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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 一つの決着

 ウルルは、魔王ヘルアトの狙いが自分に向けられた事に気付く。

 魔王ヘルアトは、今までは主にインジャオだけに注意を向けていた。

 注意を向けているという事は、それだけ意識もしているという事。


 なのに、自分に向けられる、様子を窺うような視線と意識が増えたように見えた。

 それに気付けたのは、戦闘中という事で、感覚が鋭敏となっていたため。

 魔王ヘルアトの僅かな変化に、ウルルはこのタイミングで自分にも意識を向け出した理由を考える。


 想定は、元からいくつか考えられていた。

 その中の一つだろうと、直ぐに察する。

 何しろ、魔王ヘルアトが向ける意識の中に、殺意を感じ取ったからだ。


 この状況で殺意を向ける理由など、相手を殺したい。

 つまり、排除したいという事の証明。


 その理由は簡単だ。

 何しろ、現状、どちらが優勢かといえば、インジャオとウルルの方であった。

 数的有利の影響が大きい。


 だからこそ、片方を排除する動きを取るのは当然であり、弱い方を狙うのは最早習慣のようなモノだろう。


 ウルルとしても、自分が狙われるのは納得出来る事であった。


 自分とインジャオの戦闘能力を比べた場合、インジャオが通常のスケルトンであった頃ならまだしも、今のインジャオは総オリハルコン製である。


 速度などの身軽さが関係しているモノならウルルの方が上だが、総合的な部分で比べた場合、今はインジャオの方に軍配が上がるのだ。


 なので、事前にセミナスが伝えるまでもなく、優勢になった場合に魔王ヘルアトが自分を狙うだろうという事を、ウルルは理解していた。


 事前に理解していたという事は、覚悟も固められるという事。


 ウルルは既に、ある種の覚悟が出来ていた。

 それはインジャオの方も。


 二人は目配せで思考を統一し、行動に移す。


 魔王ヘルアトの意識が自分に向けられた事を利用し、ウルルはより自分が狙われるように動いていく。

 当然、そのように動けば、魔王ヘルアトもより意識を向けてしまう。

 無意識化でも。


 その事を上手く使い、ウルルは魔王ヘルアトを望んだ形に誘導していく。

 魔王ヘルアトも誘導されている事には気付いていたが、それでも流れに逆らわずに身を流していたのは、それもまた望んだ状況だからである。


 奇しくも双方が望んだままに、ウルルは魔王ヘルアトと一通りの攻防を行ったあと、魔王ヘルアトは地に倒れ、その上からウルルが押さえ込む。


 ウルルは、魔王ヘルアトの身動きをとめるために。

 魔王ヘルアトは、ウルルが少しでも動きをとめる瞬間を得るために。


 望んだ形となった瞬間、魔王ヘルアトは笑みを浮かべる。


「この瞬間を待っていた。インジャオなら耐えられたけど、キミはどうかな?」


 自身を掴んでいるウルルの腕に触れる。


「『怒りと共に猛り 激怒と共に猛り立ち 憤怒と共に猛り狂う 炎怒エンド』」


 ウルルの脳裏を過ぎるのは、インジャオの全身を包んだ炎の柱。

 瞬間的に芽生える恐怖を押し殺し、ウルルは留まり、魔王ヘルアトを掴む力を更に込める。

 まずウルルの腕が、魔王ヘルアトが触れた部分から燃える。燃え尽きる。


 激しい痛みに耐えながら、ウルルは笑みを浮かべる。


「も、元より」

「ん? 何かな?」

「元より! あんたを倒すのに五体満足で終わる気なんて、さらさらないから! 遠慮はしないで!」


 ウルルが叫ぶ。

 魔王ヘルアトは意味がわからなかった。

 途中までは言っている意味がわかっていたが、最後の「遠慮はしないで」で困惑する。


 元から自分は遠慮していない。

 なら、自分以外の誰かに向けてという事になる。

 そして、この場にはもう一人居て、その一人に向けられた事に気付く。


 ――遠慮しないで。


 つまり、燃えている自分の事は気にするな、という事に、魔王ヘルアトは気付くがもう遅い。


 ウルルが魔王ヘルアトを押さえつつ、上半身を大きく逸らす。

 開けた視界で、魔王ヘルアトは見た。


 インジャオが迷いなく飛び出すように現れ、大剣を横薙ぎに全力で振る姿を。

 大剣は綺麗に振り切られ、ウルルの燃える両腕ごと、魔王ヘルアトの上半身と下半身を分断する。


