結果的に助かったという事もある
結界の神様を解放し、次は予言の女神様の解放を目指す。
といっても、直ぐに出発はしない。
まずは、きちんと休憩を取らないといけない。
なので、まずは気を落ち着かせるために休む。
でも、休むとどうしてもアドルさんたちの事が気がかりになってしまう。
大丈夫だろうか……結界の神様の解放は間に合ったのだろうか、と。
もちろん、アドルさんたちが負けるとは思っていない。
その上で脅威なのが、大魔王、魔王たちなのである。
結果がわかるまでは、落ち着かないだろうな。
だからだろうか、心を紛らわせるモノが欲しい。
「まぁまぁ、そう急いても仕方なかろう。やるべき事はやった。あとは信じて待てば良いだけ」
ドラーグさんがそう宥めてくる。
確かにその通りなんだけどね。
それでも落ち着かないのも……まぁ、仕方ない事だろう。
と思っていると、エイトたちの視線が俺に集中している事に気付く。
「ご主人様。それはなんですか? 入る前は持っていませんでしたが」
エイトが指し示す先は、俺の手元。
――持っている本に。
「………………あっ!」
そうだそうだ。忘れていた。
「本の魔物。何故か俺を『兄弟』と呼ぶ」
「……ご主人様のご兄弟という事ですか?」
「いや、違う。そもそも種族からして違うでしょ」
「エイトは様々な可能性を否定しません。それこそ、本に封印されたご兄弟という可能性もありましたので」
「それは飛躍し過ぎだし、もう少し否定はしようか」
「ご主人様に関する事は全肯定です」
それは勘弁してください。
という訳で、アイテム袋の中からテーブルを取り出し、その上に本を置いて開く。
開いたページから黒い煙が立ち昇り、それが筋骨隆々な人型の男性を形作っていき、頭に角があって、上半身はムキムキの裸で下半身は腰みのだけの存在が現れる。
眼鏡装備はやめたようだ。
良い判断である。
「我、推参!」
ただ、決め言葉とポーズ付きだった。
許容範囲である。
「外! これが外か! 眩しい! 日差しが眩しい! だが、Fuuuuu! この肌が焼ける感覚! 素晴らしい! これで我も焼けた肌で海に行き、モテま」
パタンッと、本を閉じる。
油断していたんだろう。
抵抗は一切なかった。
外を体感した事で、一時的にテンションがおかしくなっていたのは間違いない。
でないと、本なのに海に行くという発想には至らないと思う。
潮風にやられるよ?
それに、泳ぐ事も不可能だ。
まぁ、動機は不純というか、よくある事らしかったので、泳げなくても問題なさそうではあったけど。
ただ、そんな本の魔物・ウーノの反応が面白かったのだろう。
エイトたちの目が輝いている。
まるで、新しいおもちゃを与えられた子供のように。
………………。
………………。
とりあえず、視線に勝てずにもう一度開く。
「ぷはっ! いきなり閉じるとはひどいな、兄弟」
「誰が兄弟だ」
「わかってるって。兄弟の心の内は。口では否定しても、心の中でどう思っているのか。……我はちゃんとわかっているからな」
いや、まったくわかっていないんだけど。
「それで、兄弟。この、周囲に居る者たちはなんだい?」
……まぁ、今更だからいっか。
エイトたちとドラーグさんにウーノの事を、ウーノにはエイトたちとドラーグさんの事を紹介していく。
エイトたちの反応は変わらない。
新しいおもちゃを目の前にした子供状態だ。
ただ、ウーノの反応は不味かった。
「なるほどな。わかったぜ、兄弟」
「……何が?」
「つまり、こういう事だろ? 優秀である我の知識を、そこの低能な者たちに分け与えれば良いという事だな?」
んな訳あるか。
ただ単に外に連れ出しただけだ。
ただ、俺は何も言わない。
既に行動は起こされたからだ。
『………………』
エイトたちが八方向からウーノの本体である本を掴み、自分の方に少しずつ引っ張っていく。
力も徐々に込められているようだ。
「いや、ちょ、待って! 待って待って! 破ける! 破けるから! もうこの初版しかないのに、破けたら消滅しちゃうから!」
状況の危険性に気付いたウーノが、必死に懇願する。
しかし、エイトたちは行動をやめない。とまらない。
「ワン姉様。火を」
「ああ。最大火力をお見舞いしてやるよ!」
エイトは淡々と言い、ワンは、笑みは笑みだが怖い笑みを浮かべて答える。
他のみんなは、同意するように頷くだけ。
仲の良い姉妹である。
俺はそんな様子を見たあと、ドラーグさんに声をかける。
「ドラーグさん。まだ時間は大丈夫ですかね?」
「うむ? 大丈夫。集合場所までの距離的には、ここが一番近いからな。多少遅れても問題ない」
「そっか。なら、急ぐ必要はありませんね。でも、念のため今後の話を……」
ドラーグさんと今後の相談をする。
「待って! もうちょっとこっちに注目して! 消滅する! 我、このままだと消滅しちゃうから! 兄弟! どうにかし、今ビリッて言わなかった? ちょ、破けた? ねぇ、破けたの?」
「ごめん、今後の事が気になって。それに、何かが破けた音は聞こえなかったけど?」
「え? 空耳? ……いやいや、そんな訳、すみませんでした! 本当にすみませんでした! これ以上はもう本当にヤバいので勘弁してください!」
ウーノがエイトたち一人一人順番に頭を下げる。
エイトたちの動きがとまった。
しかし、ウーノの本体である本を離すまでには至っていない。
ウーノは、このままでは不味いと判断したのだろう。
状況打開案を必死に考えているように見える。
ふと、ウーノと目が合う。
俺に助けを求めるのかと思っていたが……違った。
謝る姿勢は消え、登場時のような態度へと変わる。
ウーノは髪をかき上げるような動きをし、エイトたちを見た。
「……まったく、兄弟も言ってくれればいいものを。全員嫁なんだろ? こんなに選り取り見取りに揃えるなんて、やるじゃないか! 誇らしいぜ、兄弟!」
効果はテキメンだった。
エイトたちは本から手を離し、照れ照れと頭をかく。
ウーノは大きく息を吐く。
助かったと安堵しているようだ。
でも、それは早かったと言える。
⦅燃やします⦆
いやいや、どうしてここでセミナスさんが反応するの?
しかも既に決定事項のように。
⦅そこの本の魔物が言った全員嫁の中に、私が含まれていません。それは許容出来る事ではありませんので、燃やします。もしくは、水に揺れてゴワゴワになるか、全ページのインクが滲んで読めなくなるようにします。もちろん、私が関わっていないようにしますので、問題ありません⦆
俺が既に聞いているし、問題ありだけど?
セミナスさんをどうにか宥めるのに時間がかかった。
でもまぁ、ウーノが魔物だからと討伐されるような事にならなくてよかったと思う。




