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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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気を付けて進もう

 陽も落ち、時間的には夜。

 こちらの世界には当然のように電灯なんてないので、僅かな月明り星明りを頼りに移動を始める。

 まぁ、その方が好都合だけど。

 でも、懐中電灯くらいは欲しかったな。


 ……いや、待てよ。

 まるっきり一緒なのはさすがに無理だけど、似たようなのは出来ないかな?

 そして、そこから始まる生産チートが――。


「いや、そんなモノ、相手から普通に見つかってしまうではないか。魔物からも良い標的になるだろうし」


 軽い気持ちで提案してみると、アドルさんからそう返答された。

 インジャオさんとウルルさんも、同意するように頷く。


「いや、でも、結構真っ暗ですし、足元が危ないんじゃ?」

「「「……?」」」


 言っている意味がわからないって顔をされた。

 えっと……まさかだけど、アドルさんたちは普通に見えているのかな?

 夜目が効き過ぎているのかな?


 ……なるほど。

 これが異世界クオリティというヤツか。

 どうやら、俺に生産チートは起こらないっぽい。


 項垂れながら、アドルさんたちと別れる。

 その前に、互いの健闘を祈って敬礼!


 俺が向かうのは、もちろん黒い神殿。

 そこで神様解放を行う。

 といっても、前回のような危険も考えられるので、今日は様子見。


 危険があった場合は即座に撤退して、アドルさんたちと合流して相談し、傾向と対策を練る予定だ。

 ……やっぱり、魔物が居るのかなぁ。

 大人しいのを希望。

 もしくは、話が通じるのを。


 ……居ないだろうなぁ、そんな魔物。

 でも、心構えは必要だと思うので、黒い神殿の内部を教えて下さい。セミナスさん。


⦅ご期待に応えられず、申し訳ございません。かなり強力な結界でして、内から外は問題ないのですが、外から内は確認出来ませんでした⦆


 そっか。

 そういう事なら仕方ない。

 結界内に入って確認して貰えば良いだけだ。


 という訳で、こそこそと移動して、さっさと結界内に入る。

 入ってしまえば、この世界の人たちから見られる心配はないので、こそこそする必要はない。

 なので、早速とばかりに尋ねる。


 セミナスさん。この黒い神殿内部はどうなっていますか?


⦅………………申し訳ございません。前回の飛んできた矢のように瞬間的な未来なら読み取る事が可能ですが、その他は難しいです。結界内は、私の力が著しく制限されると覚えておいて下さい。恐らく、結界を張った者の力が私の力を大きく上回って……⦆


 セミナスさんが次々と考察を述べていく。

 その内容が段々と難しくなっていき……訳がわからなくなっていった。

 う~ん……もう少し簡潔に……。


 ……あれ? そういえば、結界内なのにセミナスさんの声が聞こえる!


⦅何を今更驚いているのですか? 前回の終わり、結界内で矢を避けさせるために「百円落ちている」と誘導したのは私ですよ。会話出来るに決まっているではありませんか⦆


 ………………あぁ!


⦅推測ですが、矢が通り、ペテン師が剣を持ち帰った事を踏まえると、この結界は無生物単体には反応しないのかもしれません。逆を言えば、生物、もしくは生物が触れている無生物にのみ反応する可能性があります。さすがにスキルを生物と当て嵌めるのは難しいでしょう⦆


 なるほど。


⦅私の場合は、マスターと体が一つになっている事も関係しているかもしれません⦆


 言い方っ!


⦅ただ、これだけは理解しておいて下さい。私が見ている「未来予測」では、結界内部の動向がわからず、未来が流動である以上、神解放の失敗はこの世界の終わりを意味しますので、結界内部は足元の百円並みのシビアな反応が常に求められます。本当に気を付けて行動して下さい⦆


 本気のトーンだった。

 いや、結界内は、それだけ危険だという事か。

 ……これはアレだな。

 前回を参考にしない方が良いかもしれない。

 基準にするのではなく、上手くいき過ぎたと考えた方が良いだろう。


 ……バチン! と両頬を叩く。

 よし! 気合入ったぁ!


