挨拶回りも大変です
インジャオさんとウルルさんが利用する部屋にアドルさんとロアナさんを残し、俺は移動を開始する。
向かう先は、この度合流した西側を攻略していたEB同盟の代表者たちのところ。
今後行う話し合いについてもあるし、先に挨拶はきちんとしておかないといけない。
もちろん、東部側を攻略していたEB同盟の代表者たちとは、既に挨拶を済ませている。
ビットル王国の国王ベオルアさんとは、前回と同じようにのほほんとした空気感で挨拶を交わす。
フィライアさんにも、と思ったが、今は樹さんの相手で手一杯のようだ。
邪魔してはいけないと思い、空気のように存在感を消して次へ。
「いや、俺も連れて行って――」
何か聞こえたような気がしたけど……いや、きっと気のせいだろう。
今の俺は空気。
だからこそ、空気を読まないといけない。
同じような理由で、グロリアさんもスルー……出来なかった。
というより、グロリアさんの方から一声かけられる。
「大魔王に共に向かうのですし、母の事、これからもよろしくお願いしますね」
……これからも?
頷くのは危険な気がするが、頷く事しか出来なかった。
ドワーフの国の国王であるドルドさん。
鍛冶の神様が主導で行った、オリハルコンを用いた詩夕たちの武具製作のお手伝いをしてくれた人たちの一人。
この人とだけは、挨拶だけでは終わらない。
「それで、義手というのは――」
「ほうほう……」
義手の製作を依頼しておく。
セミナスさんから聞いて詳しい設計図も用意。
興味津々だったので、この戦いが終われば直ぐにでも製作に入ってくれると思う。
ラメゼリア王国は国王であるゴルドールさんとサーディカさん。
ここに関してはカノートさんも同席していれば、特に問題はない。
ある意味、一番まともに対応してくれるんじゃないか? とすら思ってしまう。
さすがは三大国の一国、と言うべきだろう。
まぁ、カノートさんが一番濃いので、先に来てしまうとどうしても……ね。
あとはエルフの里のラクロさんだが………………まぁ、いっか。
「いや、良くわないよね! というか、段々と扱いが酷くなってないかい?」
俺の前を遮るように、ラクロさんから現れる。
「まぁ、ラクロさんはアドルさんの方が仲が良いですし、そもそもラクロさんの方から来てくれると思っていましたから」
実際、こうして来た訳だしね。
うんうん、と頷いておく。
そんな感じで、東部側を攻略してきたEB同盟の代表者たちへの挨拶は終わっている。
次は、西部側を攻略してきたEB同盟の代表者たちへの挨拶だ。
「えっと……」
獣人国に挨拶に向かうと、何故かウルトランさん、ウルアくん、フェウルさんに案内されるまま椅子に座らされて、逃げられないように周囲を固められた。
「これはどういう事? え? あれ? 俺、何かしました?」
「いいや、していない。ただ、教えて欲しい事があるのだ」
代表として、ウルトランさんが話しかけてきた。
教えて欲しいという事は、どうやら聞きたい事があるようだけど……なんでウルアくんもフェウルさんも鬼気迫るような表情なの?
落ち着かないので、その目はやめて欲しい。
「な、なんですか?」
「アキミチよ。ウルルから話は聞いたが、本当に失った腕はどうにかなるのか?」
ウルトランさんたちの表情は真剣そのものだ。
そこが気になって仕方ないみたい。
でも、気持ちはわかる。
家族の一人が両腕を失ったのだから、気にして当然。
だから、俺は丁寧に答える。
「はい。義手と言って……」
………………。
………………。
それで納得してくれたのかはわからない。
でも、先ほどよりは落ち着いた感じになったので、大丈夫だと思う。
やっぱり、セミナスさんが開発に関わっているというのが決定的だったのかもしれない。
と思っていたら、今度は怖い空気になっていくというか、溢れる怒りがとまらない、みたいな感じになっていく。
「え、えっと……どうされました?」
「………………」
尋ねても、ウルトランさんは答えない。
代わりに、フェウルさんが答えてくれた。
「簡単に言えば怒り。とりあえず、ウルル姉様の両腕に関しては問題ないとわかったけど、だからといって、それで終わりという訳じゃない。今は、そうした魔王……は倒したから、大魔王軍に対してどう料理してやろうか、と考え始めたという訳。まぁ、私やウルアも同じだけど」
確かに、説明してくれたフェウルさんと、ウルアくんからも、なんか怖い気が溢れている。
「……じゃ、俺、次行くんで」
三人から発せられる圧力に耐えられなくて、部屋を出た。
次いで向かったのは、軍事国ネスの皆さん。
普通ならノックを先にするのだが、興味本位というか、扉を少しだけ開けて中を確認。
女王であるガラナさん、その妹であるカリーナさん、軍事国ネス最強のシュラさんが体育座りで並び、窓から遠い空を見ている。
それと、満足そうに頷いている執事のクルジュさん。
またお小言を言われたのだろうか?
しかも、揃って。
そっと扉を閉める。
今は入らない方が良いと判断。
三者の心の回復を待ってからの方が良いだろう。
魔族の国の方を先にする事にした。
で、その魔族の国。
出来れば、ここには来たくないというか、面倒だ。
ロイルさんだけなら問題ないけど、まず間違いなく、あの宰相さんが居る。
ノックをする前に、扉が開けられた。
「お待ちしておりました」
「……いや、来るって言ってないよね」
にこやかな笑みを浮かべる宰相さん。
「そうでしたか? となると、アキミチ様が来ると察せられるくらい、私たちは相性が良いのかもしれませんね」
「それはない」
否定しておく。
効果は薄そうというか、まったくなさそうだけど。
部屋に入ると、ロイルさんが慌ててこちらに来る。
「ア、アキミチ! あ、姉上は本当に無事に?」
そこが気になって仕方ないと、真剣な表情だ。
報告を受けてから気が気じゃなかったのかもしれない。
「ええ、本当に無事ですよ。元気一杯です」
何しろ、シャインさんとやり合うくらいだし。
その言葉に満足したのは、ロイルさんはホッと安堵の息を漏らす。
直ぐにでも会いたそうなので、アドルさんとロアナさんの部屋……じゃないか。
インジャオさんとウルルさんの部屋に案内する事にした。
アドルさんたちはもう落ち着いていたので、そのままロイルさんを室内に放り込み、俺は軍事国ネスに挨拶が済んでいないので、そちらの方に向かう。
もう一度軍事国ネスの方に行くと、ガラナさんたちは無事に回復していて、普通に挨拶を交わす事が出来た。




