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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 詩夕たち対魔王マリエム 5

 詩夕たちと魔王マリエムの戦いは、遂に命の取り合いへと変わっていく。

「勇者」スキルの目覚めによって力を増し続けていく詩夕たち。

 魔王最強である事が事実である事を示す魔王マリエム。


 激戦の様相へと変わる。


 力を増していくのに比例して詩夕の斬撃は鋭くなっていくのだが、それでも魔王マリエムに次の一撃を与える事は出来ていない。

 本気を出した魔王マリエムとの力の差は、徐々に埋まっていってはいるが、まだそこまでに至っていないのだ。


 また、魔王マリエムは反撃も行うようになった。

 詩夕たちの命を奪うために。


「……ふっ」


 樹の拳が回避された瞬間、魔王マリエムの手刀が薙ぎ払われる。

 狙いは樹の首。

 その手刀には魔王マリエムの魔力が宿り、人の首など容易に刈り取る事が出来るだけの切れ味があった。


 一瞬、樹は死を覚悟する。

 別に油断した訳ではない。

 力というのは、ただ高まっていくだけで放置してはいけない。

 存分に振るうためには慣れが必要だ。


 しかし、今詩夕たちの力は「勇者」スキルによって本人の意志のままに上昇し続けている。

 上昇し続けている力に感覚が付いていかない時もあってか、偶に大きなミスをしてしまう場合があった。


 それが、先ほど樹が放った拳。

 簡単に避けられ、自らの命を晒してしまう結果となった。


 だが、そう簡単に命は取られない。

 何しろ、一人で挑んでいる訳ではないのだから。


 手刀の進行を阻止するように現れたのは、剣と刀による二閃。

 詩夕の剣と刀璃の刀が、手刀に向けて放たれる。

 衝突と共に剣と刀の方から、ギィン! と硬いモノと当たった時のような鈍い音が鳴り響き、弾き飛ばされたのは剣と刀の方。


 手刀はそのまま樹の首に向かうが、剣と刀がぶつかった事で若干勢いは落ちた。

 時間稼ぎは出来た、とそこに、下方から常水の槍が振り上げられる。


 鈍い音と共に魔王マリエムの手刀は上方修正され、樹の首ではなく頭部の少し上を通り過ぎていった。


 見事な連携を披露して、詩夕、常水、刀璃は樹の命を救う。

 ただ、これは樹だけに限った事ではない。


 魔王マリエムとやり合っている以上、誰しもが命の危機は常に晒されている。

 だからこそ、誰かの命が狙われれば、他の誰かがフォローに入っていた。

 ここで誰かを失えば、心理的な動揺なども含めて一気に瓦解する可能性が高いという事がわかっているからだ。


 それは当然、魔王マリエムもわかっている。

 それに、詩夕たちの力が増し続けている以上、魔王マリエムは数的不利の状況をこのまま放置する訳にはいかなかった。


 なので、積極的に命を奪う攻撃を放つようになったのだが、それが上手くいかない。

 誰かを狙えば、誰かのフォローが常に入る。


 魔王マリエムの心情からすれば、厄介この上ない、であった。


「………………」


 失敗して、どことなく悔しそうな表情が見え隠れしていた。


 また、このやり取りは、前衛だけに限った事ではない。

 魔王マリエムは最強の魔王というだけあって、遠距離攻撃――魔法も得意である。

 実際、後衛の天乃と水連の放つ魔法を魔法で相殺し、逆に反撃の魔法すら放っていた。


 当然、後衛も誰かが狙われれば、魔王マリエムから放たれた魔法よりも高威力の魔法を放ったり、矢の連射によって威力を大幅に削ったりと、他の者たちが全力でフォローしている。


