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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 再会

「……漸く……漸く迎えに来る事が出来たよ、ロアナ」


 アドルが愛おしそうにロザミリアナの愛称を呼ぶ。

 視線はロザミリアナに固定されていて、他には向けられていない。

 漸くここまで来る事が出来たと、アドルの胸中にはこれまでの様々な思いが去来する。


 満身創痍の体をゆっくりと引きずりながら、アドルは玉座へ……ロザミリアナのところに向かう。


 が、唐突に側面から衝撃を受ける。

 軽く押すようなモノではなく、攻撃性の高い衝撃であったため、アドルは耐える事も出来ずに吹き飛び、床の上に転がる。


「……な、何が」


 元々魔王リガジーとの戦いで全てを出し尽くしていた上での攻撃性の高い衝撃を受けたのだ。

 今の衝撃で、アドルの体は更に満身創痍となった。

 それでも辛うじて体を起こせば、そこに居たのは鳥型の魔物。


「な、なんだ」

「け、けひ、けひひひひっ!」


 鳥型の魔物は高笑いを上げる。

 ひどく興奮しているように見えた。


「リガジー様……いや、リガジーを倒した者を、俺が……この俺様が倒す! つまり、これで俺様もリガジーと同格……いや、更に上の存在という訳だな! けひひひひっ!」


 鳥型の魔物は、獲物を見るように、欲に濁った目でアドルを見ていた。


 この鳥型の魔物は、元々謁見の間の中に居た。

 立ち去る前にアドルが現れ、アドルと魔王リガジーとの戦いが始まり、その激しさで出る事も出来ずに、隅っこの方で縮こまっていたのである。


 そのおかげで生き残れたともいえる。

 下手に介入、もしくは動きを見せれば、即座にやられていたかもしれない。


 しかし、幸運とでもいうべきか、鳥型の魔物はアドルと魔王リガジーの戦闘が終わるまで無事であり、魔王リガジーは消え、あとに残されたのは、傷付いて満身創痍の弱々しく歩くアドルのみ。


 鳥型の魔物は、そこまで大した力は持っていない。

 その代わりというべきか、頭はそこそこ回っていた。

 だからこそ、魔王リガジーの秘書のような役割を行っていたのだが、状況を見て、頭を回して、絶好の機会である事を悟る。


「けひひひひっ! これで出世間違いなし! 力だけの馬鹿に気を遣う必要もなくなる!」


 鳥型の魔物がアドルに襲いかかる。

 対するアドルは満足に体を動かす事が出来ないが……世の中、そう上手くはいかない。


 魔王リガジーの開けたから、二つの影が飛び出してくる。

 それは、詩夕と常水。


 二人は即座に周囲の様子を窺って状況を理解すると、行動を起こす。

 空中である以上、取れる身動きは限定される。

 地上に降りてからでは間に合わない。


 二人は目を合わせてアイコンタクト。


 詩夕が常水の肩に手を回して体を払う。

 その勢いを利用して、常水が回転。

 野球のバットを振るように槍を振り、その槍を足場にした詩夕が振られる勢いで跳ぶ。


 タイミングは完璧で、詩夕は弾丸のように跳んでいき、すれ違いざまに鳥型の魔物を斬り伏せる。

 床に着地すると同時に、詩夕はアドルの下へ。


「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……すまない。助かった」


 傷は大きく負っているが、詩夕は無事な様子にホッと安堵の息を吐く。

 鳥型の魔物の方に視線を向ければ、常水が状態を確認していて、大丈夫だと頷きを返す。


「かなりやられていますけど……あの鳥の魔物が魔王だったんですか? 確か、赤髪の筋骨隆々って聞いていますけど」

「いや、そこのは魔王とやり合って消耗した私を狙ってきただけだ。魔王の方は……」

「ここに他の姿はありませんけど、倒したんですか?」


 詩夕がキョロキョロと謁見の間の中を確認する姿を見て、アドルは一つの結果を悟る。


「そうか。出会わなかったか」


 城が揺れるような衝撃や耳に届く破壊音がなかった以上、大きな戦闘は起こらなかったと言える。

 恐らく、魔王リガジーは逃走を成功させたのだろう、と。


 詩夕が不思議そうな表情を浮かべる。


「どういう事ですか?」

「魔王は逃げた。私に敗北したと、わざわざ告げてな」

「……逃げた」


 詩夕の目が床の穴に向けられる。


「その様子だとやはり出会わなかったようだな」

「そうですね。聞いていた特徴に合うのには会っていません。僕たちは城内の魔物を一掃したあと、二手に分かれて警戒を続け、大きな破壊音が聞こえたので、ここの下に来たら穴が開いていたので、そこに飛び込んだ訳です」


 まぁ、結果として、飛び込んでよかった、と詩夕は笑みを浮かべる。


「そうか。だが、そのおかけで本当に助かった。魔王との戦いは全てを出し切る戦いだったので、そこの魔物にも抵抗出来なくてな……命の恩人だな、キミたちは」


 アドルの言葉に、詩夕と常水はどこか誇らしげだ。


「すまないが、立たせてくれないか?」

「はい」


 詩夕の肩に手を回して、アドルは立ち上がる。

 その際、多少よろけてしまうのも仕方ないだろう。


 詩夕はしっかりとアドルを支える。


「ロアナの……彼女の下へ」


 誰の事を指しているのか、詩夕は直ぐにわかった。

 何しろ、この謁見の間の中で最も目に付くのは、氷漬け状態のロザミリアナだろう。


 ゆっくりと向かうアドルと詩夕。

 常水は、念のために周囲を警戒していた。


 氷漬けのロザミリアナの近くまで辿り着く。


「……これは、生きているんですか?」

「もちろん。生きている」


 詩夕の問いに、アドルはハッキリと告げる。

 映画とかのコールドスリープみたいなモノかな? と詩夕は思う。


 アドルは詩夕の肩に回していた腕を解き、ゆっくりと自ら歩いていく。


 手を伸ばして、氷にそっと触れる。

 あの日、あの時、アドルが最後に見た姿のまま、ロザミリアナは凍り付いていた。


「……ロアナ」


 呟きと共に、アドルは自身の口元や傷から血を拭い、氷の表面に文字を描いていく。


「それは?」


 詩夕の問いに、アドルは笑みを浮かべて答える。


「ロアナを氷漬けの状態から救うために、元から色々調べていた。既にその方法は解明していたが、ここに来るまで一番の問題だったのだ」


 そして、その問題は解決した、とアドルは文字を書き終わる。

 それは古代文字で、言語理解系のスキルを持つ詩夕でも読めなかった。


 同時に、アドルが瞑想するように目を閉じ、言葉らしきモノを紡いでいく。

 その言葉も詩夕は聞き取れなかったが、おそらく古代文字の部分を言っているのだろうと察する。


 アドルの紡ぐ言葉がとまる。

 同時に、古代文字が書かれた部分から氷に亀裂が走り、全体まで亀裂が入ると一気に割れた。


 砕けた氷がキラキラと輝く中で、ロザミリアナはアドルの姿を視界に捉えると笑みを浮かべる。


「……ロアナ!」

「アドル!」


 砕けた氷の輝きはまだ失われず、幻想的な光景の中、互いの存在を確認するように二人は抱き締め合った。

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[良い点] (´;ω;`)言葉はいらぬ………ズビッ
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