「ぐっ」


 ウルルから苦悶の声が漏れるが、残り火で切り口が燃え焦げて失血する事はなかったが、瞬間的な大きな痛みに耐え、やるべき事を行う。

 そのまま後方に倒れながら、魔王ヘルアトの下半身を無理矢理蹴り飛ばす。


「やるべき事を!」


 ウルルが絞り出すような声を上げた。

 その声に反応したインジャオは、魔王ヘルアトの両腕を斬り落として遠くに飛ばし、ウルルを抱き抱えて魔王ヘルアトから距離を取る。


 インジャオは魔王ヘルアトから目を逸らさずに、ウルルに向けて口を開く。


「……大丈夫?」

「うん。大丈夫……ちゃんと生きているから」

「両腕は……」

「だから、気にしないで。魔王と戦うんだから、五体満足で終わらない方が当たり前。両腕で済んだのなら、寧ろ儲けもの、でしょ?」


 ウルルは、既に黒焦げ、炭化して砕けていく自身の両腕を見る。

 最早再生は不可能だろう。


 もし今インジャオに肉体があり、表情が見えるのであれば、痛ましい表情となっていると思われる。

 何しろ、この世界に、欠損部位を生み出すような回復薬や魔法は存在していない。


「セミナスさんが言っていた、アキミチたちの世界にある、義手ってのを用意しないとね」

「それまで、自分がウルルの両腕の代わりになるよ」

「……それは困るな。一生義手が要らないと思っちゃうから」


 さすがのセミナスも、現状ではそうなった場合の回復は不可能だと判断し、だからこそ、義手や義足の情報を伝えたのである。


 インジャオと共にウルルもその事は聞いており、ウルルはインジャオに向けて、全てを包み込むような優しい笑みを浮かべる。


 それこそ、愛しい者だけに見せる表情を。


 だが、インジャオとウルルの会話は、唐突に打ち破られる。


「ハ、ハハ……ハハハハハッ! あ~、なるほどなるほど。数的有利なだけじゃなく、自己犠牲精神ありありだった訳か。ハハハッ!」


 魔王ヘルアトの笑い声が響く。


「あ~あ、さすがの僕も、ここまで損傷して、体の部位を離されちゃったら、くっつける事も出来ないかな。負けかぁ~」


 インジャオは元よりだが、ウルルもまだ戦意を切らしてはいけないと、表情を引き締めて魔王ヘルアトを見る。


「まぁ、リガジーはそう簡単にやられないだろうし、僕たちは魔王だ。そう戦力を割けられるとは思えない。まともにやり合える数も限られているだろうしね。となると、まず戦っているのは僕とリガジーだけ。つまり……僕だけが負けた可能性がある訳か。まさか、こんな結果になるなんてね」


 そこでインジャオとウルルは気付く。

 魔王ヘルアトは口を開いてはいるが、自分たちに向けられていない事に。

 まるで独白のようだ、と。


 けれど、それは今までで、次の瞬間には魔王ヘルアトの意識はインジャオとウルルに向けられる。


「どうやら、キミたちの頭脳は、僕たちの事を完全には理解していないようだ。じゃないと、僕たちを先に狙う訳がないからね」

「「………………」」


 インジャオとウルルは答えない。

 別に魔王ヘルアトに対して開く口を持っていない訳ではなく、言っている事の意味がわからなかったからだ。


 だが、魔王ヘルアトは、二人が抱く疑問に答える気はなかった。


「まっ、これから精々後悔すれば良いよ。……ごめんね、ララ。僕じゃあ、怒りを消す事が出来なかったよ」


 後悔するような言葉を言い残したあと、魔王ヘルアトは動かなくなった。

 インジャオとウルルが見つめる中、魔王ヘルアトの体は、斬り落とされた部分も含めて、あっという間に砂状へと変わり、風に吹かれるまま空へと舞って霧散していく。


「……勝った、んだよね?」

「……自分たちの勝利です。少なくとも、この戦いは」

「なら、大剣を置いて、両手で抱き締めて欲しいかな。インジャオを強く感じたい」

「ええ、自分もウルルを強く感じたい」


 インジャオは大剣を置いて、両手でウルルを抱き締めた。

 ウルルは甘えるように、自分の体をインジャオに擦り付ける。


 互いが、自分の存在を相手に伝えるように。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん。すっきりしないなぁ… 勝ったのは勝ったけど…まぁ、これもある意味wktkですな!
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