「行くぞ! セミナスさん!」

⦅中で待ち構えている魔物や罠が音に反応する可能性もありますので、今後はなるべく大声を出さないように気を付けて下さい⦆


 ………………はい。気を付けます。

 肩を落としてトボトボと歩く。


⦅即時対応出来るように、姿勢を正して下さい⦆


 はいっ!

 シャン! と背筋を伸ばしてから黒い神殿内部に入った。


     ◇


 一階部分には特に何もなく、前回同様、地下に向かう階段があるだけ。

 ごくり、と喉を鳴らしてゆっくりと階段を下っていく。

 たとえ階段だろうと気を抜けない。

 たとえば、急に段差がなくなって滑り台のようになったり、上から大岩が転がってきたり、と油断してはいけない場所だ。


 ………………。

 ………………特に何も起こらなかった。


 駄目だ。気を抜くんじゃない!

 何もなかったからって安心するな!

 安堵した瞬間の隙を突いた罠を仕掛けているかもしれない。


 ………………。

 ………………特に何も起こらなかった。


 う~ん……俺が警戒し過ぎなだけなのかな?

 ……いや、セミナスさんにも注意されたんだから、これで間違っていないはず。

 うんうんと納得し、そろりそろりと先へと進む。


 別れ道はなく、一本道。

 警戒していたが罠はなく、ほどなくして辿り着く。

 目の前にあるのは、前回も見た扉。

 同じデザイン……だと思う。

 ミノタウロスに壊された印象しかないから確証はないけど。


 ――ごくり。

 扉を前にして、自然と喉が鳴った。


 この扉の向こう側には、きっと恐ろしい魔物が居る。

 これから始まるかもしてない死闘に対して、体が緊張感に包まれて震えた。

 ……恐怖………………いや、武者震いだと思いたい。

 大丈夫……大丈夫……。

 今回は様子見だし、あとで前回のように装備を固めれば良いし、セミナスさんだって付いているんだから、そうそう死ぬ事はない……はず。


 ……すぅ~……はぁ~……。


 大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

 ……よし、行くか!


 中の魔物に気付かれないように、ゆっくりそっと扉を開けて中を窺う。

 ………………右、オールクリア。

 ………………左、オールクリア。

 ………………正面、オールクリア。

 ………………後方、罠発動の気配……なし。

 オールオッケー!


 というか、魔物居ない。

 ……あれ? なんか拍子抜けだなぁ。

 頭を掻きながら室内に入り、改めて確認する。


 小さな部屋という感じ、特に物が置かれてはいない。

 特徴としては、俺が入って来た扉の反対側に同じく扉があるのと、中央に小さな台座とその上に黒い表紙の本が置かれている事くらいだろうか。

 どう考えても、黒い本が怪しい。


 ………………。

 ………………。

 とりあえず、反対側の扉を開け――ガチャン――閉まっていた。

 鍵穴もないし、錠前もないのに閉まっているとは、これ如何に。

 魔法的な何かなのかな?


 となると……どうあってもアレに触れさせたい訳か。

 あの、黒い本に。


 はぁ……と一息吐き、黒い本の前に立つ。

 人差し指をピンと立て、ゆっくりと下ろし……ちょん、と触れて直ぐ離す。

 ………………。

 ………………。

 直ぐに駆け出せる体勢を取っていたが、何も起きない。


「………………う~ん」


 腕を組んで悩むが、答えは既に出ている。

 思い切って、ペラッと本を開く。

 すると、開いた途端に黒い本から黒い煙が立ち昇り、それが筋骨隆々な人型の男性を形作る。

 頭に角があり、上半身は裸で下半身は腰みので、足は煙となって黒い本と繋がっていた。


「ぐはははははっ! 本を開いたな、愚か者め! 我こそ、偉大なる本の魔」


 バタンッ! と即座に黒い本を閉じる。

 煙が霧散して、筋骨隆々の何かが消えた。

 よし。

 くるりと回れ右し、入って来た扉に向かうが――ガチャン――開かない。


「ぐはははははっ! 我からは逃げられないのだ!」


 声に反応して振り返ると、閉じたはずの黒い本が開き、筋骨隆々の何かが再び現れていた。

 俺に視線を向け、不敵な笑みを浮かべている。

 ……どうやら、引き返す事が出来ないようだ。

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