我慢比べは嫌いじゃない
青い髪の女性が放つ拳をかわし、蹴りを転がってでも避け、掴んできそうになると全力で逃げて距離を取った。
何しろ、相手は俺を一撃で倒せるだけの攻撃力を保持している。
回避、防御に全力を傾けた。
でないと、補足されて終わってしまう。
「そんなに恐れなくても良いのではないかしら?」
「いや、それは無理。一発でもまともに食らうとやられるから」
「意外と冷静なのですね」
「褒められているのかな?」
「正直なところはわからないわ。お姉さま以外の人と会った事も話した事もないもの」
そう淡々と告げてくる。
「それに、褒めている可能性は低いと思うわ。私の基準はお姉さま。そして、お姉さまを超える存在は居ないもの」
そう断言されても困るんだけど。
「だから、もし私を懐柔しようとしているのなら、無意味ね」
そんなつもりは一切ない。
だって、そんなつもりがない事は、青い髪の女性の動きでなんとなく察しているからだ。
青い髪の女性の動きは、本当に人形のようだ。
目に見えてわかるカクカクって感じではないんだけど、どこかそういう風に見えるというだけだけど。
でも、だからこそだろうか。
お姉さまという魔王の命令のままに、躊躇いなく相手を殺すと思えた。
これは本当に、やられる前にやらないと不味い気がする。
セミナスさん?
⦅思いのほかやるようです。結界外であれば私の力も万全で、どうにでも対応出来るのですが、やはり結界内だと制限がかけられて難しいです。……まぁ、認めたくはありませんが、そこの人形の強さという部分も関わっています⦆
苦戦は必至のようだ。
ただ、何度かやり合ってわかった事もある。
正直なところ、青い髪の女性の強みは力だけではなかった。
もっと正確に表すのであれば、身体能力が総じて高いという事だ。
何しろ、扉を壊した時も、後ろから出遅れたにも関わらず、俺を追い抜いて壊したのだから。
また、人形らしさが見えるからだろうか?
体力も底無しに思える。
このまま避け続けていても、先にへばるのは俺かもしれない。
となると、勝利の仕方は一つしかない。
俺が動けなくなる前に、相手をどうにかして倒すしかない。
つまり、いつもの事だ。
ただ、そのための方法が思いつかないだけ。
というより、青い髪の女性の攻撃を避けるのに全力を傾けているので、どう倒せば良いのかを考えるのが難しい。
それに割く思考力が足りない。
なので、何か案がある? セミナスさん。
⦅……可能性として、魔王が造り出した生命体であるという事が重要です⦆
どういう事?
⦅私や汎用型、特化型の体には、『仮初の生命石』という重要な核が存在しています。それがなければ、動く事は出来ません。人体で言えば、心臓のようなモノ。それは大魔王、魔王も同様であり、それは目の前の人形も同様です⦆
という事は、それを破壊する事が出来れば。
⦅機能停止。つまり、倒したと言ってよいでしょう。ですが、これには問題もあります⦆
問題?
⦅はい。まず、その『仮初の生命石』がどこに組み込まれているのか、です⦆
心臓みたいなモノなら、胸部じゃないの?
⦅可能性はゼロではありませんが、魔王製ですので、そう素直な場所に組み込むのか? と疑いを持ってしまいます⦆
それはそうだけど、気にし過ぎじゃない?
⦅私もそう思いますが、能力制限で現状だと確認しようがないのです。ですので、様々な可能性を模索する必要があります⦆
えっと、確認出来ないの?
⦅マスターがそこの人形と間近でやり合う状態を維持していただければ、調べる事は可能です⦆
……やるしかないか。
勝たなきゃ、倒さなきゃ、先に進めないのだから。
回避、防御というスタンスは変えない。
ただ、青い髪の女性の近くに居続けるようにするだけだ。
無遠慮に放たれる拳を回避し続け、時には盾を上手く利用して攻撃を逸らし、どうしても受けてしまう場合でも、出来るだけ威力と衝撃を減らすようにして受けて飛ばされる。
大抵の場合、受けるとそのまま飛ばされて、体が壁に強打されている。
ただ、そこでとまる訳にはいかない。
気持ちを奮い立たせて、青い髪の女性が迫る前に一気に前へ。
こちらから距離を詰める。
壁際に追い詰められるのは不味い。
何しろ、青い髪の女性から放たれる攻撃の威力と衝撃を減らすためには、自ら後方に跳ぶという行動が必要なのだ。
攻撃が当たる位置と瞬間をずらす事で、どうにか耐えられているのである。
それが出来なくなると、一気に決められる可能性があった。
それだけの力が、青い髪の女性にはあるのだ。
なので、壁を背後にするのは危険なので、前に出る。
また、青い髪の女性の攻撃は基本的にどれであっても一発KOの可能性があるので、一切気が抜けず、緊張感が続いて精神が摩耗していく。
長時間はやり合えないと判断。
それでも、少しだけ、ほんの一瞬だけど、気を休める事が出来る場面はある。
それは、殴り飛ばされて壁に当たるまでの間。
青い髪の女性は追撃のような事は何故かしてこないので、飛ばされている間だけは休めた。
慣性に身を投げているとも言える。
でも、ほんの少しでも呼吸出来る瞬間があるのはありがたかった。
その代わり、ダメージも受けているけど。
まぁ、青い髪の女性から直接受けているダメージではないため、そこまで大きなダメージという訳ではない。
でも、じわり、じわりとダメージが蓄積していくのを感じた。
このままだと、そう遠くない内に体が限界を迎えて、満足に動く事が出来なくなりそうだ。
それまでにどうにか活路を開けるかは、セミナスさんにかかっている。
⦅もう少しです、マスター。耐えてください⦆
わかっているよ!
セミナスさんを信じて、青い髪の女性と近距離でやり合い続ける。
もう少し……もう少し……と考える内に集中力が増していき、どれだけ時間が経ったのかわからなくなった。
でも、もう問題ない。
間に合ったのだ。
⦅確認、確定しました! 『仮初の生命石』の数が二つ。胸部の左右にあります⦆
さぁ、反撃の時間の開始だ。




