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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十三章 大魔王軍戦
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別章 EB同盟 上大陸西部 3

 上大陸西部にある大魔王軍の拠点の一つ。

 平原に作られた簡素な拠点は、EB同盟による先制攻撃を受けて後手に回っていた。


 魔物の叫びが周囲に響く。

 だが、その叫びに返されるのは別のところからの叫び。

 優勢なのは、EB同盟であった。


 その事を証明するように、大魔王軍は既に瓦解している。

 いたるところで魔物の叫びが響いているが、それを聞き届ける者が居ないのだ。

 ここに集結していた大魔王軍において、他の魔物に指示を出せる魔物、上官クラスの魔物は早々に倒されたのだ。


 故に、大半の魔物は叫んでいて、その叫びは指示を願うような意味も込められているのだが、その願いは既に届かない。


 早々に上官クラスの魔物を倒したのは、何人も居る。

 その先駆けとなったのは、軍事国ネス所属の強者。シュラ。


「次! 次! 次! 次! 次!」


 シュラだけが使え、シュラの力に唯一耐えられる超硬質棍棒の一撃は、非常に強力であった。

 元々シュラの力は物理的に強い。

 普通の武器ではシュラの力が強過ぎるが故に、耐えられないのだ。

 直ぐに壊れてしまう。


 けれど、超硬質棍棒はそんなシュラの全力に耐えられる。

 また、全力に耐えられるという事は、武器としての威力だけではなく、シュラの力も加えて相手に与えられるという事。


 簡単に言えば、シュラの振るう超硬質棍棒は、一撃で必殺の威力を有しているのである。

 だからこそ、対集団におけるシュラはまさに一騎当千であった。


 先行して進み、一人敵陣に突っ込もうが関係ない。

 一振りで数体の魔物を戦闘不能にする。

 無理に倒す必要はなかった。


 超硬質棍棒が当たれば、その結果で死を逃れようとも、骨は折れ、弾き飛ばされる。

 そのあとで、まともに戦闘が出来るような状態ではいられなかった。

 また、そこにシュラの後追いのような形で、EB同盟軍が来るのである。


 シュラをいう強固な一突きが楔となって、その周辺部分は一気にEB同盟の進攻を許す事になるのであった。


 そうして、シュラは先頭に立って大魔王軍を蹴散らしていくのだが、それだけではない。


 シュラは戦闘において天然と言うべきか、深く考えて行動をするタイプではなかった。

 戦略や戦術を用いない。

 ただし、その代わりとでも言うべきか、五感が優れていた。

 周囲から見れば、一種の天才肌である。


 しかも今回の場合、上官クラスの魔物を的確に見抜いていたのだ。


「……見つけたっ! 強そうなの!」


 シュラが嗅ぎ分けるように鼻をひくひくと動かし、上官クラスの魔物を見つける。

 ただ、シュラとしては、周囲の魔物よりも強いのを探り当てていたのだ。


 そして、それは正しい。

 大魔王軍は実力至上主義の縦社会。

 大魔王、魔王たちという他の魔物とは違う隔絶した強さを持つ者が頂点に居るのだ。


 自然と強い者が上に立つシステムが出来上がった。

 別名。弱肉強食。

 理性ではなく本能に引かれる傾向にある魔物であれば、こうなるのは自然の摂理だろう。


 だが、それが災いした。

 強者を見抜くシュラからすれば、ただ強い者を選んで倒していくだけで、大魔王軍が勝手に瓦解していくのだ。


 大魔王軍の魔物からすればシュラは畏怖の対象となり、敵という事もあって本能に従い恐怖して萎縮する。


 そこに追い打ちのEB同盟が参戦していく。

 本来であれば、人の数倍は強いはずの魔物であっても、そのような状態であっては本来の力は発揮されず、次々と打ち倒されていった。


 そうして更に勢いづくEB同盟。

 勢いは大きな力である。

 その勢いを生み出した張本人であるシュラは、自分が勢いの元になっている事に気付かない。

 いや、気にしない。


 ただ、強そうな魔物を倒すだけだ。


     ―――


 そんなシュラに向けて憧憬の目を向ける者が居た。

 獣人国の王子、ウルアである。


 大魔王軍を相手に大剣で斬ったり、弾き飛ばしたりしつつ、ウルアはシュラの様子を見ていた。

 それでもきちんと魔物を仕留めている辺り、ウルアの強さを示しているだろう。


 そんなウルアの様子に、同じく大魔王軍と戦っていた姉のフェウルが気付く。


「うわっ! なんですかその目! え? 何を見ているのですか?」


 フェウルがウルアの視線を追って確認。

 丁度、シュラが上官クラスの魔物を超硬質棍棒で、弾き飛ばしているところだった。

 ホームランのような弾道を描いている。


「……なるほど。あの力……やり合ったら楽しそうね」


 フェウルもうっとりとした視線を向ける。

 純粋に戦闘欲求であった。


「あの人、獣人じゃないのに、すごい身体能力ですね。戦えば学ぶ事が多そうです」

「そうね。同意見。それに、戦闘勘を優れているように見える。それこそ、ウチら獣人よりも感覚的に戦っていそうなくらい」


 シュラの戦いに、ウルアとフェウルは感心するように言葉を続ける。


 そんな二人の直ぐ近くでは、獣人国の王、ウルトランが魔物を殴り飛ばして二人に視線を向ける、という行動を何度も取っていた。

 しかし、ウルアとフェウルは気付かない。


 だからこそ、ウルトランは行動に移る。

 上手い具合に、機会チャンスは直ぐ訪れた。


 周囲に大魔王軍が居るからこそ、取りこぼしは存在する。

 単純に見逃してしまったり、倒し切れていなかったりと、理由は様々。

 そんな一体が、ウルアに向けて襲いかかる。


 タイミングを見計らっていたウルトランは颯爽と現れ、ウルアを守るためにその魔物を倒す。


「大丈夫か? ウルア」

「……別に、対処出来ましたけど?」


 事実、ウルアも強い。

 対処が出来ていたという言葉に嘘はなかった。


「いや、その」


 一方、狙いを見透かすようなウルアからの視線に、ウルトランはたじろぐ。

 そこにフェウルも参加。


「陛下。ウチたちに気を遣うのも良いですけど、出来れば今はもっと前に出て戦っていただけませんか? 軍事国ネスのシュラ様のように」

「そうですね。その方が獣人国としても助かります」


 フェウルの言葉に同意するウルア。

 実際、二人の判断は冷静に下されたモノであり、ウルトランにもシュラのように先頭に立って戦って欲しいという思いがあった。


 なんだかんだいっても、二人の中で父親であるウルトランこそ最強なのだ。


 しかし、そんな思いを知ってか知らずか。


「ちくしょー!」


 ウルトランは泣きながら、シュラと同じように先頭に立って戦い始める。

 ただ、この行動で獣人国所属の者たちは活気付き、更に勢いは増していく。


     ―――


 一方、出遅れた者も居た。


「ロードレイル様。結局出遅れたままになりましたね」

「……手柄を譲っただけだ」

「まぁ、戦いはここだけではありませんしね」

「………………」

「さすがに次はお願いしますよ? 国のためにも」

「わ、わかっている」


 別に戦っていないという訳ではないが、シュラとウルトランの勢いが強過ぎただけである。


     ―――


 それからしばらくして、この平原での戦いはEB同盟の勝利で終わる。

 ただこれはいくつもある戦いの内の一つでしかなく、決戦となる戦いの初戦を勝利で飾っただけに過ぎない。


 EB同盟西部側の進攻はまだ続く。

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