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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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当事者しか知らない出来事はいくつもある

 セミナスさんからの説明を聞く前に、やるべき事をやっておく。

 力を封印したとはいえ、青い髪の女性が魔王である事には変わりない。

 それに、つい先ほどまで詩夕たちと戦っていたのだ。


 迂闊に動かれては困るので、誰かに見張ってもらわないといけない。


「お任せー! 歩哨! 守衛!」

「バッチリ! 警備! 監視!」

「話もきちんと聞いていますので任せてください」


 ファイブ、シックス、セブンが率先して動いてくれた。

 この三人なら大丈夫だろう。


 俺を中心に集まってもらい、説明を行う。

 詩夕たちの疲労は相当なので、休んでもらいながらだけど。


 そうして、セミナスさんから聞きながら話していく。

 ……上手く話せればよいけど。


     ―――


 自らを造り出した男性に拒絶され、暴走した結果として、魔王ララはアイオリとエアリーの「特殊封印・神魔封印」によってここではないどこか、何もない空間に封印された。

 その身は、宇宙空間のように漂っているだけ。


 視覚も瞼を開けている感覚はあるが何も見えず、手足を動かしてみても感覚はあるが本当に動いているかはわからない。

 そもそも踏ん張る事も出来ないため、もし端から見る事が出来ても、無重力状態でジタバタしているだけにしか見えないだろう。


 ただ、重要なのは、そこで途絶えた訳ではないという事だ。

 命が。思考が。動きが。


 頭は働き、感覚は残っている。

 それで充分だった。


 封印されている間に、魔王ララは「神造超生命体ハイブリッド・ホムンクルス」という身に宿る超常の力を隅々まで把握する事に努める。


 魔王ララは理解していたのだ。

 いずれ、いつになるかはわからないが、ここから自力で出られるだろうという事が。

 しかもそれは、自らの力を高めていけば、より早くなると。


 何もない空間に封印された状態は、暴走したままだった魔王ララにとって冷静さを取り戻すきっかけとなったのだ。


 そう……この時はまだ、わずかながらも理性は残されていたのである。


 だが、同時に気付く事もあった。

 理性があるからこそ、より際立つ。

 己の中にある、憎しみが。


 造り出された瞬間に拒絶された事で宿った哀しみから発露した憎しみの感情。

 その憎しみを向ける対象がいないために、どこにも向けられる事はなく、封印されている今は大人しい。


 だが、封印から解放され、感情の向く先に指向性が与えられれば……再び暴走するのは間違いない。

 残った理性で、それを理解する。


 ――それは嫌。


 魔王ララは直感的にそう思った。

 冷静さや理性によって、直ぐ暴走してしまったために忘れていた他の感情を思い出していく。

 ここに魔王ララしかいなかった事も幸いしたかもしれない。


 他者の介入や横槍がないため、魔王ララはゆっくりと自分自身と向き合っていく事が出来たのだ。


 そうしている内に、魔王ララの封印は解ける。

 まるで内側から発せられる力を押さえ付けておく事が出来ないように。


 開ける視界に、地に足を付ける感覚。

 魔王ララの視界に映るのは、見知らぬ森の中。

 その事に、魔王ララは安堵する。


 時がどれだけ経ったのかはわからない。

 それでも、己の中で強い感情は哀しみと憎しみなのは変わらなかったのだ。

 拒絶された哀しみは消えないし、癒える事もない。

 憎しみもまた、己を拒絶した人という種の全体に向けられたまま。


 けれど、それで世界を壊したいとは思わなかった。

 世界には人種以外にも存在している生命は居る。

 己の暴走はいずれ世界すら壊しかねないと思っていた。


 だからこそ、封印が解けた今、いきなり人という種に出会って暴走したくなかったのである。

 封印されていた時の中で、魔王ララは世界を壊さないための方法を考えたのだ。

 そのために、人種に対する憎しみを抑え込む。


 いずれ時間の問題で破綻するとしても。


 魔王ララの方法とは、己を完全に抑え込み、一部だけでも力を失う事。

 そのためには、己だけでは駄目だという事だった。


 そうして、魔王ララは己が封印から解かれた事を隠すように、その存在を世に晒さない。

 姿を隠し、痕跡を消し、存在すらしていないように。


 そして、魔王ララは己と同じ存在を造り出す。

 ――神造超生命体ハイブリッド・ホムンクルス


 魔王ララを造り出した男性が記憶させていたのか、造り出すための知識は既に備わっている。

 素材に関しても魔王ララの実力なら問題ないのだが、そもそも揃える必要はなかった。


 何しろ、魔王ララを造り出した男性の研究所は二か所あり、アイオリとエアリーが独自の調査で見つけたのは一か所だけであり、もう一か所は見つかっていない。

 また、研究資料的なモノは双方に共通のモノがあったが、素材の多くに関しては見つかっていない方に残されていた。


 そのため、魔王ララはそれほど時間をかける事なく、神造生命体ハイブリッド・ホムンクルスを三人分造り上げる。


 そして、その三人に己の感情と力の一部を譲渡する事で、魔王ララは己を抑える事が出来るようになった。


 魔王リガジー・フューリーには、魔王ララが初めて体を動かした時に抱いた楽しさの感情と、直接で物理的な「力」を与えた。


 魔王ヘルアト・ディダークには、魔王ララが拒絶された時の哀しみの裏で僅かながら生まれていた人という種に抱く怒りの感情と、間接で精神的な「魔法」を与えた。


 魔王マリエム・オブリズムには、魔王ララが家族とも呼べる三人を造り出した時の喜びの感情と、豊富で緻密な「知識」を与えた。


 魔王ララは拒絶された哀しみの感情だけが残り、「力」と「魔法」と「知識」を失った事で、糸の切れた人形のような無気力状態に近い状態となった。


 ただ、どの感情を与えても憎しみだけは消えず、三人の魔王にも宿る。

 そのため、魔王ララが無気力に近い状態であったとしても、三人の魔王が戦いを起こし、戦争が始まった。


 そして、今に至る。


     ―――


「という過去があったみたい。セミナスさん調査によると」


 最後にそう付け加える。

 話を聞いていた詩夕たち、エイトたち、シャインさんは、飲み込むようにうんうんと頷き、魔王――マリエムは、どうしてそこまで知っている……みたいな驚愕な表情を浮かべていた。


「それはつまり」


 詩夕が確認するような視線を向けてきたので、頷きを返す。


「魔王を倒せば大魔王に分けたモノが戻るみたい。感情もそうだけど、力も。つまり、魔王を倒せば倒すほど、大魔王は強くなって……じゃないな。元の驚異的な強さに戻っていく」

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