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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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反省はしたけど、していない的な?

⦅……アイテム袋の中にある私の体を出してください⦆


 これまで聞いた事のない、重低音ボイスのセミナスさんから、そう指示された。

 もちろん、震える俺に否定の選択肢は存在しない。


 さっ、とアイテム袋の中からセミナスさんを取り出して寝かせる。


「何々? 何それ? 女性体? え? 攫った? 事案? ……でも、アイテム袋に生命体は入らないはずだから……死体? やっぱり事案?」


 予言の女神様がごちゃごちゃとうるさいが、その間にセミナスさんは自分の体に移動する。

 セミナスさんがゆっくりと起き上がった。


「では、きっちりと話をつけましょうか」

「え? えっと……」


 予言の女神様がセミナスさんに対して困惑の表情を浮かべながら、一言。


「どちらさまですか?」


 何かがブチッと切れる音が聞こえた気がする。

 多分だけど、絶対切れちゃいけないヤツ。


「フフフ……マスター、少々お時間をいただきます」

「あっ、はい」


 怒れるセミナスさんに、拒否の言葉はかけられない。


 セミナスさんによる、予言の女神様への説教が始まった。


     ―――


 予言の女神様への説教は聞こえない。

 というより、別の事に集中していた。


 何しろ、現在、この部屋に閉じ込められている。

 ただ一つの出入り口は瓦礫で埋められているので、その瓦礫を撤去しないと、そもそも出る事が出来ないのだ。


 なので、セミナスさんによる説教をBGMに、俺はせっせと瓦礫を撤去して通れるように頑張る。

 チラッと様子を確認してみれば、予言の女神様は正座させられていた。


 しゅん……としているように見えなくもない。

 時折反論はしているようだけど、効果は薄い。

 いや、寧ろ、反論された事を燃料にして、セミナスさんの勢いが増していっている。


 その直後は声の音量が上がりがちなので、少しだけだけど、ハッキリと聞こえてくる時があった。


 聞いているんですか? とか、迷惑をかけた事を反省しているんですか? とか、今がどういう状況かわかっているのですか? とか、そういう普通の時は……まぁ、どちらかといえば気にならない。


 先ほどの印象のままの予言の女神様なら、言われて当然だと思うし、もっと言ってやれと思うからだ。

 なんだかんだ、予言の女神様がもっとしっかりしていれば……みたいな事を思う時が、これまでにもあったからだ。


 でも、セミナスさんのハッキリと聞こえてくる説教の中には、歳を考えてください。どこ需要ですか? とか、未来は読めるのに、空気は読めないんですか? とか、女神プロフィスィってカッコいいと思ったんですか? とか、なんか追い込んでいる言葉もあった。


 もちろん、予言の女神様は反射的に反論していた。

 すると、セミナスさんは罠にかかった獲物を見るように口角を上げる。

 それを見て、予言の女神様はビクつく。


 で、言葉で叩きのめされる予言の女神様だが、セミナスさんの罠の言葉に毎回引っかかっていた。

 ……未来、読めるんじゃなかったのだろうか?


 読む前にセミナスさんが追い詰めているような気がするけど。

 とりあえず、俺には関係ない事だと、瓦礫撤去を続ける。

 体力が回復しきっていないので、瓦礫撤去はどうしても休み休みになってしまう。


 その際にチラッと様子を窺うと、セミナスさんはどこかイキイキとしていて、予言の女神様はしゅんと項垂れていた。


 予言の女神様が項垂れているので、セミナスさんからは表情が見えないだろう。

 ……あの顔は、何かを企んでいる顔だ。

 まだ心は折れていない模様。


 たくましい、と思うか、しぶとい、と思うかは、意見が分かれそうだけど。


 セミナスさんに助言した方が……いや、セミナスさんのあの表情……あれはわかっている顔だな。

 あえて泳がしているのかもしれない。


 で、反撃をしてきたところにカウンターを叩きこんで、更に絶望させるつもりなのかもしれない。

 どうやら、セミナスさんは、予言の女神様を徹底的に懲らしめるようだ。


 ここで、どちらが上かをハッキリさせるつもりなのかもしれない。


 ……どちらにしても見るのは忍びないので、俺は瓦礫撤去を優先する。

 きっと、俺の分もまとめてセミナスさんがやってくれるだろう。


 心が折られて綺麗になった予言の女神様と出会える事かもしれない。


     ―――


 瓦礫撤去は終わった。

 これで、やっと部屋から出る事が出来る。


 同時に、セミナスさんによる予言の女神様への説教も終わった。


「……下級神からやり直したい」


 そう呟く予言の女神様。

 一瞬、あっ、本当に反省したんだ、と思ったのだ。

 でも、結局のところ、やり直しても神様からなんだ、と思う。


 そういうのって、ミジンコのようなプランクトンからじゃ……。


 俺がそう思ったのを敏感に感じ取ったのか、予言の女神様が即座に行動を起こす。


「この度は、解放していただき誠にありがとうございます。また、既に大魔王軍との最終戦に入ったという事もお聞きしました。こんな終盤での解放になるとは私も思っておらず……。ここまでくると大して役に立ちませんが、精一杯頑張らせていただきます」


 土下座のような視線で、予言の女神様は俺に向けてそう言ってきた。

 対比、という訳ではないが、そんな予言の女神様の後方には、やり遂げた表情を浮かべるセミナスさんが居る。


 良い一仕事を終えて、今日は酒が美味いだろうな、とか言いそうだ。


 ……まぁ、予言の女神様に関しては、自業自得の部分もあるだろうし、ここまでの姿を見せられて更に俺が何か言うのは………………ちょっと良心が痛む。


「えっと、まぁ、事情を窺ったのなら、もう終盤の序盤みたいなところには入っていると思うので、あともう少しですから、予言の女神様も一緒に頑張りましょう」

「はいっ!」


 力強い返事は嬉しいが、出来れば顔を上げて言って欲しかった。

 それだけセミナスさんに叩きのめされたという事なんだろうけど。


「それじゃあ、まずは外に出ま」

「お待ちください。その前にやっておく事があります」


 外に出ようとすると、セミナスさんにとめられる。


「やっておく事? 何かあった?」

「マスターの中に戻ります」


 強制だった。

 セミナスさんが俺の中に戻ってきたので、体を回収しておく。


⦅では、マスター。恩恵を得られて結界内でも力を十全に発揮出来るようになりましたので、説教しながら色々調べましたが、急いだ方が良いかもしれません。今直ぐにここから出て、この廃城の最上階にあるテラスに向かってください⦆


 セミナスさんの声には、どこか焦りがあった。

 急いだ方が良いらしいので、予言の女神様と共に部屋を飛び出す。

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