 もちろん、中にはそれでも、という攻撃はあるが、そういう時は前衛後衛関係なく、全員でフォローし合う。

 完璧な連携の下、詩夕たちは力を増していった。


 けれど、未だ力の差がある以上、魔王マリエムの命を奪ってもおかしくない攻撃の全てを回避、もしくは防げる訳ではない。


 何度かは食らう事になる。

 といっても、全力フォローによって致命傷だけは避けているので、傷付いてはいくが動けなくなるほどではなかった。


 それに、食らうダメージよりも増していく力の方が上なのだ。

 僅かな傷であれば、それこそ身体能力の上昇と共に瞬時に癒えていく。


 そんな詩夕たちの姿を見て、魔王マリエムは皮肉る。


「どちらが化け物だと言いたくなるわね」

「それはこちらも同じですよ。だから、油断もそうですが、慌てるような事も一切しません」


 魔王マリエムの皮肉に、詩夕がそう答える。

 だから面倒なのね、と魔王マリエムは内心で思う。


 詩夕たちは慣れない力の上昇に振り回されないように必死に制御しているため、致命的なまでの隙は出来てない。

 また、どこからでもフォローが入ってくるため、魔王マリエムが詩夕たちの命を奪うのは難しい状況へとなっていく。


 だが、それで魔王マリエムの方が慌てるような事はない。

 魔王マリエムは常に冷静であり、既に先は見えていた。


 確かに、今も詩夕たちの力は上昇し続けているが、同時に別の問題が浮上する。

 それは、体力の問題。

 元々ここに至るまでの間に多くの体力を消費しているのにも関わらず、更に力が増して身体能力が向上し、動きが鋭くなっていけばより体力を消耗する結果となる。


 そもそも、失った体力までは回復していないのだ。

 寧ろ、より激しく消費していっている。

 数的有利、力の上昇と、詩夕たちが魔王マリエムを追い込んでいるように見える状況には、時間制限があった。


 時間がかかればかかるほど、状況は魔王マリエムに有利になっていく。

 そこに数的有利、力の上昇は関係なかった。


 そのため、詩夕たちは体力が尽きる前に、どこかで勝負に出なければならない。

 魔王マリエムもそれは当然理解しているため、その瞬間に対する警戒は怠らない。


 ただ、予想外だったのは……魔王マリエムにとって予想外だったのは、詩夕たちがアイコンタクトを交わしたように見えると、後衛が前に出て来た事。

 しかも、天乃、咲穂、水連総出で。


 その行動に対して、魔王マリエムは意味がわからなかった。

 前衛ほどの動きが出来る訳でもないのに、前に出る意味がわからなかったのだ。

 自殺行為と言っても良い。


 何故そんな行動を、と考えてしまう。

 それこそが狙いだった。


 一瞬であろうとも思考の遮りを起こす。

 それで充分だった。


 一瞬とはいえ思考してしまった事で、魔王マリエムは詩夕たちの行動に対して反応が遅れる。


 それでも体は無意識でも動き、迫る後衛の三人に対して、魔王マリエムの魔法が放たれるが、常水と樹がその身で受けながら防ぎ、三人を無事に魔王マリエムの下へ。


 後衛の三人はそのまま突進し、魔王マリエムにタックルしながらしがみつく。

 タックルによる物理的ダメージはなくとも、三人分の質量をもった攻撃なのだ。

 魔王マリエムの体格では受け切る事が出来ずに倒れ、三人はそのまま魔王マリエムを押さえ込む。


 丁度、三人で魔王マリエムの下半身を押さえ込むような形だ。


「くっ、邪魔ね」


 三人を物理で排除しようとするが、その前に刀璃が突っ込み、魔王マリエムの右腕を押さえるのと同時に、先ほど攻撃を防いだ常水と樹も突っ込み、魔王マリエムの左腕を押さえた。


 拘束された魔王マリエムがその拘束を振り払う前に詩夕が跳びかかり、魔王マリエムの胸部に向けて剣を突き刺すように振り上げる。


 これでやれる、やられるとは双方共に思っていない。

 ただ、間違いなくこのあとに影響する致命傷となるのは間違いなかった。


 そして、詩夕の剣が振り下ろされる瞬間――。


「ストーーーップ!」


 制止の声に反応して、剣先が魔王マリエムに突き刺さるギリギリでとまった。

 詩夕がその声に反応したのには理由がある。


 制止の声をかけたのが、明道だったからだ。

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