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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 廃城 相対

 詩夕たちとシャインが廃城内を進んでいく。

 目指すは上階から感じられる、圧倒的な気配。

 隠すつもりは一切なく、早くここまで来いと誘っているのではないかと思えるくらいだ。


 ただ、非常にわかりやすい。

 そこを目指せば良いのだ。

 けれど、廃城とはいってもまだ大部分は残っていた。


 廃城周辺にある残骸の町は、大魔王軍の魔物たちが好きに暴れた結果でもある。

 しかし、廃城がまだ形としてある程度残っているのは、ここに魔王が居るからというだけではなく、廃城に滞在していた魔物たちが大人しかったからだ。


 何しろ、ここには魔王が居る。

 下手に暴れて不評を買い、少しでも機嫌を損ねてしまえば、その瞬間に消されてもおかしくない。


 魔王と魔物の間には、絶対的な差がいくつも存在しているのだから。

 それがわかっているからこそ、廃城は残骸とならずに済んでいた。


 廃城内を進む者たちにとって、それが良い事か悪い事かはわからない。

 どちらにしろ、魔物たちに潜伏場所を与えている事に変わりはなく、闇に潜み、襲撃者たちが奇襲を受ける事になるのだから。


 ただし、今回の場合はそうならなかった。

 何しろ、既にもう暴かれているのだから。


「確か、次の次を曲がったところに居るんだったよね?」

「そうだ。意識して気配を探ればわかる」

「まぁ、そこに居るとわかっているからね。気配も楽に探れるよ。確か、天井から襲いかかってくる、だったはず」

「それで間違いない」


 確認のために詩夕は常水に尋ね、教えてもらった情報を確認する。

 二人が言っている通り、そこで魔物が待ち伏せているのだ。

 本来であれば、その魔物は非常に潜伏が上手い、寧ろ特化したような暗殺型だったのだが、潜伏場所が知られてしまい、その上、どのように攻撃してくるのかも知られてしまっている。


 もうどうしようもなかった。

 未だ対抗出来る大魔王、魔王を除けば、セミナスの情報は100%正確なのだ。


 廃城内には未だ魔物が数体残り、詩夕たちはそれらを倒しながら強い気配の下に向かって進む。

 倒しながらには理由がある。


 セミナスの情報を疑っている訳ではないのだが、魔王戦に関する事は100%ではないため、不安要素というよりは、余計なモノを省いておきたいのだ。


 それが廃城に残っている魔物たち。

 詩夕たちとシャインが一直線に魔王の下へ向かい、そのまま戦闘に入る。

 そこで横槍を入れられたくないのだ。


 その可能性が捨てきれない以上、多少面倒ではあるが、魔物たちも倒しておいかないといけない。

 といっても、既に全ての対処法を伝えられているため、詩夕たちを消耗させるような事にはならなかった。


 魔物を倒しつつ、強い気配の下へと向かう。

 上へ。上へ。


 辿り着いた場所は最上階。

 緑溢れる自然豊かな屋上テラスだった。


 まるで世界が変わったかのように、ここだけは違う。

 最上階全てを使用したかのように広く、緑に溢れ、流れる水の音が妙に心地良い。

 大きな窓と、天井にはガラス張りのところがいくつかあるので、陽光もたっぷりと注がれている。


 また、放置されているような状態ではなく、定期的に誰かが手入れを行っているかのように、綺麗で澄んだ場所となっていた。


 詩夕たちとシャインがここに来るまでは、まさに廃城としか表現出来ないような状態であり、 既に滅んだ雰囲気だけしか感じられなかったのだが、ここだけは同じ廃城内であっても明確に違う。


 世界が生きている……生命が溢れていた。


 詩夕たちは雰囲気が唐突に変わった事に対する驚きを隠せない。

 だからこそ、気付くのが遅れてしまった。


 ――丁度、草木の手入れを行っている人物に。


 その人物は詩夕たちの存在など歯牙にもかけないというように、何も反応しない。

 ただ、草木の手入れを行うだけ。


 けれど、詩夕たちが感じ取っていた強い気配は、その人物から発せられている。

 何より、その人物を視界に捉えた瞬間から、シャインは警戒するように視線を逸らしていない。


 詩夕たちも少し遅れながらも、その人物へと視線を向ける。


 その人物は、青い長髪の美しい女性だった。

 人形のように非常に整った顔立ちで、彫刻品のようなグラマラスな体付きに、漆黒のドレスを身に纏っている。


 普通であれば、その女性の美貌に誰しもが見惚れたかもしれない。

 しかし、そうはならない理由がある。


 その女性から発せられる強い気配は、近付けば実際に圧となって誰も近寄らせず、また美貌よりも目を惹くモノがあるからだ。


 それは、その女性の頭部から生えている角。

 捻じれて歪な角に、どうしても目を向けてしまう。

 どういう存在であるかを理解させられてしまうかのように。


「……少し、待ってもらえるかしら? この子の水やりで終わりだから」


 そう言って、その女性は小さなじょうろを使用して、小さな草木に水やりをする。

 その女性が水やりを行う姿は、まるで絵画のようだった。

 小さな草木を見る目からは、優しさ、慈愛を感じさせるからだ。


 その様子だけを見れば、とてもではないが強い気配と圧を発している人物とは思えない。

 しかし、詩夕たちとシャインは今も常に感じている。

 だからこそ、その女性がどういう存在であるかを理解していた。


 ゆっくりと、体に力を込めていく。

 それこそ、いつでも動けるように。

 何が起こっても対抗出来るように。


 しかし、水やりを終えたその女性は、そんな詩夕たちの事に興味などないと背を見せて、小さなじょうろを近くある台座の上に置くだけ。

 急に襲いかかるような事はせず、寧ろ優雅に、煌びやかに振り返って詩夕たちとシャインに視線を向ける。


 とても冷めた目で。


「先ほどから外が騒がしいけれど、それはあなたたちのせいかしら? もしそうならやめてくれない? この子たちが怯えているように見えるもの」


 そう言って、その女性は近くにある木の幹をそっと撫でる。


「……なら、大魔王軍はもう人を襲いませんか?」


 答え尋ねたのは詩夕。

 別に、本当にそうなるとは思っていない。

 ただ聞いてみただけだ。


 事実、その女性の答えは否だった。


「それは無理ね。だって、私が本当の喜びを得るためには、あなたたち人類が滅んでくれないといけないもの」


 言い切るのと同時にその女性の圧力が増し、反応して詩夕たちは身構える。

 その女性は冷めた目と共に冷笑を浮かべた。


「一応、名乗っておくわ。『マリエム・オブリズム』。魔王の一人よ」


 魔王の一人、魔王マリエムとの戦いが始まる。

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