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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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間違っていません

 場所を変える。

 インジャオさんとウルルさんを連れて向かったのは、アドルさんとロアナさんが使用している部屋の隣。

 二人には、ここを使用してもらう。


 早速話を、と思ったけど、やはり気になるのはウルルさんの失った両腕。


「あまり気にしないで。勲章みたいなモノだから。それに、これはこれで悪くないのよ? インジャオに付きっきりで世話を焼いてもらえるし」

「いつもとは真逆の感覚で新鮮というか、戸惑いというか……」


 和やかな雰囲気が流れていて、ホッと安堵。

 本当にそこまで気にしていないように見える。

 だからといって、何もしないなんて事はない。


「すみません。義手に関しては、やはりこの戦いが終わってからになります」

「それはわかっているわ。楽しみにしている」


 ウルルさんと笑みを浮かべ合う。


「インジャオさんも、このままウルルさんに付き添ってあげてください。大魔王の方には、俺と詩夕たち、エイトたちにシャインさんであたりますので」

「……すまない。最後の最後で力になれず」

「そう気にしないでください。それに、インジャオさんは無事なように見えるけど、実際はそうでもないんでしょ?」


 といっても、俺の目から見てもインジャオさんは普通そのものに見える。

 そうじゃないと断言したのは、セミナスさん。

 インジャオさんとウルルさんをこの部屋まで案内している時に、セミナスさんから――。


⦅そこの骸骨騎士の骨格の損耗率が激しいです。適度な運動は大魔王軍を相手にすれば問題ありませんので、あとはカルシウムとビタミンDの接種に、今は骨質がオリハルコンですので、その粉末も同様に補充してください⦆


 と言われたのだ。

 実際、そうだと知って見ていると、インジャオさんの動きに若干の違和感を覚える。

 少しぎこちないように見えるのだ。

 無理をしている時があると言っても良い。


 その事を伝えると、インジャオさんが恥ずかしそうに頭を掻く。


「魔王戦の傷のようなモノで、もちろん自分の体の事ですし、自分も損耗はわかっていました。当然、ウルルも。ただ……」


 ああ、そうか。

 これまでなら、ウルルさんがやっていた事だけど、今は両腕がない。


「ウルルに指示してもらいながら自分でやってはみたけど、上手く出来なくて……」


 それは……。


⦅愛の力が足されていないが故に、でしょう⦆


 えっと、そういう事を言っちゃう?

 なんか気恥ずかしいんだけど。


⦅ですが、事実です。それに、その事はそこの二人の方がよくわかっているようです⦆


 インジャオさんとウルルさんの様子を見ると、なんというか甘い雰囲気が醸し出されている。

 ………………。

 ………………セミナスさん?

 別にそういう雰囲気を壊したい訳ではないけど、どうにか出来ない?


 多分だけど、インジャオさんはこのままEB同盟と共にするって事は、大魔王軍との戦いも行うという事だよね?

 あんまり今のままで戦わせたくはないんだけど?


⦅……仕方ありませんね。さすがに全快とはいきませんが、今よりは多少なりともマシになるでしょう⦆


 という訳で、セミナスさんの指示通りに教えていく。

 なんというか、色々と要因はあるようだけど、最も重要なのは時間らしい。

 ウルルさんが実施している実際の時間と体感時間の齟齬が、一番の要因だったそうだ。


「ありがとう。これで少しはまともに動けそうだよ」

「なるほど。時間に違いがあったのか……」


 納得する二人。

 確かに、体感時間って曖昧になりがちだもんね。

 正確性に欠けるというか。


 そのあとは、アドルさんとロアナさんにも説明したが、現状を伝える。


 ………………。

 ………………。


 伝え終わると、インジャオさんは考え込むように顎に手を当て、ウルルさんは難しい表情を浮かべる。


「魔王を倒せば倒すほど、大魔王は強さを取り戻していく……ですか」

「それじゃあ、私たちが魔王ヘルアトを倒したのは早計だったって事?」

「いえ、それは違いますよ、ウルルさん」


 それは違う、とセミナスさんも言っている。


「セミナスさんは、寧ろ先に魔王ヘルアトを倒したのは僥倖だと言っています」

「「どういう事?」」


 もちろん、そこも説明する。


 セミナスさんにとって、魔王一人分の強さが戻ったところで大した問題ではないという事と、本当に魔王ヘルアトを倒したのは、大魔王に挑む俺たちだけではなく、EB同盟にとっても今後のためには必要であった、という事だ。


 というのも、魔王三人の中で知識や知略に長けているのは二人居る。


 魔王ヘルアトと魔王マリエム。


 この二人を比べた場合、相手により大きな被害を与えるのは、魔王ヘルアトの方らしい。

 というのも、魔王ヘルアトは手段を選ばないタイプだそうだ。

 いくつかの取れる手段があったとして、その中に誰もが忌避するような悪質なモノがあったとしても、それが最も効果的であるならば、平然とその手段を選ぶそうだ。


 魔王ヘルアトが生き残っていた場合と倒した場合とでは、EB同盟が受ける被害がまったく違うらしい。


 なので、魔王ヘルアトを倒したのは、EB同盟の今後に良い影響を与える事だったのだと伝える。


「そうか……うん。精神が楽になったよ。ありがとう」


 インジャオさんからお礼を言われる。

 と、そこで、ノック音が室内に響く。


 二人はそのままで、とジェスチャーして、俺が代わりに出る。

 扉を開けて確認すると、そこに居たのはアドルさんとロアナさん。


「話はもう済んだか?」


 アドルさんはそう尋ねてくるが、ロアナさんはどこかハラハラしている。

 落ち着きがないように見えるけど……ああ、そういえば、ウルルさんは元々仕えていたメイドなんだっけ。


 なら、ロアナさんもウルルさんの事は知っているだろう。

 二人の性格を鑑みて、現状に照らし合わせると、二人の仲はきっとよかったんだろう。


 そのウルルさんが両腕を失った事はアドルさんから聞いただろうし、心配していたのは間違いない。

 で、まずは現状を伝えるのが先だと、俺の話を待っていてくれたという事か。


「ええ、終わりましたよ。あとはみなさんだけで」


 アドルさんとロアナさんを室内に入れ、逆に俺は出る。

 こうして四人が揃うのは、アドルさんの国が襲撃されて以来だろう。

 そこに俺が居るのは無粋だと思ったので、自ら退室する。


 扉を閉める直前、ウルルさんとロアナさんの泣き声が聞こえたような気がした。

 どことなく嬉しそうに聞こえたのは、きっと聞き間違いじゃない。

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