、その提案というのは? 聞かない事には判断出来ませんし」

「……とても簡単な事だ。先ほどの私の状況と言動は、見なかった事……君の中でなかった事にして欲しい。つまり、簡単に言えば他言無用」


 既になかった事にしていたけど……不安なのかな?

 確固たる証拠……契約でも欲しいのかもしれない。

 商売の神様だし。

 でもまぁ、それぐらいなら別に。


「それと」


 それと?


「私をこのまま放置していけ。外に出たくないのだ」

「………………」

「………………」

「………………えぇ~と」


 それは良いんだろうか?


⦅駄目です。今後に必要な神なので⦆


 駄目らしい。

 金貨の山はもったいないけど。

 ……いざとなったら、セミナスさんに泣きついて稼ごう。


「えっと、なんか今後に必要らしいので駄目っぽいです。なので、このまま外に出します。というか、神様解放が俺のやるべき事らしいので、このままここに居られるとこっちが困るというか……」

「……拒否する」


 商売の神様が腕を組んで、決して動かないと断固たる姿勢を誇示する。

 ……あれは本気だな。

 大人なだけに、見ていて辛いモノがあるけど。


「……えっと、どうしてそんなに嫌なんですか?」

「こき使われるからだ」


 それはそれは澄んだ……いや、真っ黒な目で、商売の神様が俺を見る。


「……あいつら、こっちに押し付けてくる仕事の量が尋常じゃなさ過ぎる! というか、ほぼ! もうほぼ! いや、全部と言っても過言じゃないぐらいだ!」


 まるで、決壊したかのように……商売の神様の言葉が止まらない。


「確かに、こっちも神だからそう簡単に滅したりはしない。だが、それはあっちもそうなんだから、少しは自分たちでやれよ!」


 相当溜まっているようだ。

 色々と。


「………………さすがに神だから過労死はないと思うが、でも……心が過労で摩耗して死んでいく感覚が……」


 商売の神様が自嘲するように苦笑した。

 なんか見ていられないんだけど……このまま放置していった方が良いような気がする。

 でも、一応確認をしたい事がある。


「あの、商売の神様……あっちって?」

「……そんなの、決まっているだろ………………戦闘系の神たちだ」


 ……んん?


「あいつらは脳筋ばっかりでな……書類仕事より体を動かした方が良いとか言って、そういうのをこっちに回すばかり。その方が効率的とか、適材適所とか言うが……いや、確かに事実としてその通りだし、下手に手を出されるよりは遥かにマシなのは間違いない。だが、それでもやる気を見せるというか、やろうとする意思は大切だと思わないか? 時間はたっぷりある訳だし、いつかは出来るようになるかもしれんくせに。あと誠意を見せろ」


 ……闇を感じる。

 セミナスさんは今後に必要とか言っていたけど、さすがにこんな精神状態の神を連れ出すのは、少し躊躇われる……というか、連れ出せる気がしない。

 説得も無理そうだし。


⦅仕方ありませんね。確かに、マスターでは難しいでしょう。ですので、商売の神を外に出す魔法の言葉を教えましょう⦆


 ……魔法の言葉?


「えっと、商売の神様」

「……ん? なんだ?」

「………………外にブラック商会が出来ています」


 セミナスさんが言うように言ってみた。

 ブラック商会……ブラック企業みたいなモンなのかな。

 異世界でも、そういうのがあるんだなぁ。

 すると、商売の神様の目が光線を放つようにクワッと見開かれる。


「こっちの文系の神たちの総力を結集して一回滅ぼしてやったのに、また現れやがったのかぁ! 上等じゃあ! かちこんだるわぁ~!」


 そう叫びながら自ら出て行った。

 ………………。

 ………………どゆ事?


⦅自分が置かれている環境が環境なだけに、そういうのが許せないようになって一度根絶させた、という過去の出来事が記録されていましたので、そこを利よ……使わせて頂きました⦆


 言い直す意味はあったのだろうか?

 寧ろ、神様すら使うセミナスさんが怖い。


⦅その私を使えるのはマスターだけですので、一番怖いのはマスターという事になりますね⦆


 ……さぁて、商売の神様のあとを追わないと!

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