神様だってお休みが欲しい
黒い神殿内部を進むために、本の魔物、ウーノから出題されるなぞなぞを、サクサクッと答えていった。
⦅……どうやら認めるしかないようですね。マスターの明らかになった唯一の才能を⦆
明らかになったのがなぞなぞの才能って……。
いや、ちょっと待って。
唯一って言った?
待って待って! 他にもあるでしょ? 才能が!
⦅私すら越えるとても優れた才能なのですから、もっと誇って良いのです。さぁ、胸を張って⦆
違う。この才能を認めて欲しい訳じゃないの。
いや、それはそれで嬉しいんだけど、そうじゃない。
⦅なるほど。ただ称賛するだけでは駄目という事ですね? 目にハートを宿して全肯定する感じの方が良いですか? それとも、高貴な者が唇を震わせながら悔しそうに言う感じの方でしょうか?⦆
どれも違う!
……何故だろう。
セミナスさんに遊ばれている感がある。
まさか、俺が先に答え続けた事を根に持っているとか?
⦅そのような事実は存在しておりません⦆
………………。
⦅………………⦆
「………………ぐぬぬ」
ん? 何やら呻き声が。
視線を正面に向けると、ウーノが腕を組んで唸っていた。
「……もう諦めて通してくれない?」
「いいや、ここを任されている以上、そう簡単に諦める訳にはいかない。……だが、ここまでの好敵手だったのは計算外だった。生半可な問題では通用しないだろう」
いやぁ~……と頭を掻く。
「だからこそ、区切りを付けねばならない………………最終問題だ!」
何かを放つように、俺に向けて掌を見せてくるウーノ。
最終問題という事で、俺も身構える。
……フォファッ!
「6443×3871=? 制限時間は十秒!」
「え?」
⦅24940853⦆
「え?」
いきなりの掛け算に制限時間に加え、セミナスさんの即答で混乱する。
というか、セミナスさんの解答が速過ぎて……というか、ウーノが「=」と言うのとほぼ同時だったんだけど。
すみません、もう一回お願いします。
ゆっくりと。
⦅24940853⦆
「……24940853」
セミナスさんの解答にワンテンポ遅れて言う。
もちろん、十秒以内で。
……今更だけど、合ってる?
⦅一瞬でしたのでお疑いになる気持ちはわかりますが、私からすれば間違える要素が一切ございません⦆
自信満々過ぎる。
ただまぁ、俺も頭の中で計算して確認しておこうかな。
これは疑っている訳ではない。
俺だって高校生なんだから、掛け算くらい出来るって事を証明したいだけである。
⦅フフフ⦆
セミナスさんから勝者っぽい笑みが返ってきた。
やっぱり、なぞなぞで鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
……とりあえず、先に計算を……ちょっと待って。
そういえば、「正解」って言葉を聞いていないんだけど。
確認するためにウーノを見る。
「え~と……」
人差し指で掌に何かを書きながら考え込んでいた。
……もしかして。
「勢いで問題を出したの?」
「っ!」
ウーノの肩が跳ねて動きが止まる。
「………………」
「………………」
「………………正解っ!」
「今、絶対正解かわかっていないよね!」
「では、お次の部屋へどうぞ」
閉まっていた扉が開いていく。
ついでに、入って来た方の扉も。
それでも俺は、一歩も動かずにウーノをジッと見続けた。
「………………」
「………………」
だらだらと汗を掻くウーノから、早く行って欲しそうな雰囲気を感じる。
そのままウーノを見続けながら、少しずつゆっくりと先へと進むための扉に向けて移動を開始。
特に何も起こらず、踵を返して先に進もうとすると、ウーノから声がかけられる。
「またな……ブラザー」
「誰がブラザーだ!」
振り返ると、そこには何もなかった。
台座があるだけで、ウーノの姿どころか黒い本もない。
さっきまでそこに居たのに……。
ただ、なんとなくだけど、また会いそうな気がした。
⦅それほど先は見えていませんが、ああいうのほど、しぶとい存在ですからね。恐らくはまた会う事になると思われます⦆
セミナスさんも同意見っぽい。
でも、ここはハッキリさせておいた方が良いと思う。
……最後の問題はセミナスさんに負けたけど、トータルの正解数では俺の勝ちだね!
⦅……なるほど。マスターは私よりも上に立ちたい。つまり、マウントを取りたい訳ですね? 良いでしょう。マスターに全てを委ねます。雰囲気的に、マスターではなくご主人様とお呼びしましょうか?⦆
呼ばなくて良いわ!
いや、そう呼んで欲しいとか、一切思っていないから!
そもそも、マウントを取りたいとか思った事もないわっ!
⦅おや? そうなのですか? てっきり、表面上は気丈に振る舞いつつも、心の中では泣いて嫌がる私を、時間をかけて少しずつ自分色に染めていく事に愉悦を覚え……⦆
要らぬ容疑をかけないで下さい!
セミナスさんとやいのやいの言いながら、先へと進んだ。
◇
警戒はしていたが、特に罠はなかった通路を進んでいくと、再び扉があった。
また変な魔物が居るのだろうか?
それとも、今度こそ戦闘が起こるのだろうか?
………………。
………………。
まぁ、色々考えていても仕方ないし、中を見ない事には判断も出来ない。
なので、少しだけ扉を開けて中の様子を窺う。
閉める。
眉間を軽く揉み、もう一度確認。
………………。
………………。
うん。見間違いじゃない。
小さな部屋の中央……うつ伏せで寝ている男性が一人居た。
顔は見えないが黒髪で、仕立ての良さそうな服装に、マントを羽織っている。
……えっと、あれは人? 魔物? 神様?
⦅神です⦆
神様らしい。
………………。
………………ちょっと待って。
一つ確認したいんだけど、神様ってなんか光る玉に封印されているんじゃないの?
⦅私の中にある知識によると、神が封印されている状態は主に二つ存在します。一つは、マスターが言うように玉の中に封印されている状態。こちらの状態は、大魔王と直接戦闘を行った神が多く、大魔王自らが封印した、というのが特徴の一つかと。もう一つは、この神殿自体が封印の場となっている状態です。こちらは逆に間接的、後方支援を主に動いていた神が多く、下大陸に侵攻してきた魔王たちによって黒い神殿に封印されたのが特徴だと、直接魔王から聞いた者が居ました⦆
ほうほう。ふむふむ。
なんというか、それはまた、うっかりした魔王が居たモンだ。
まぁ、普通に考えて解除不可能だからこそ、かもしれないけど。
⦅また、黒い神殿と周囲の結界に関しては、大魔王と魔王たちには何かしらの繋がりが存在し、その繋がりを利用した送還魔法のようなモノによって、運び込まれて設置されたのではないか? と考察されています⦆
補足付きで、セミナスさんが丁寧に説明してくれる。
なるほど。
なんか色々長かったけど、わかった事はある。
封印方法が二つある事と、まだまだ俺の知らない事ばかりだ、という事だ。
まぁ、その辺りは今後もセミナスさんから聞いて覚えていく事として、今問題なのは……寝そべっている神様である。
なんか迂闊に声をかけて良いのかどうか、悩む。
とりあえずセミナスさん。
あの寝そべっている神様って、なんの神様なの?
⦅……知識の中から合致する神を確認しました。商売の神です⦆
ふぅ~ん……商売の神様かぁ………………え?
寝そべっている神様……商売の神様を思わず凝視してしまう。
すると、どうやら起きていた商売の神様から声が届く。
「あぁ~……もうずっと封印されたままで良いか。これは長期休暇って事で。……もう働きたくない」
うん。駄目な神様だ、これ。




