別章 奇襲作戦 中央部
朝日が昇ると同時に、明道たちは行動を開始した。
全員が竜に乗り、魔王が居る廃城に向けて飛び立つ。
そこに、伝令に出ていた竜たちの姿はあるが、女王竜であるミレナの姿はない。
単純に間に合わなったと判断して、行動を起こす。
狙いはもちろん、奇襲。
魔物とて、眠りはする。
寝起きともなれば思考と反応は鈍り、たとえ僅かであったとしても、迎撃に動くまでの時間は稼げるのだ。
時間が稼げれば、より多くの打撃を与える事も出来る。
だからこその奇襲。
夜中の奇襲でないのは、単純に早朝とは違ってこちら側にもデメリットが存在しているからだ。
早朝に奇襲すると決めていれば、それに合わせた行動が取れた。
睡眠時間は、早めに寝る事で解決も出来る。
また、セミナスという存在が居る以上、夜中に何かが起こるかどうかも事前に把握出来てしまうのだ。
何もないとわかれば、ぐっすりと睡眠も取れる。
しっかりとした休息が取れれば、しっかりとしたパフォーマンスを発揮出来るだろう。
しかし、夜中となると勝手が違う。
本日集まって夜中に奇襲となると、満足な休息も取れない上に、何より重要なのは、夜だと視界の確保が難しいという事だ。
明道たちが居た世界とは違って、ここは異世界。
夜でも視界が充分確保出来るほど明るくなるような場所はなく、寧ろ暗闇の方が多いだろう。
もちろん、光源の確保が出来ないという訳ではない。
ただ、暗闇の中で光を発し続けるという事は、目立って仕方ないだろう。
街灯や自動販売機の光に虫が吸い寄せられるように、魔物がその光を目印にして襲いかかってくるのは間違いない。
また、暗闇の中から次々と現れる魔物となると、精神的な疲労も相当なモノとなるだろう。
夜中はデメリットの方が大きいのだ。
だからこそ、早朝の奇襲なのである。
―――
城がポツンと一城だけある訳もなく、廃城の周囲には既に滅んだ町がある。
といっても、正確には既にその残骸だ。
周囲を覆っていたであろう壁は大部分が破壊され、残っている部分はほとんど残されていない。
壁としての役目は果たせないだろう。
それは町の方も同様であった。
既にまともな家はほとんどない。
屋根があるのはまだマシ、と言えるような状態となっており、ただその残骸があるだけだ。
それでも大魔王軍はそこに滞在している。
多くの魔物は、そのような環境など気にもならないと雑魚寝であった。
また、大魔王軍の魔物は、多少なりとも知性を得て統率されていようとも、やはり根本は本能に従うのが多く、規則正しい時間で動いている訳ではない。
それに、言ってしまえば、ここはEB同盟と相対する最前線ではないのだ。
攻められる事など、大魔王軍が動き出してからこれまで一度もなかった。
だからこそ、油断しきっている。
早朝にわざわざ起きているような魔物はほぼ居ないと言っていいだろう。
故に、今まさに攻められようとしている事など気付きもしない。
廃城の周囲にある残骸となった町に、空中から飛来するのはDD、ジース、竜たち。
先頭はDD。
その後方に、ジース、竜たちが横一列に並んでいる。
まるで、編隊を組んだかのように、ぴったりとその位置を維持しながら飛翔していた。
DDたちは速度を維持したまま突き進む。
といっても、早過ぎず、遅過ぎず、だ。
自分たちがこれから行う事に対して適切な速度を維持しつつ、残骸の町の上空まで辿り着いた瞬間、DDたちは口を開いて燃える閃光を放つ。
――竜の息吹。
竜という存在が放つ必殺の一つとして有名だろう。
この世界における竜が放つ竜の息吹は、確かに必殺としての威力を誇り、そこらに散らばる魔物レベルでは、食らえば跡形も残らない。
それは大魔王軍であっても同様であった。
上官クラスであっても、まともに食らえば耐えられないだろう。
そのような輝く息吹が、寝静まる残骸の町に降り注がれる。
しかも、DDたちは空中に留まる事なく、輝く息吹を吐き続けながら進んでいた。
輝く息吹で魔物と共に地表が焼かれていく様は、残骸の町に爪痕が刻まれていくようにも見える。
それはいくつも刻まれた。
DDたちは速度を維持したまま残骸の町を通り過ぎると、旋回して別の場所に竜の息吹を食らわせる。
焼けた地表から立ち昇る黒煙と共に、魔物たちの悲鳴も空へと響く。
完全な奇襲によって、魔物たちはまともに動けない。
起きて目にするのは焼けて絶命した仲間となり、恐慌状態に陥る魔物も少なくなかった。
本能に従って、残骸の町から逃げ出す魔物も数多く居る。
DDたちは、それを追おうとはしなかった。
何しろ、本命は廃城に居るのだから。
そんな中でもまともに動く魔物も居る。
上官クラスの魔物であれば、兵士クラスの魔物に比べて強いため、比較的立ち直りも早い。
そこで、輝く息吹が空中から降り注がれているのを目にし、空へと視線を向ける。
DDたちに直ぐ気付く。
本来なら竜は不可侵。
決して敵対するような真似はしないが、相手に明確な敵意があり、実際に攻められているのだ。
何より、ここは魔王の一人のお膝元。
敵意には、敵意を以って返す。
空を飛べる魔物たちが、DDたちに向けて飛翔する。
確かに奇襲は成功したが、この場の大魔王軍の数はまだまだ多い。
空の一部が、魔物たちによって黒く染まる。
その光景を見たDDたちは次の行動に移った。
息吹を吐きつつ、廃城前へと着地する。
同時に、DDたちの背に乗っていた明道たちが飛び降りた。
「外の魔物共はこのまま私たちに任せておけ。一体たりとも、中には入れさせん。このまま一掃してくれるわ」
明道たちに向けたDDの言葉に、ジースや他の竜たちも、その通りだと頷いたり、親指を立てたりするなど、思い思いの反応を示す。
明道が苦笑と共に答える。
「任せた! ドラーグさんもお願いします!」
廃城へと進入する明道たちを見送ったあと、ドラーグを含めたDDたちは外へと視線を向ける。
「さて、アキミチたちが神を解放して魔王を倒してくるまで、私たちと踊ろうか……大魔王軍。もちろん、お前たちが踊るのは、死の舞踏だ」
DDたちは竜という最強種の力を存分に発揮して、残骸の町に残る大魔王軍を殲滅していく。




